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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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ウムラヴォルフの真相 ①

「死亡だと……? 死体が上がったのか?」


「いえ、正確には暫定的死亡処置ですねぇ。 アスクレス教会から協力を受け、調査に踏み入ったところ、彼女の屋敷はもぬけの殻でしたぁ」


 一度仕切り直し、別室で待つこと数分。 

顔を洗って多少顔色を取り戻したギルド員が、出来立ての書類を手に戻って来る。


「それで痕跡を追跡したところ、彼女の足取りは海に繋がる城壁の前で途絶えてたという感じです」


「……シントゥと同じ末路か。 いや、聖女に供養されない分こちらの方が惨いかもしれないな」


「ま、まだ生きてる可能性もあるんじゃ……」


「あの城壁を超えたら問答無用で死亡扱いだそうだ、モモ君もうっかり飛び越さないように気を付けろよ」


「いったいあの海に何があるんですか……?」


「あとでそこのギルド員にでも聞けばいい、この街じゃ常識らしいぞ」


 震えるモモ君を適当にあしらい、手元の資料に目を落とす。

これも魔道具の力か、癖のない均一な文字と映像をそのまま転写したような絵が付属し、非常に読みやすい。

記載された内容はざっと見た限り、ギルド員の報告と変わりはない。 最後はやはり城壁の前で痕跡が途絶えていたと書かれている。


「……確認だが、痕跡を誤魔化して逃げおおせた可能性はないか?」


「もちろんその可能性を考え、城門では非常線を張り巡らせてます。 もし隠れているならその……彼女のふくよかな身体じゃ長持ちしないかとぉ……」


「ずいぶん気を遣った表現だな。 だけど警戒しているならそれでいい」


 ギルド内で一度であっただけだが、それでも印象に残るあの図体じゃ見つからずに街を抜けることは難しい。

このまま発見報告がなければ、息子共々海の藻屑と消えたと考えるべきか。


「それとそのぉ……シュテルちゃんは?」


「心配はいらない、彼女の魔結症ならいつでも治せる。 今は疲れてぐっすり眠っているけどね」


「わあよかったぁ! ああそういえばシュテルちゃんを狙った刺客の方々も、衛兵に渡してからべらべら口を割っているようですねぇ」


「だろうな、依頼主が死んでしまえば義理も無い。 手を焼かせられた分きっちり締め上げてもらおう」


「聞きましたよぉ、なんでもモモちゃんがピンチを救ったとか」


「えへへえへ、いやあそれほどでも」


「君は“指”を差しただけだろ」


 「指」というのは、死神の指と呼ばれる一種の魔法だ。

正確には最も手軽な呪詛、ただ「指で示した対象の行方が漠然と分かる」というだけの魔法だ。

精度、効果時間、射程距離などは個人差が激しく、汎用性は低い。 良くて数分間、目標のいる方角が分かれば御の字と言える。


 名前負けも(はなは)だしい魔法(のろい)だが、それでもじつに簡単に使えてしまうため、「人を指で指してはいけない」と親から初めに教わる魔法でもある。

ちなみに僕はおそろしいほどこの魔法に適正がない、そもそも魔法全般が使えない。 まあ魔術師なので悔しくないが。 まっっったく悔しくはないが。


「あの局面で咄嗟に教えた魔法を使えたことは認めるが、魔術師としてはだな……」


「まあまあそのあたりで……ああそうだ、お二人からも色々と聴き取りしたいことがありましてぇ」


「そうか、悪いがモモ君から聞いてくれ。 僕は少し野暮用が出来た」


「へっ? どこ行くんですか師匠?」


「なに、すぐ戻る。 それとも僕がいないと不安か?」


「むぅ、そういう訳じゃないですけども……また何か隠し事してません?」


「ははは、なんのことやら」


――――――――…………

――――……

――…


「……まったく、勘がいいな」


ギルドを発ち、やってきたのは依頼人の屋敷だ。 相変わらずの大きさに目がくらみそうになる。

思えばシントゥもコズミキも個人の屋敷を持っていた。 まさか夫人全員に別々の家が与えられているのだろうか、アルデバランの土地面積が心配になる。


「おっと、いらっしゃい先生。 奥様ならいつもの部屋でお待ちですよ」


「ああ、ありがとう。 ……彼女は僕が来ると言っていたのか?」


「はぁ、訪問の約束をしていたのでは?」


「まったく、これで二度目だな」


 手のひらで転がされているようであまりいい気分はしないが、実際に行動を読まれているのだから文句も言いにくい。


 門番に顔パスで通され、重たい門扉を潜る。 

屋敷の中ではちらほらと使用人の姿を見かけるが、心無しか昨日よりも数が少ない気がする。

そのせいか、母子2人で暮らすにはあまりにも広すぎる屋敷に、より空虚な冷やかさが漂っていた。


「……どうぞ、こちらへ」


「やあ、待たせたようだね」


 いつも案内されていた部屋の前で、ノックを数回。 それだけで訪問者の正体を察したか、扉の向こうからは感情を押し殺した声が返ってきた。

臆さず扉を開ける。 室内には使用人の姿もなく、待っていたのはシュテル君の母親だけだ。

初めてギルドで出会った時に見た激情は鳴りを潜め、彼女の顔には仮面のような無表情だけが張り付いている。


「……その様子だと、すでに耳には入っているかな。 シントゥとコズミキは死んだよ」


「ええ、すでに噂は聞いております。 先生には感謝しかありません、報酬は十分お支払いさせていただきますわ」


「依頼だからそうしたまでだ、礼は要らない。 それと、金をせびりに来たわけでもないんだ」


「…………」


「聞きたい事がある、そもそも今回の事件は謎ばかりだったんだ」


 夫人の表情は眉一つ変わらない、だが部屋に漂う空気は間違いなく変わった。

違和感が拭えなかった、シントゥたちの最期が。 いくら逃げるためとは言え、この街の住民ならば「海」の恐ろしさを知らないはずがない。

それなのになぜ彼女たちは、吸い寄せられるようにあの城壁へ辿り着いたのか――――


「夫人、シントゥたちが自滅したのは――――あなたの仕業だったんだろう?」

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