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 クリストフェルが目を見開いた状態で固まっているが、彼以上にシャルロッテのほうが驚いていた。早く謝罪をしなければと思うのだが、心ばかりが急いて上手く体が動いてくれない。何と言うべきなのか、普段ならばすらすらと出てくる言葉が絡まり、上手く伝えることが出来ない。


「わ……私……」


 ギュッと目を瞑り、何とか言葉を捻り出そうとしたとき、ふわりと爽やかな香りが鼻をくすぐった。すぐ目の前に、誰かの気配を感じる。恐る恐る目を開いてみれば、見慣れたパーシヴァルの背中があった。


「やめましょう、もう。この婚約は、無理です」

「しかし……」


 パーシヴァルが間に立っているためクリストフェルの表情は分からないが、その声は微かに震えていた。


「クリストフェル王、あなたはこの国で最も尊いかたです。しかしあなた以上に、婚約者であるシャルロッテ様の意思のほうが尊い。この婚約について彼女が否と言うのならば、王が諾と言うことは出来ないのです」


 強い口調でクリストフェルを諭す背は、真っすぐに伸びていた。パーシヴァルが動くたび黒髪が揺れ、石鹸の香りが弾ける。

 彼が婚約破棄を口にするのは、意外だった。リーデルシュタイン王国のことを考えれば、シャルロッテがいたほうが良い。聡明なパーシヴァルなら、シャルロッテがいなくなった際の損失を十分理解しているだろう。

 何故と言う疑問とともに、その答えになりうる事実を思い出す。


(パーシヴァルは、アルノーの子孫だったわね)


 エリザ聖戦の最中、第四王子暗殺未遂事件で命を落とした付き人がアルノーだった。身を挺して王子を守ったと美談にされることも多いが、最終的に王子は戦死しているため、別の見かたをする人もいた。

 アルノーの死がなければ、王子の死もなかった。そんなことを、パーシヴァルの兄メルヴィンが言っていたのを聞いたことがある。

 付き人には付き人なりの考えがあるのだろう。だがしかし、まだこれがパーシヴァルの奇策ではないと判断することは出来ない。


 パーシヴァルが振り返り、シャルロッテと視線を合わせるべくやや前かがみになる。耳にかかる長いもみあげが揺れ、髪の隙間から赤い色がチラリと見えた。それが何なのか確かめる前に、パーシヴァルの顔に視線を移す。


「婚約の件につきましては、シャルロッテ様の意思を尊重いたします」


 真摯な表情だった。声には力強さがあり、嘘や偽りは感じられない。今のパーシヴァルの言葉なら、信じることが出来た。


「しかし、シャルロッテ様に一つだけお願いがあります」

「なんでしょう?」


 パーシヴァルが深く頭を下げる。血のように赤い色のピアスが、黒髪の中で見え隠れしていた。


「正式に婚約破棄を通達するまでに、半年の猶予をいただきたい」

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