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 パーシヴァルの言葉がすぐには理解できず、シャルロッテは数度瞬きをすると目を伏せた。

 はっきりとした口調や、先にクリストフェルを返したことから、ここに住むと言うことは彼の中では確定事項だったのだろう。さしたる抵抗もせずにコルネリウス邸を後にしたクリストフェルもまた、パーシヴァルがここに残ることを容認していたはずだ。


「はあ? ここに住むって……あなた、王の付き人でしょう?」

「クリストフェル王の了解は取り付けてますよ」

「まあ、あなたがいなくても護衛は何とかなるかもしれないけれど……」

「王都騎士団は優秀な騎士が多いですから」


 アーチボルトを含めて。そう言いたげな口調に、ハイデマリーがプイとそっぽを向く。ほんのりと赤く染まった頬を見られないように髪で隠すが、緩む口元までは隠し切れない。下手に口元を引き締めようとしたせいで、酸っぱいものを食べたときのように不自然に窄まっている。


「ヴァルがいなくてもクリスが大丈夫なのは分かったけど、シャリーのところに住むのはなんで? もしかして、婚約破棄がなくなったの?」

「もしも仮に婚約破棄が無効になったんだとしたら、それこそパーシヴァルがここに残る理由がないわ。……婚約が破棄される予定だからここに残る。そうよね?」


 パチパチと、乾いた拍手の音が茶室に響く。

 にこやかに手を叩くパーシヴァルとは対照的に、ハイデマリーは険しい表情をしていた。


「さすがはハイデマリー嬢、聡明でいらっしゃる。クリストフェル王とシャルロッテ様の婚約は、半年後には破棄される予定です」

「半年の猶予を設けたのは、監視のため?」

「それだけが理由ではないですよ」

「ちょっと待ってよ! なんでヴァルがシャリーを監視するの? シャリーは婚約破棄された側だよ? 被害者だよ? 何も悪いことしてないじゃん!」

「被害者だからですよ、シルヴィ嬢。シャルロッテ様は、何の落ち度もないのに婚約破棄を言い渡されたのです。ちょうど、エリザ嬢と同じように」


 エリザ聖戦の際、王側についたコルネリウス伯爵家とハイデマリーのロックウェル子爵家の被害は軽微で、終結後にも何の咎も受けなかったが、エリザ側についたシルヴィのマールヴェル男爵家はそうではなかった。もっとも、その当時マールヴェルは子爵だったが。

 マティルダ女王の寛大な措置により、爵位こそ取り上げられることはなかったが、降下させられ一部の土地を失った。エリザ聖戦により、マールヴェル子爵は六人いた子供のうち四人を喪い、まだ幼く戦場に立つことが出来なかった末弟とすでにマールグリッドに嫁いでいたご令嬢だけが残された。その令嬢も、リーデルシュタインとのもめ事を嫌った先方から離縁させられ、その後も良縁に恵まれず、流行り病で短い生涯を閉じた。

 マールヴェル家にとって、エリザ聖戦は苦い歴史の一ページなのだ。


「でも、シャリーはエリザとは違うでしょう? それに、今はあの時とは違ってシャリー側から婚約破棄することだってできるし!」

「先王が崩御してすぐに婚約破棄をする令嬢なんて、外聞が悪いと思わない?」


 ハイデマリーの指摘に、シルヴィがぐっと言葉を呑み込む。

 シャルロッテ側からこのタイミングで破棄を言い渡せば、無責任で冷血な令嬢だと言う誹りは免れない。


「この婚約は、クリストフェル側からしか破棄できないのよ。そして、クリストフェルがどんな理由で破棄をするにしても、少なからずシャルロッテの名誉に傷がつく」

「……でもでも、シャリーは名誉なんて……気にしない、でしょ?」

「シャルロッテが気にしなくても、周りは気にするわよ。特に、シャルロッテが優秀だと良く知っている身内はね」


 察しの悪いシルヴィでも、それがコンラートとリーンハルトを指していると理解したのだろう。唇を噛みしめて眉根を寄せるその後ろでは、クラリッサも沈痛な面持ちで静かに成り行きを見守っていた。

 首にかかった金の鎖に触れ、胸元に仕舞われていた何かを引っ張り出して握り締める。

 どうやら鎖にはペンダントトップがついていたようだが、きつく握られた指の隙間からは、それがどんな物なのか見ることは出来なかった。

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