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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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氾濫 ⑧

「モモ君? おーいモモ君、そろそろ死んだかー?」


 バカ弟子の返事がなくなってから1時間以上は経過したが、いくら待ってもあのうるさい声が返ってくることはない。

竜はどうなったかといえば一向に動きが衰える気配はない、今もなお元気に腐肉と呪いを零しながら街に向かって侵攻中だ。


「……いや、これは違うな」


 そもそも死ぬとしたらもっと以前のタイミング、クラクストンに取り込まれた時に死んでいるはずだ。

モモ君個人に呪いの耐性はない、彼女が竜の体内で生存出来ていたのは何者かの助力があってこそ。

それに何度か風に包んだ声を体内へ飛ばしているが、どうも内部でもみ消されている感覚がある。


「…………竜か、随分と賢しい真似を」


 幽霊船の企みとは違う、あの船には人間らしい意思や思考は残っていない。

ならばあの極地でモモ君を保護できるほどの存在は何者かと考えれば、答えは一つだ。

肉体は死せども精神だけは生き延びているのか、相変わらず生き物としての生命力やスケールが違う。


「そうなるとモモ君だけでは荷が重いな、どうやって侵入しようか」


『おーいライカ殿ー、無事でござるかー?』


「ん? ああ、聖女のお付きゴーレムか、丁度良かった」


 呪詛相手に手をこまねいていると、うってつけの駒が向こうからやってきた。

幽霊船の呪詛に対する実績を持つゴーレムだ、自分の代わりに突っ込ませるには最適だ。


「やあやあ、手伝いに来てくれたのかい? 悪いね、それじゃさっそく一仕事頼まれてほしいのだけど」


『んん、なにやら邪気を感じるでござる……しかしあれこれ議論する時間もないのが現状』


「なに? ……ああ、もうそこまで街が迫っていたか」


 振り返って見ればアルデバランが目視可能な距離まで迫っていた、攻撃舞台の有効射程を考えれば時間はない。

このままでは僕らも巻き添えを喰らう、撤退を考えるならばここが分水嶺だ。


「アルデバランの避難状況はどうなっている?」


『無事に完了しているでござる、ライカ殿も無理はせず撤退の準備を』


「いや、まだ少しやり残したことがある。 付き合ってくれ」


『……これ以上の深追いは命に関わる、それでも必要な事でござるか?』


「譲れない事だ。 悪いが今は余裕はない、無理やりにでも手伝ってもらうぞ」


 まだ竜の体内にはモモ君が取り残されている。 それに、このまま撤退するには懸念事項が多い。

この惨劇を犠牲者もなく終わらせるためには、あとひと踏ん張りが必要なのだ。


『いやはや、ロッシュ殿の予想は正しかったというかなんというか……』


「……なんだと?」


『いやはや、こちらの話。 無論、ライカ殿たちを手伝うためにこの煌帝は派遣されたのでござる』



――――――――…………

――――……

――…


「ししょ―――――師匠!?」


「なんだ、今さら大声を出すな。 外からいくら呼び掛けても返事をしなかったくせに」


 幻聴でも、魔術によってスピーカーされた声でもない、確かな実体を持ちながら師匠は私の後ろにいた。

その全身をいくつもの傷と血で染めながら。


「ち、ち、血が……死なないでください師匠!?」


「うるさい、誰が死ぬか勝手に盛り上がるなただのかすり傷だ。 大体人のけが気にするより自分の無謀を百回反省しろ、向こう見ずもそこまで行けば才能だな!」


「この口の悪さ! 間違いなく師匠です、これが聞きたかったー!」


「わめくな引っ付くな傷が開く! 状・況・を! 考えろッ!!」


「あっ、そうでした! 聞いてください師匠!!」


「待て、君に聞かずともあちらに聞いた方が早い」


『……貴様、何者だ』


 そうだった、師匠の乱入が嬉しくてピンチだったことを忘れていた。

だけどさっきまで危ない雰囲気を出していたお爺ちゃんは、遠巻きに師匠を睨むだけで何もしてこない。


「やあ、その気配からしてお前がクラクストンだな? 困るなぁ死体はちゃんと死んでなくちゃ」


『臭うな……貴様、天牢のものか』


「だとしたらどうした。 そこのバカを返してもらうぞ、それと街への侵攻を止めてもらおうか」


『出来ぬ相談だな、この身体は既に我が意志では止められん。 だが、止める方法はここにあるのだ』


「あ、赤ちゃん!」


 お爺ちゃんの手の中には、あの黒い赤ちゃんが抱えられていた。

おそらく私が過去の映像を見せられた時、赤ちゃんを見失ったタイミングで連れて行かれたんだ。


「……幽霊船の中で生き残っていた赤子か。 なるほど、大体話は読めて来たぞ」


『幽霊船の蛮行を止めたいのならば、この赤子を殺して使え。 呪詛には呪詛で返すのだ』


「師匠、駄目ですよ!」


「なるほど、同種相殺か。 たしかにその素材なら幽霊船に通じるものが作れるかもな」


「師匠!!」


「聞こえているよ、モモ君」


 二度の呼びかけで、ようやく師匠が私に視線を向ける。


「どうして拒む? 赤子一つで救える命がごまんとあるんだ、良心は痛むが背に腹は代えられない」


「でも私は……その方法は納得できないです!」


「ならどうする? 綺麗ごとを並べたところで中身がなければガラクタばかりだぞ」


「私が倒します、手伝ってください師匠!!」


「策はあるのか? 無鉄砲が通じる相手じゃないぞ」


「――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 私への問いかけに、さらに疑問を投げ返すと、師匠は一瞬驚いた顔を見せ……少しだけ笑った。


「……へえ、君にしては良い所に目を付けたな。 良いだろう、合格だ」


『何をゴチャゴチャと……幽霊船を止められるのか、貴様らに!』


「悪いなクラクストン、交渉決裂だ。 君の戯言よりもモモ君の綺麗ごとの方が聞こえがいい、赤子も預かっておくぞ」


『なに……!?』


 いつの間にか、お爺ちゃんの手の内にあったはずの赤ちゃんは師匠の腕に抱かれていた。

奪われた本人も気づかない早業だ、どうやったのかさっぱり分からない。


「さて、久々に竜にケンカを売るぞ。 お前の企みは人間2人が叩きのめしてやる」


『貴様ら……生きて帰れると思うなよ……!』

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