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師匠と弟子 ②

「あらあら、驚かせてしまいましたね。 申し訳ありません」


「……誰だ君達は、村の人間とは思えないが」


「わたくしですか? 村の方からあなたの帰りが遅いと聞いて、心配して様子を見に」


「村の人間からだと?」


「ええ、あの村の方々とは交流がありますので」


女性の身なりはかなり質のいい素材が使われている、身分もそれなりの位を持っているはずだ。

なのに辺鄙と言っても差し支えないあの村と交流があるというのは、少し懐疑的だ。


「ところで背中は大丈夫でしょうか? 随分強く打ち付けたようですが……」


「いや、この程度問題ない」


「いいえ、無理をなさらずに。 “いと慈悲深き我らが神よ”……」


女性が両手を組み、真剣な面持ちで祝詞を捧げると、彼女の周囲に光が溢れ始める。

そして柔らかい光が洞窟内を満たしたと思えば、背中を打ち付けた痛みは嘘のように消えていた。

それどころか蓄積していた疲労も消えたようだ、まるで神の奇跡とでも言わんとするこの所業は……


「ふふ、職業柄見逃せなかったもので。 これでも聖女なんですよ、私」


やはりこの女、魔法遣い(ソーサラー)か。



――――――――…………

――――……

――…


「うーん、うーん……あれ、急に熱が……」


「まあ、お早い回復ですね」


「うわー! 知らない美人さんだー!?」


「目覚めてすぐうるさいな君は、治してもらったんだから礼ぐらい言いなさい」


あれほどひどかった熱が急に下がり、はっきりした意識で目覚めると、私の顔をとんでもない美人が覗き込んでいた。

まつげが長い、お肌ツルッツル、綺麗な金髪がサラッサラ、ライカさんも相当だけどこの人も全然負けていない。


「というかシスターさん……? わ、私もしかして死んじゃったとか……」


「そんなわけあるか、彼女が魔法で君の熱を下げたんだぞ」


「はい、私ロッシュ・ヒルと申します。 どうやらあなたにも神のお導きがあったようで」


「ああこれはご丁寧にどうも……百瀬かぐやと申します、以後お見知りおきを」


「はい、あなたにも我らがアスクレス様のご加護がありますように」


ロッシュさんは両手を組み、祈るように眼を瞑り……いや、元から目はつむったままだった。

全然目を開けないけどちゃんと見えているのかな?


「ご安心を、私は少々()()()()()しまうので自主的に封印しているのです」


「ああそうなんだ……って、心読まれました私? また魔術?」


「ふふふ、心の声が顔に出ていたもので」


「それに彼女は魔術師ではないぞ、魔法遣いだ」


「……?????」


魔術師と魔法使いという言葉がグルグル頭の中を回りだす、どちらも意味は同じじゃないだろうか?

