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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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がらくたばかり ③

「理屈は病や毒に対する抗体と同じだ。 竜ほどの生命力にもなれば、命がけで耐性を作るぐらいはできる」


「で、でも今までおとなしい竜だったんですよね? 解決したら山に戻ってくれたり……」


「残念ながらその線は薄いかと。 赤子を殺せという要求を飲まなかった時点で竜のプライドは激しく傷つけられています」


「それにクラクストンは大人しい性格じゃない。 内部に侵入してはっきりと分かった、あれはただ臆病なだけだ」


「臆病……ですか?」


「人間に負けるなど竜にとっては憤死ものの屈辱だ、万が一などあってはいけない。 アルデバランには無視できない戦力が揃っている、そこの聖女とかな」


「とんでもない、私はこのようにか弱い乙女でございます」


「言ってろ。 クラクストンにとって身近に人間の街があるのは実際煩わしかったのだろう、しかし蹴散らすには無視できない脅威が存在した」


「では、そんな竜が幽霊船という力を御した場合にどういう行動を起こすと思います?」


「せっかくなので……海水浴ですかね」


「よくもまあこの雨の中そんなのんきな発想が出てくるな」


 今こうしている間にも、僕らの頭上からは岩石の雨が降り続けている。

聖女の助力もあり防御はできているが、だからといって海水浴なんて発想がひねり出せる朗らかな脳みそには感嘆するほかない。


「どのみち街への被害は避けられないということだ、力を手にした竜は確実に暴走する」


「じゃあやっぱり……倒すしかないんですね」


「正確にいえば埋葬だな、すでにあれは死んだ身体だ。 竜玉さえ与えなければ勝手に崩壊していく」


「ただし目論見がばれた今、竜玉を取り戻そうとクラクストンも死に物狂いでしょう。 それに、入れ物が崩れれば中から幽霊船があふれ出します」


「そ、それじゃいったいどうするんですか!?」


「魔術で竜を、魔法で幽霊船を滅する。 そのために使えるものはすべて使わなければな――――そうだろう? アクシオ」


『なるほどね、話は大体把握した。 この距離ならほぼ遅延もなく話せるね』


「わっ、誰!? どこから声が!?」


 虚空から飛んできた当主の声に、モモ君が驚いてあたりを見渡す。

風の魔術の応用でつなげた独自の無線だ、本人はきっと城壁の上からこちらの様子を見ていることだろう。


「状況がいろいろと変わった、そちらで用意している大火力を利用したい。 準備は?」


『もうじき竜が射程内に到達する、そうなれば君たちが嫌だといっても撃つしかないよ。 ……けど本当に大丈夫?』


「問題ない、自分の命ぐらい自分で守れる」


「あの、師匠……私は?」


「聖女に頼め、赤子は絶対に手放すなよ」


「はい!!」


 こういうときの返事だけはいいのが本当にこいつは……

せいぜい張り切りすぎて赤子を握りつぶさないように注意してもらいたい。


「さて、これより竜を滅するためにアルデバラン総出の大火力が飛んでくる。 腐敗して耐久力が落ちた外皮なら吹き飛ばせるだろう」


「でもそれだと中から……」


「ああ、幽霊船が飛び出してくる。 聖女、前回同様浄化は可能か?」


「わたくしのもつ聖気だけではすべてを浄化することは難しいですね」


「なら借り受けたゴーレムの聖気も足そう、それではどうだ?」


「…………それでも足りませんね。 そのうえ飛散するとすべてに聖気を当てるのは難しいです」


「任せろ、そこは僕がフォローする」


 聖女には見せたくなかったが、背に腹は代えられない。 固有魔術の開帳は、こちらの勝利条件として必須だ。


「モモ君、君はその子を連れて街に向かえ。 呪詛は気にするな、君にも聖気を貸し与えてある」


「でも……」


「逃避ではない、街に着いたらアクシオという男を探せ。 君と赤子の仕事はその男に預けていた」


「……わ、わかりました。 師匠、死なないでくださいね!」


「誰に向かってモノを言っている、君より先にくたばる気は微塵もない。 ほら行け!」


 襲い掛かる弾幕の隙を突き、聖女に抱きかかえられたモモ君の背を押し出す。

そのまま危なげなく地に足をつけると、まさしく脱兎のごとく走り出した。


「……優しいんですね、お弟子さんを一番に逃がすとは」


「なんのことだ、この中の三人ならモモ君の機動力が一番高い。 それに足止め役は僕らのほうが適している、何もおかしくはない選択だ」


「うふふ、そういうことにしておきましょう。 それよりも竜の逆鱗を押してしまいましたが、大丈夫でしょうか?」


『オオオオオォオォ……オオオオォォオオオ……!!!』


 逃げるモモ君の背にすがるように、クラクストンから放たれる圧が数倍に膨れ上がる。

あいつにとって策がばれた時点で赤子を逃がすのは最大の悪手だ。 竜玉ごと器を粉砕されれば、その時点で復活の目は断たれる。


 だが、モモ君は決してその手段を許さない。 生易しい彼女は、ただがむしゃらに目の前に転がる命すべてを助けようとしている。

全く度し難い。 アルデバランを危険にさらしてまでただ一人の命に固執するなど、本末転倒じゃないか


『返せ……返せ゛ぇ……!! 我の、命だ……こんなところで、終わるものか……!!』


「たかが数百年ぽっち生きたぐらいでずいぶん執着するものだな、持論だが無駄に生き永らえるなんていいもんじゃないぞ」


『黙れ、黙れ黙れ黙れ……()()()()()()()()ッ!!!』


「“しょせん、この世は――――」


 固有魔術とは、その魔術師の在り方が反映される術。

一般的な魔術とは違い、決して詠唱の破棄はできない。 ゆえに多くの魔術師は、少しでも警戒されぬようにと会話の中で自然と詠唱をつなげるのが嗜みだった。

だが一度この詠唱を聞いた竜にとっては、これは死の宣言にほぼ近いものだった。


「――――星屑の海(がらくたばかり)さ”」

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