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 普段のシャルロッテは、メイが起こしに来る前に目覚めていることのほうが多かった。前日に夜遅くまで調べ物をしていたり、多忙を極めて疲労困憊な日は、メイがノックする音で起きることがあったが、ごくまれだった。

 その日、いつもよりも遅い時間に目が覚めたのは、カーテン越しに差し込む光の加減で分かった。婚約破棄の一件が、自分で思っている以上に精神的な疲労になっているのだと気づいて唇を噛む。いくら体は疲れていないから大丈夫だと思っていても、心は正直だった。

 メイがノックをした音にも気づかなかったらしい。そんなことは、今まで一度もなかった。


(気を使って、起こさないでくれたのかしら?)


 早く支度をしないとと起き上がり、ドアの前に立つメイドの影にビクリと肩を震わせる。


「あ、シャルロッテ様おはようございます」


 予想もしていなかった低い声に、まだ光になれていない目を強くつぶり、ゆっくりと開いた。

 ふわりと広がるスカートは長く、ふくらはぎまで隠している。その先の足元は白いタイツで隠され、光沢を持った黒い靴が足先を覆っている。真っ白なエプロンは裾にコルネリウス家の家紋が刺繍されており、肩口には控えめなレースがあしらわれている。丸く膨らんだパフスリーブと、長い黒髪が広い肩幅を誤魔化しており、一瞬だけ背の高い女性のようにも見える。


「……パーシヴァル、あなた何をしているの?」

「何って、お仕事ですよシャルロッテ様。メイドのお仕事をしますって、言ったじゃないですか」

「言って……なかったわけではないけれど、でもまさか本当にメイドの真似事をするなんて思わないでしょう?」

「有言実行をよしとしていますので。あと、真似事ではなくてきちんとやってますよ」


 朝から廊下の掃除をして、窓もすべてピカピカに磨いたのだと誇らしげに言っているが、そう言うことではない。

 起きて早々疲労感に包まれるが、聞かなくてはいけないことがあった。


「メイはどうしたの?」

「洗濯の件でマンフレットさんに呼ばれて、代わりにベルタさんがシャルロッテ様を起こしに行くことになったのですが、調理場に呼ばれてしまい、代わりに私が参りました」


 ベルタはコルネリウス家のメイド長で、面倒見がよく気さくな人柄から他のメイドたちに慕われていた。いつもは思慮深く聡明なのだが、突発的なパニック状態に陥ると突拍子もないことをする時があった。

 例えば、メイド服を着た男をお嬢様の寝室に単独で向かわせてしまうような。


(それにしてもパーシヴァルがメイ以外の使用人に敬称をつけるなんてね……)


 それがパーシヴァルの本気具合を示しているようで、シャルロッテの頭が痛くなってくる。


「とにかく、一度出て行ってもらえるかしら? 着替えをしたいから」

「お手伝いしましょうか?」


 何ら下心のない無邪気な笑顔を向けられ、シャルロッテのこめかみがピクリと震える。

 衝動的に枕を掴んだものの、それを彼に向けて投げつけなかった自分の理性を、誉めてあげたかった。

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