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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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竜の寝床 ③

固有(ユニーク)魔術? なんですかそれ」


「まあ君は知らないだろうな」


 聖女による治療の合間、手持ち無沙汰の二人に対し今回の修行の目的を説明する。

渡来人のモモ君が知らないのは無理もない。 比べてノヴァはどうかと言えば、しっかりとその意味を理解し顔を蒼く染め上げている。


「固有魔術とは、文字通り魔術師個人が編み出し、その者にしか使えないオリジナルの魔術のことです」


「おい、横から説明を掻っ攫うな魔法遣い」


「うふふ、ごめんなさい。 私も固有魔術は何度か見かけたことがありますが、どれも独自性があり強力なものでした」


「ほえー、魔術師の切札って感じですね! なるほど、ドラゴン対策のオリジナル魔術を生み出そうと!」


「無理だぜ嬢ちゃん、固有魔術なんてものは研鑽を重ね続けた魔術師が生涯をかけて生み出せるかどうかって代物だ」


 やる気満々のモモ君に対し、ノヴァが生気を半分失った顔で口を挟む。


「魔術師()()の俺とひよこもひよっこの嬢ちゃん、どう頑張ったって数日だけで習得するなんざ無理。 そんなもん魔術への冒涜だ」


「そ、そんなに……?」


「まあ一理あるな」


 ノヴァの言う通り、素人と盗賊業にかまけて腕が鈍り切った魔術師が固有魔術を習得しようなんて人生嘗め切った目標だ。

だが無理を通さねばならないのが現状、始める前から「無理だ」と嘆くなど論外だ。


「ノヴァ、君はまだ状況が分かっていないようだな。 これから死ぬ人間の生存率をわずかでも上げようと言っている」


「で、でもよ姐さん……」


「諦めの早さは君の悪癖だな。 それにモモ君、君は固有魔術を一度見ているはずだぞ」


「えっ、いつですか?」


「シュテル君が攫われた時だ、君ごと地中に引きずり込んだあの術が固有魔術だ」


「あー、思い出した! あの暗殺者さんの!」


 目標を引きずり込み、地中を自在に潜航する。 そんな魔術は火・水・土・風の基本体系(テンプレート)には存在しない。

捕縛した後に教会で締め上げられた本人の供述もある、あの若さで固有の域に登るとは相当腕がいい。

だが逆に言えば、センスときっかけさえあれば費やした年月は関係ないということだ。


「イメージは沸いたか? 足りない経験を埋めるにはできると思える自信が不可欠だ、今から君達にはその自信を死に物狂いで掴んでもらう」


「ぐ、具体的にはどうやって……?」


「なに、やることは変わらないさ。 今から君達が死ぬ気になるまで追いつめるから、火事場のバカ力でくぐり抜けてみろ」


「はい、ちょうど治療も終わりました」


「「ぎ、ぎょええぇー!!!?」」



――――――――…………

――――……

――…



「午前中はこんなもんだな、午後からもう少し火力を上げていくぞ。 今のうちにしっかり体を休めておけ」


「死。」


「命。」


「人としての言語を失っていますね」


 日が頂点まで到達したころ、そこに草原の面影はなく、まるで爆心地のような惨状だ。

一応聖女にも確認したうえで魔術を乱射しているが、ここまで地形を変えて大丈夫なのだろうか。


「し、師匠ぉ……私まだ人の形留めてますか……?」


「五体満足だ、安心しろ。 サンドイッチ食べるか?」


「た、食べます……」


 食べ物に釣られてズルズル這いよる様はまるでグールだ、こんな状態でも食い気を失わないのはいっそ感心する。

だがそうでなければ困る、食える時に食えないようじゃこの先が思いやられるのだからな。


「水もしっかり摂れよ、君もちゃんと食え」


「パ、パス……俺ぁ今食ったら戻しそうだ……」


「そうか、水と一緒に無理矢理口に押し込められるのとどっちがいい?」


「分かったよ、食うよ! チッキショー!」


 文句を言いながらも、食らいつく勢いはモモ君の食欲に負けていない。

この調子なら昼食は余らず平らげてくれそうだ、この天候と気温だと持ち帰って夕食にするのも恐ろしいのでとても助かる。


「あれ、師匠とロッシュさんは食べないんですか?」


「私は先にいただいておりましたので」


「僕はサンドイッチ一つで十分足りる、残りは君たち二人で食え」


「二人とも小食過ぎないですか……?」


「どこからその燃費持ってきてんだ……あれだけ打ち込んでおいて魔力の底が見えねえ」


「君は魔力の運用効率が悪いだけだ、あと三日三晩は余裕で持つぞ」


 午前中、モモ君たちに耐えず浴びせ続けたのは簡単に組んだ低級の魔術ばかりだ。

消費した魔力は全体の2割ほどもない、燃費に気をつければ三日どころか五日は持たせられる。


「なので僕の弾切れで特訓を切り上げるという可能性は考慮しなくていい、君達が倒れるか適応する方が先だ」


「クソッ、聞かなきゃよかった! 本当にこんな修行に意味があるのかよ……」


「あるさ、()()()()。 僕も同じような稽古をつけられたからね」


「師匠も同じことを……?」


「ああ、完全な真似は出来ないから僕のやり方は手緩いけどな」


「「これで手緩い……?」」


 いくら魔力があろうとも、僕の出力では竜の暴威を再現することは不可能だ。

あの人と自分は違う、それでもギベオンとの死闘を生き残れたのはこの馬鹿げた修行法があったからだ。


「ではライカさんもこの方法で固有魔術を?」


「いいや? 一朝一夕で身に着くものじゃない、その時はまだ無理だったよ」


「いや無理なのかよ!」


「大事なのは成し遂げる覚悟……いや、為さなければ死んでしまうというところまで追いつめることだよ。 死に物狂いになって初めて人間のリミッターは外れるんだ」


「師匠の目がどこか遠い所を見つめてる……」


「ま、僕の昔話はこの辺りでいいだろ。 そろそろ再開するぞ、死んでも生き残るという気概を見せろ」


「えぇー、食後のデザートはないんですか!?」


「そんなもんはない、ほらほら5秒やるからさっさと構えろ」


「わー待った待った! ノヴァさん早く立って早く!」


「いやいや俺まだ食ってんだから待ってまだあ゛ぁ゛ー!!?」


 爆発音と木霊する悲鳴が1つ、それは風に乗ってアルデバランまで届いただろうか。

その日の修業は日が暮れるまで続き、緑が生い茂っていた草原はぺんぺん草一つ残らぬ更地と化した。

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