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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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ウムラヴォルフの真相 ②

「…………」


「念のため、部屋には防音の魔術(さいく)をさせてもらった。 君の人払いが完璧なら、この話が外に漏れる事はない」


「まあ、お気遣い感謝いたします。 しかし私も混乱しておりまして……ずいぶん突拍子もない話ですから」


 夫人は困ったように頬に手を当て、小首をかしげて見せる。

個人的にはこの反応だけでほぼクロだ。 不敬だなんだと一蹴されてもいい話なのだが、混乱も怒りもなく彼女はあくまで冷静に努めている。


「この話を外に持ち出すつもりも、あなたを糾弾するつもりもない。 ただ僕の中でケリをつけるために聞きたいだけだ」


「まあ、悪い人。 先生の推理が本当なら、どのような罪に問われてもおかしくはないでしょうに」


「あいにくそこまで善人ではない」


「面白い御冗談ですこと」


「……話を戻そう。 違和感があったんだ、昨夜のシントゥはただ遁走していたようには見えなかった」


 仕向けた刺客が返り討ちに会い、自らの悪事が暴露される前に逃げ出した……と考えるのは無理がある。

状況の把握と決断があまりにも早い、それに逃げるつもりならば街の外へ向かうはずだ。

たしかにあの城壁を超えれば、追ってはまず撒けるだろうが、命を捨ててしまっては元も子もない。


「ここからはただの仮説だが、彼女達には何らかの目的があったように思えて仕方ない。 そしてあの壁の向こうにあるものなど一つだけだ」


「…………幽霊船」


「そうだ、シントゥとコズミキは()()()()()()()()()()()()()


「まさか、この街の人間ならばアレの恐怖は知っております」


「そうだな、本来なら不気味で壁に近づきすらしないだろう。 だがシントゥは聖女用の出入り口まで把握していたようだ」


「それはまたおかしな話ですね」


「ああ、しかし彼女は迷いなく扉を開き、這い出て来たものに助けを求めた。 まるで手懐ける算段があったかのように、だ」


「しかし彼女は……」


「残念ながら幽霊船の呪いで死んだよ。 だがその前にシントゥは面白い事を口走っていてね、“自分はウムラヴォルフ家の人間”だぞ、と」


「―――――……」


 対面する夫人の眉が、一瞬ピクリと跳ねた。


「それに、もう一つ面白い情報がある。 シュテル君を狙った刺客の一人がね、ウムラヴォルフ家の権利がどうこうとほざいていたんだよ」


「戯言でしょう、先生たちを混乱させるための」


「その可能性もある、だが僕は違う説を唱えるよ。 ウムラヴォルフ家と幽霊船の繋がりについて、だ」


「先生」


「ウムラヴォルフ家は幽霊船について、聖女も知らない()()()を知っている。 詳細はシントゥたちも掴んでいなかったが、君はそこを悪用した」


「先生」


「おそらくだが君は、ウムラヴォルフ家の人間なら幽霊船を乗りこなせる……なんて与太話を、彼女達に信じ込ませたんだ」


「――――…………」


 三度目の否定はなかったが、もはやその沈黙は肯定と等しい。

そして夫人は何かをあきらめたかのように瞼を閉じ、大きく息を吐き出す。


「……先生は、探偵の才能もありますね」


「本職じゃないからこそ語れた推測だよ、繰り返しになるが何の証拠もない。 君がすでに隠滅した後だろう」


「ええ、そのつもりでしたのに……なぜ私だと?」


「コズミキの死に方が気になった。 彼女の痕跡は城壁を前に途絶えていたらしいが、壁の出入り口は閉められていたと報告にあってね」


「ああ、なるほど。 さすがに開け放したままではいられなかったので」


 もしあの時、コズミキが城壁を開けたとしたならほぼシントゥと同時刻だ。

位置的にも2人の距離は思ったよりも近く、あのタイミングなら壁を超えればすぐに幽霊船とご対面してもおかしくはない。

一人だけならば入り口を閉じる余裕もなかったはずだ、他に協力者でもいなければ。


「……コズミキは死んだのか?」


「ええ、間違いなく。 彼女が開けて私がすぐに閉じました、船が近くに停泊していたのは不運でしたね」


「あの怪物は君が呼び寄せた訳ではないと?」


「まさか、人間にアレを従える術などありません。 ウムラヴォルフはただ、人より少しだけ知っているだけでございます」


「そうか、では聞くがあれば一体何だ。 ウムラヴォルフが知る秘密とは一体何なんだ?」


「………………」


 夫人との間に、再び長い沈黙が続く。

彼女は間違いなく真に迫るものを知っている、だがその内容を僕に明かすべきか悩んでいるのだろう。

身内同士で殺伐とした殺し合いをしてまで守りたい情報だ、おいそれと人に話すわけには行くまい。


「先生、私はあの子を……シュテルを守りたい気持ちは本当です」


「知っているとも。 いざこざはどうであれ、君の依頼はあくまでシュテル君を守るためのものだった」


「ええ、私はあの子を守るためならなんでもするつもりですわ。 あの子を、愛している」


 すると、彼女はおもむろにテーブルの下に手を入れ、そこに隠されていたスイッチを押し込んだ。

カチリと音を立てたそれは、ただテーブルと床を固定するツメを外すためだけのシンプルな仕組みだったのだろう。

だからこそ、彼女が力づくでテーブルをどかし、床が露わになるまで、その下に隠されていたものにまったく気づかなかったのだ。


「……随分と、原始的な隠し方だな」


「魔術で隠せば痕跡が残ります。 魔術の補助がなければテーブルを動かすこともままなりませんが」


 彼女が床のカーペットを剥がすと、その下に隠されていたのは――――地下室に続く長い石階段だった。


「私について来てください、先生。 話せることはすべてお話しいたします」

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