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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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ドクターストップ ④

「あぁ~……これですねぇ、盗聴器ぃ」


 作戦決行、数時間前――――

モモ君が連れて来たギルド員により、探し物はあっさりと見つかった。

「それ」は客間のランプシェードに仕掛けられ、ずっと僕らの会話を盗み聞きしていたものだ。


「これって……ビー玉ですか?」


「魔力が込められた水晶ですねぇ、この魔力灯(ランプ)にくっついて稼働し続けていたのかと」


「なるほど、微量すぎて気づかないわけだ。 やはり餅は餅屋だな」


 装飾に紛れていた手のひらサイズの水晶は、一見青みを含んだガラス玉にしか見えない。

このランプは外部から充填した魔力によって光を灯す仕組みだ、その一部を間借りしてこちらの音声を別の子機へ送信する動力へ変換していたのだろう。 

魔導具自体が持つ魔力はほぼゼロだ、同じく魔導具に精通した人間でもなければなかなか気づけない。


「ところでぇ、この会話は聞かれてませんか……?」


「安心しろ、“八番”で音の伝播は断っている。 相手が今聞いているのはこの部屋の環境音だけさ」


「器用だなぁライカちゃん……」


「ちゃん付けはやめろ、それと他の部屋にも仕掛けられていないか確認してほしい。 君にしか頼めない仕事なんだ」


「あ゜っ、私゛幼゛女゛に゛頼゛ら゛れ゛て゛る゛! なんでも言ってくださぁい!」


「そうかい? 悪いね、助かるよ」


「師匠がだんだん自分の姿を悪用し始めてる……」


「人聞きが悪いな、ただお願いしただけさ。 さて、僕らはもう一芝居仕事があるぞ。 この水晶の仕掛け人をおびき出すためにな」



――――――――…………

――――……

――…


「わわわ、本当に誰かいましたよ師匠!」


「知ってるから騒ぐな。 しかしなるほど、水の膜を纏い光の屈折で周囲の風景に紛れていたのか。 それはどこの玩具だ?」


「――――玩具とは心外だな、それなりに値の張る逸品だったというのに」


 モモ君が揺らいだ空間を引っぺがすと、水しぶきと共に現れたのはウェーブがかった金髪の男だった。

線の細い顔立ちとひときわ目立つ泣きボクロ、その切れ長の瞳で流し目でもすれば巷の街娘たちはワーキャー騒ぎそうだ。

だが、残念ながらそんな整った顔立ちもこの場においては何の役にも立たない。


「一応礼儀だ、名を聞こうか」


「ジャックだ、ジャック・カシーニ。 麗しきカシーニと呼んでくれ、聡明なレディ」


「ライカ・ガラクーチカ、魔術師名はない。 それじゃ早速で悪いがその両手足はへし折らせてもらおう」


「おっと物騒だ、“目覚めておくれ妖精たち”」


 無詠唱で発生させた空気弾が、突如して盛り上がった土壁によって相殺される。

衝撃で舞い上がった土煙が晴れると、すでにそこに男の姿はない。 今の一瞬で再度水のカーテンに紛れて隠れたか。

詠唱込みで精度と強度を上げたとはいえ、手癖が早い。 やはり魔術師としては「できる」人間だ。


「モモ君、君は下がっていろ。 そしてよく見学するように、魔術師同士の戦いというものを」


「わ、分かりました……師匠もお気をつけて!」


『おやおや、君は聡明なうえに優しいのだね、レディ? 自らを犠牲に桃髪の乙女を逃がすとは』


「自惚れが過ぎるぞナルシスト、のこのことおびき出された癖に僕に勝てる気か?」


 男の声は聞こえるが、姿と魔力が補足できない。 

おまけに風の魔術も交えて声の発生源も辿れなくしてある、自惚れだけではない実力も併せ持っている。


「今のうちにひとつ聞こう、シュテル君を魔結症に陥れたのは君か?」


『ああ、その通りだよ。 美しい仕事だろう? だのに代用品で治療を企てるなんて、すこしプライドを傷つけられたよ』


「よくできたジョークだったろ、まんまと騙されるほどに。 ……だが解せない、こんな回りくどい真似をするくらいならシュテル君を毒殺した方が早かっただろうに」


『それは美しい仕事ではない、君ならわかるだろう? 僕は()()()()()レディを殺める真似はしたくないのさ』


「出来るだけ、ね……つまり僕も見逃してもらえるのかな?」


『レディ、それは難しい話だ。 君は深追いし過ぎた』


 ――――足元に予兆を感じ、咄嗟に空気弾を真下へ叩きつける。

間一髪で射線を逸らし、腕に突き刺さったのは鋭い水の刃だった。 

土にしみ込ませた水を僕の足元まで移動させ、射出したのか。


「師匠!?」


『この麗しきカシーニ、準備に抜かりはない。 すでにこの一帯は私のテリトリーさ』


「はっ、たかがかすり傷ひとつで随分ご高説を垂れるものだな」


『レディ。 その威勢も悲しきかな、ただの虚勢にしか聞こえないよ』


 どこからともなく指を鳴らす乾いた音が聞こえると、繁茂する草木を巻き込みながら一面の地面が隆起する。

否、正確に捉えるならたっぷりと土に含ませた「水」だ。 見た目こそ泥水がデカいミミズのようにのた打ち回っているだけだが、その中には砂利や草の葉が凄まじい速度で渦巻いている。


『触れれば肉が千切れ飛ぶ泥の腕だ、どこまで耐えられるかな?』


「趣味が悪いな、麗しなんて名乗る割には醜悪だ」


 互いに軽口をほざきながら、四方八方から飛んでくる泥水を飛び回って躱し続ける。

耳元を通り過ぎる度に、泥の中からは瀑布を凝縮したような轟音が響く。 触れれば肉が削げるというのは嘘ではなさそうだ。

そのうえただがむしゃらに泥水をぶつけるだけでなく、次第にこちらの行動範囲を狭める様に泥が押し寄せてくる。 空に逃げようと減速すれば、その瞬間にお陀仏だ。


「師匠、やっぱり私も!」


「来るなよモモ君、君が加勢したところで出来る事は何もない」


「で、でも……!」


『泣かせる友情だね、感動したよレディ。 二人、いやウムラヴォルフの令嬢と三人仲良く同じ所へ送って上げよう』


「遠慮させてもらうよ、先に君を送ることになりそうだからな」


『――――なに?』


 もはや満足に飛び回れるほどの隙間はなく、決着を狙った泥が隙間なく全方位から襲い掛かる()()()()()()()()()()

男が操るすべての水が最小の範囲に集まり、一手で最大の効率を生み出せる場面を。


「“霜よ――――檻と為せ”」


 泥の一端がついに僕の頭に届く……その瞬間、すべての動きが停止する。

吐き出した息は白く染まり、パキパキと音を立てて僕を取り囲む泥が凍り始める。

凍結はもっとも近い泥水からみるみると伝播していき、男の姿を隠していた水のカーテンすら凍らせ、砕き、その姿をあらわにした。


『…………なん、だと……!?』


「やあ、久しぶり。 顔色悪いぞ、風邪でも引いたか?」


 格下と軽んじていた相手に「まんまと食わせられた」と如実に語る表情は、じつに胸のすくものだった。

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