四角関係
だが、転機が訪れた。
Y辺さんとは、ほぼ通学路が被っていたのだが、ある時から彼女と一緒に学校から下校するようになった。
これは僕から誘ったわけではないので、Y村さんほど露骨ではないにせよ。Y辺さんが、自らの意思で僕と一緒に帰宅するようにしていることがうかがえた。
この時点で、僕は、T山さんと付き合っていることになっている一方、Y村さんと一緒に登校し、Y辺さんと下校するという事実上の三股状態となっていた。
僕は、本命のY辺さんとこういう関係になれて、少しばかり舞い上がった。T山さんを自宅へ送るようなことはなくなり、Y辺さんと下校する日々が続く。
実際、中学校という狭い世界では、男女が一緒に登下校したりすれば、その噂はあっという間に広がるものだ。
彼女たちは、僕が事実上の三股状態となっていることを、おそらくは知っていたのだろう。
だが、彼女たちがどういう気持ちで僕に接していたのか、全く想像がつかなかった。
付き合っていることになっているT山さんに、苦情を言われたこともない。
では、好意などではなく、どうということはない軽い気持ちだったのか?だが、それではやはり微妙に納得がいかない。
Y辺さんの自宅には、一度だけうかがったことがある。
詳細は忘れたが、何か物を届けに行ったのだと思う。
玄関先で、彼女が迎えに出てきたとき、スカートでストッキングを履いておらず、素足だった。
僕は、その素足を見て、なんともいえないなまめかしい気持ちになったことを鮮明に覚えている。
結局、Y辺さんとの関係は、それ以上発展することはなかった。
高校進学とともに、彼女たち3人とは進学先がバラバラとなり、その関係も自然消滅した。
今思えば、友達の悪口などは無視して、素直に自分からY辺さんに告白したらよかったのでないかと後悔する自分がいる。
しかも、よく考えればY辺さんの自宅は僕の自宅とは近くにあったので、高校進学後でも、告白しようと思えばできたはずだ。
Y辺さんのことは、今でもふとした機会に思い出すことがある。