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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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氾濫 ③

「やあ……久々に見たが、やはりデカいな」


 見通しのいい平原地帯に到着し、今だ遠くの敵影がはっきりと視界に収まる。

山の一角がそのまま動いているかのような巨体に、遠近感がおかしくなりそうだ。

だがあれはれっきとした生き物である。 その証拠に、名状しがたい唸り声を上げながら、じわりじわりと街へ歩み寄って来るのだから。


「“九番”……あー、こちらライカ。 問題の竜と会敵した、予想通り幽霊船と思わしき呪詛を纏っているように見える、街に届いたら終わりだなあれは」


 言伝を風の球に閉じ込め、街に向けて射出する。 宛先には当主の魔力を結び付けておいたので、あとは自動的に追尾してくれるはずだ。

向こうへ届いて返事が返ってくるまで少し時間が空く、その間にできることは試しておくか。


「おーい、聞こえるかモモくーん! 生きてたら返事をしろ、それか死んだならちゃんと報告しろー!」


 風で拡声しつつ呼びかけるか、返事らしい返事はない。

やはり死んだとみるべきか。 さすがに彼女の身体能力でも、二人を逃がしつつ自分まで生き延びるのは難しかったようだ。


『――――グオオオオオオオオオアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』


「ちっ、やっぱり気づくか」


 この距離でも十分届く声量で呼びかけたのだ、当然竜の耳にだって僕の声は聞こえていたはずだ。

奴から見れば米粒ほどの標的だろうに、よくもまあ目ざとく見つけるものだ。 おまけにあからさまな殺意をむき出しにしている。


「やる気は十分といったところだな。 まあいい、こちらもイライラしていたところだ……やつあたりの相手になってもらおうか」


 竜の咆哮によって震える大気―――から、無数の石片が発生する。

咆哮に乗せて散布された魔力が飽和し、土魔術として顕現したのか。 これをすべて呼吸をするように行うのだから竜とは恐ろしい。

さて、宙に浮いた僕を取り囲んだ鋭い石片は、あと1秒も待たずして全方位から襲い掛かってくることだろう。


「“水球よ……”」


「あーーー!!!!! 師匠ぉー!! たぁすけてくださぁーい!!!!」


 ―――――思わず発動しかけた魔術が暴発するところだった。

すんでのところで無詠唱に切り替え、展開した水の盾で全身ハチの巣だけは避けたが、今のタイミングはちょっと悪意を感じるぞ。


「……生きていたら返事をしろと言ったはずだぞ、バカピンク!!」


「し、師匠までバカって言ったぁー!! 私だって必死だったんですよ!!?」


 僕は魔術で拡声しているが、この距離だというのによく通る声量だ。

しかし声の震源地はなんとなく竜のいる方角だと分かるが、肝心のモモ君の姿が見えない。


「まあ生きているなら良い、それで今はどの辺りにいる? こちらからじゃ君の姿が確認できない」


「……そのぉー……非常に言いにくいんですけど怒らないで聞いてくれますかー!!」


「なんだ、内容を聞いてから判断するから早く言え」


「今ですねー! ()()()()()()()()()()()()()()()! 簡単に言うと食べられちゃいましたー!!」


「…………達者で暮らせよ」


「見捨てないでください!!? ちょっと待ってくださいよ、これには深い事情が!!」



――――――――…………

――――……

――…



「しまった……ここから先何も考えてなかった……!」


 なんとかノヴァさん達を投げ飛ばしたところで、元からそれほど考えてなかった策が尽きた。

前方は分厚い岩の壁、後ろには幽霊船と呼ばれた怖い呪いの塊が迫ってきている。

絶体絶命というやつだ。 逃げ場のないこの状況じゃ、どう頑張っても助かりそうにない。


「し、師匠には怒られるかな……」


 こんな状況なのに。頭には何故か師匠の怒った顔しか浮かばなかった。

きっと難しい言葉を早口で一杯並べられて怒られるんだろうな、死んじゃったら聞けないのが残念だ。

この世界で死んだらお墓は立つのだろうか、いざ死ぬとなると不安で目頭が熱く熱い熱い熱いなんだか背中が熱い


「あっちあっちあちちちち!? なんですか一体!?」


 ――――ボムッ!!


 背を預けていた土壁から飛び退いた直後、鈍い音を立てて壁の一部が爆発した。

とうぜんだけど私は何もしていない、それにこの炎の爆発は……


「の、ノヴァさぁん! ありがとうございますっ!!」


 これはきっと、逃げる寸前にノヴァさんが残してくれた魔術だ。 

目の前まで迫る黒い触手に捕まる寸前、なんとか壁に空いた穴から脱出する。

本当に間一髪だった、少しでもタイミングがズレていたら間に合わなかったし、私が巻き込まれていたかもしれない。


『グウオオオオ……!!!』


「ひぃ……! 」


 私を逃がしたのがそんなに悔しいのか、後ろからは鳥肌が立つほど不気味な唸り声が聞こえてくる。

とてもじゃないが怖くて振り返りたくはない。 でもこのまま簡単に逃がしてくれるとは思えないし、一度後ろを確認しないと駄目だ。

一瞬だけ、破裂しそうなほどドキドキする心臓を抑えて一瞬だけ振り返る。


「――――――えっ?」 


――――――――…………

――――……

――…


「それからですねー!! すっごいびっくりするもの見ちゃいましてー!!」


「長ぁい!! 要点だけ伝えろ、こっちも暇じゃないんだぞ!!」


 モモ君がべらべら喋ってる間にも、竜の猛攻は止まらない。

下からの岩槍、四方からの石片、上空からの土石流、当たれば致命傷になるものから牽制や今後の布石を含めて様々な脅威が襲って来るのだ。 とてもじゃないが駄弁りに付き合う余裕はない。


「逃げ出したのならなんで捕まった、そもそも君はまだちゃんと生きてるのか!?」


「いやー、一回は逃げようと思ったんですけどね! ドラゴンさんが口を開けた時に見えちゃったんですよー!!」


「見えたって何がだ!」


()()()! ドラゴン……いえ、多分幽霊船かな? その中にまだ生きてる人がいるんです!!」

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