しかし2人は首を振って否定する、私には分からないけど重要な違いらしい。


「魔術と魔法は分類が違う、魔術は文字通り適性のある人間が魔力を扱うための(すべ)だ」


「対して魔法は神や精霊に祈りを捧げ、信仰によって魔力をお借りするための作法です」


「な、なるほど~?」


分からないけど何となくわかった、たぶんカレーとハヤシライスみたいなものなんだ。


「分かってないだろ君は……まあいい、とにかく礼は言っておけよ」


「あっ、そうでした! ありがとうございますロッシュさん!!」


「いえいえ、わたくしもこの村はよく立ち寄るものですから」


「聖女様、準備ができましたぞ……ん? おお、お嬢ちゃんも加護をいただいたのか。 よかったよかった」


三人でわいわい話に花を咲かせていると、私を診てくれたお医者さんが部屋に入って来た。

聖女様……というのはロッシュさんのことだろうか。


「はい、今向かいます。 よろしければお二人もご一緒にいかがでしょうか?」


「はぇ? じゃあお言葉に甘えて……って、何が始まるんです?」


「それは説明するよりも見てもらった方が早いかと、ふふふ」


花が綻ぶように、という表現はこういう時に使うのだと心で理解できた。

結局何をするかも分からぬままついて行くと、家の外では村中のおじいちゃんおばあちゃんたちが集まった人だかりと、それを抑える鎧武者のようなロボットが待っていた。


「ろ、ロボットだー!?」


「ゴーレムだろあれは」


『むむっ! ロッシュ殿、皆の者がお待ちでござるぞ!』


「喋り方も武士だー!?」


「本当に騒がしいな君は」


すごい、大きい、カッコいい、金ぴかでキラキラだ。 こんなロボットを見てテンションが上がらない女子高生はいない。

全体的に金色と銀色、で構成されているのに、差し色で黒が使われているせいか目にうるさいどころか神々しさすら感じる。

身長も私よりずっと大きい、中に人が入っているのだろうか。


「ふふ、中に人などいませんよ。 煌帝(こうてい)と呼んでください」


「また心が読まれた!」


『あいやご紹介に与り恐悦至極、某はロッシュ殿の用心棒を仕る名乗るほどのものではないゴーレムでござる!』


「護衛対象に名前バラされてるぞ」


コウテイさん、名前も王様みたいでカッコいい。

でもこんな強そうな護衛を連れてロッシュさんは何者なのだろうか。


「聖女様、わしゃ腰が痛くて敵わんわ!」


「あたしはもう節々が痛くてのぉ」


「この間突き指してもうて……」


「はい、皆さんの苦しみは分かりました。 では共に我らが治癒神アスクレスに祈りを……」


ロッシュさんがまた祈るように両手を組むと、おじいちゃんたちも同じように手を組み、祈り始める。

すると、みんなの身体が柔らかい光に包まれ始める。 ゴーレムのコウテイさんまでもだ。


「ライカさんライカさん、あれって何ですか?」


「癒しの祈り、治癒神アスクレスに仕えるものだけが扱える魔法だよ」


「あれ、でも呪文を唱える必要があるんじゃ?」


「それは魔術の話だ、魔法は対象物の信仰や礼儀作法を示せば発動する。 祝詞を述べる場合もあるが、詠唱は必須じゃない」


「なるほどぉ、色々違うんですね……で、なんでライカさんはそんなに不機嫌なんですか?」


村の人たちが光に包まれてどこか穏やかな顔をしている中、ライカさんは輪から外れて眉間にしわを寄せている。

ロッシュさんはライカさんと同じぐらいいい人だ、なのになんで機嫌が悪いのだろう。


「なんだ、僕が他人の成功を妬むような浅ましい人間に見えたか? 僕は常々この通りの仏頂面さ」


「えっ、ロッシュさんを妬んでいるんですか!?」


「そんなわけあるか、冗談の通じない奴め。 ……ただ、魔法が苦手なんだよ」


ぷいっと顔を逸らしたライカさんの表情は、妬ましいというよりも悔しいという感情が浮かんで見える。

そうか、ライカさんにも苦手なものがあったんだ。 盗賊団のボスを一方的に倒してしまうようなライカさんにも。


「安心してください、実は私も勉強とピーマンとゴキブリは大の苦手なんです」


「それらと同列に語られるのは酷く心外だな。 ……魔法は理屈じゃないんだ、魔術を扱うような理論や技術が一切通用しない」


「つまり……仕組みが分からないものだから苦手意識があると?」


「そういうことになる、神なんてものは信用していない。 そのせいか僕はほとんどの魔法を扱えないんだ」


……神を「信仰」ではなく「信用」しない。

そう断言した言葉には、今の私では分からないごちゃごちゃの感情が込められているような気がした。


「はい、今回の祈りは終わりです。 皆さん長生きしてくださいね」


「……あっ、終わったみたいですよライカさん。 キレイでしたねー」


「ああ、しかもちゃっかり僕らまで治癒の範囲に巻き込んでいたぞ、あの聖女様」


「うぇっ!? 全然気づかなった……」


言われてみれば心なしか体が軽くなった気がする。

風邪を引く前よりも体調がいい、今なら空だって飛べそうだ。


「お待たせしました、いつもこの村に立ち寄った時の恒例行事なんです。 如何でしたか?」


「実に敬虔(けいけん)だね、金が取れる出来の魔法を安売りするものだ」


「ふふ、アスクレス信徒として当然のことです。 それと少しお時間をいただけますか?」


「なんだ、まだ何かあるのかい?」


「ええ、百瀬さんに一つお聞きしたい事が……その髪色は()()()()()()()()()()()()変質したものですか?」

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