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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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災厄 ②

「し、師匠……あの人、助けないと……」


「モモ君、諦めろ。 あれはもう僕らじゃ治せない」


 まだ“あれ”を助けようとするモモ君をけん制しながら、謎の触手を観察する。

闇よりも濃い黒に包まれた触手は輪郭がぼやけ、実体が捉えにくい。 そもそも生き物なのかすら怪しいところだ。

魔力も感知できず、視覚を通じて与えられるのは吐き気を催す怖気のみ。 唯一分かることはとにかく、あれに触れれば最後ということだ。


「煌帝、被害が広がる前にアラートを。 避難誘導はギルドの方々が先導してくるはずです」


『あいや分かった、ではポチリとな』


 ゴーレムが自らの籠手を開き、その下に隠れていたボタンを押し込むと、眼下の街並みからカンカンと金を打ち鳴らす音が聞こえて来た。

緊急用の避難要請措置か、さすがに今回のような事態は想定されているらしい。


「ライカさん、一瞬で良いのであれを押し返してください。 私がその隙に扉を閉じます」


「無茶を言ってくれるな、そもそも魔術は効く相手なのか?」


「わたくしの代に代わってから交戦記録はありませんのでそのあたりは不明です、探りながら慎重に迎撃してください」


「無茶を言ってくれる……」


 ほとんどノーデータ、しかも接触したら即死を前に無傷で立ち回れとは、聖女の名が泣く鬼畜ぶりだ。

だが、その程度の無茶は通さなければならない相手ということか。 相当切羽詰まった状況のようだ。


『某が前に出るでござる、アレは某のような存在には効かぬ呪いゆえ。 ロッシュ殿を頼むでござる』


「そうか、そのまま体を張って押し返してくれ」


『フハハ! それが出来れば苦労しないのでござるがなぁ、とにかく任せたでござるよ!』


 一通り高笑いしたと思えば、聖女ととっくに恐怖で気絶した暗殺者をこちらに投げ渡し、ゴーレムが突貫する。

大雑把な奴だ、僕らが受け取り損ねたらどうするつもりだったのか。


「それだけ信用されている……と考えると、何故だか無性に腹が立つな」


「あのぅ、さすがに淑女として逆さづりにされるのは気恥ずかしいのですが」


「なんだ、聖女様は飛べないのか。 はっ、これだから魔法とやらは分野に特化するばかりで不便なのだよ!」


「師匠、大人げないですよ」


「…………」


 モモ君に叱られ(忠言され)、逆さのまま浮かしていた聖女を180度ひっくり返す。

暗殺者はというとちゃっかりモモ君が受け止めていたようだ、そのまま落としてしまってもいいだろうに。


「ところで、あのゴーレムの性能はどれほどなのかな。 得体のしれない触手を相手に勝算は?」


「相性は悪くないでしょう、しかし一人で抑え切るのは難しいかと。 なので援護をお願いしますね」


「……やっぱり宙づりにしておけばよかったかな」


「師匠っ」


 なんて漫才をしている間に、先行したゴーレムはとっくに目標と激突していたところだった。

意外にもあの不定形な触手は物理的に干渉できるようだ、両手でガッシリとホールドしてそのまま押し返す勢いだ。

やはりゴーレム、見た目相応に馬力がある。 この様子なら僕らの援護も無く事態は解決……


「……できればよろしいのですが、そうは上手くいきませんね」


『ぬ、ぬおー!? 寄ってたかって多勢に無勢とは卑怯なー!!』


 たしかに力比べならゴーレムが圧倒的だっただろう、だがそれは触手が一本だけならの話だ。

城壁の向こうまで触手を押し返そうとした瞬間、出入口の向こうから数えきれないほどの触手が伸び、ゴーレムを完全に絡めとってしまった。

幸いにも出入口の直径が彼よりも小さいため、向こうへ引きずり込まれることはないが、ああなっては手も足も出ない。


「あわわわ、あれって大丈夫なんですかロッシュさん!?」


「ええ、煌帝ならいくら触れようとも問題はありませんが……万が一にでも呪いが定着してしまえば廃棄処分されてしまいますね」


『後生ー!! 後生でござるから何卒お助けをー!!!』


「まったく緊張感がないな……“起きろ”」


 ゴーレムの足元を隆起させ、槍のように尖った大地が無数の触手を貫く。

見事に直撃したが手ごたえはない、しかしいくらかの触手は霧散し、拘束が緩んだ隙にゴーレムも脱出できたようだ。


『ハァ……ハァ……か、かたじけないでござる……!』


「ゴーレムが息を切らすな。 それにしてもこちらの攻撃はあまり効いていないな、霞みたいな相手だ」


 千切れた触手はすぐに再生し、土槍によるダメージも残っているようには見えない。

やはり実体がないのか? だとすれば何故煌帝(ゴーレム)はアレらに干渉できる?


「いくつか種類を変えて打ち込んでみるか、土がダメなら――――」


「師匠、下がって!!」


 モモ君に腕を引かれて後方に投げられた途端、空気を切り裂いて伸びて来た何かが、一瞬前までたっていた空間を貫いた。

それはまるで、僕が放った土槍のように細く鋭く形成された肉の塊だった。


「――――7q@、7q@3、uyw@55555555!!!!!」


「あいつ……動くのか!?」


 肉の槍を繰り出してきたのは触手ではなく、既に原形をとどめていないシントゥ()()()()()の仕業だ。

歪な歯が並んだ巨大な口から絶叫を吐き出し、腕か足か分からぬ突起物を伸縮させている。 今の攻撃も、肉を素早く伸ばして繰り出したのだろう。


「ごめんなさい、大丈夫ですか!?」


「ああ、問題ない。 油断してい――――“四番”ッ!!」


「師匠!?」


 駄目だ、完全に躱してはいなかった。 咄嗟に汚染された髪を魔術で切り離す。

文字通り間一髪切断された髪は、瞬く間に黒く変色し、人間の歯や目などが乱雑に生えた肉塊へと形を変えながら、シントゥの元へと落ちていく。

もしも判断が遅れていたら、自分がああなっていた。 いや、何が違えば僕じゃなくモモ君たちが……


「まったく、モモ君たちを連れて来たのは失敗だったな。 敵の的が増えただけだ」


「申し訳ありません、わたくしと煌帝の近くが一番安全なので……」


「いい度胸だ、ほざいたからには護りきれよ。 アレの攻撃は防げるのか?」


「肉の方はなんとか、触手は……怪しいですね、時間稼ぎ程度ならば」


「十分だ、少しの間だけモモ君たちを預けたぞ」


「師匠! 待ってください、私も……!」


「許可できない、魔術も満足に扱えない君じゃ足手まといだ」


 モモ君の言葉を斬り捨て、聖女共々後方へ押しやる。

聖女の防護範囲は飛行船の一件でおおよそ把握している、この距離ならば十分守り切れるはずだ。


「さて……おいたが過ぎたな、肉塊ども」


 地表の肉塊は追撃もなくのた打ち回っているが、いつ癇癪を起こすか分からない危うさがある。

あれは駄目だ、人の世に存在してはいけない。 ただ死ぬよりも悍ましい呪詛を、病のように振りまき続ける。


「……出し惜しみは難しいな」


 今日はすでに大技を二発使っている、聖女が控えているとはいえ、この肉体がどこまでもつやら分からない。

無茶して1発、可能なら2発が上限だ。 問題はいつ、どの術を使うか――――()()も含めて考えなければ、この肉塊どもは倒せまい。

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