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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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いざアルデバラン ④

「へえ、ここが機関室か」


「どうだい、凄いだろう。 あんまり中のものには触れないようにね」


 見張りの同行を条件に何とか入り込めた機関室は、想像以上のものだった。

まず目に入るのは部屋の中央に設置された巨大な薄紅色のクリスタル、透き通った水晶の中にはキラキラと輝く魔力が渦巻いている。

表面をカッティングする形で刻まれた魔法陣は芸術と言ってもいい、一つ一つ刻まれた形に無駄な線など一切ない。


『やあやあやあ、よく来たでござるライカ殿!』


「なんだ、聖女に付いていないと思ったらこんな所で何やっているんだ?」


 そして水晶の前には仰々しい台の上に胡坐を掻く煌帝の姿があった。

土台にも何らかの魔法陣が施されており、彼と水晶を繋ぐケーブルのような役割をしているようだ。


「そんなところに座って、もしかして君が動力源なのか?」


『んん、流石。 一発で見抜くとは良き眼をしているでござるな!』


 こちらの問いかけにからからと笑う煌帝、その反応から正解と見て良いだろう。

その間にも煌帝の体からは凄まじい速度で魔力が吸い上げられているようだが、本人は涼しい顔だ。


「なるほど、君から吸い上げた魔力を圧縮し水晶の上下から射出……ぶつかり合った衝撃をエネルギーに変換しているのか」


『ほう、そこまで見抜いておられるか。 であれば隠し事も無駄でござるな』


「過大評価だよ、()()表面の術式だけ読み取れただけだ」


『カカカッ! その調子で機密情報まですっぱ抜かれては溜まらぬでござる!』


 煌帝が膝を叩くと、背後の水晶がたちまちに黒く濁る。

認識遮断の術式だ、こうなると仕込まれた内部の機構を読み取ることは難しい。


『申し訳ない、見透かされると困ることも多いものでな』


「いいや、仕方ないさ。 見事な芸術品だから見とれていた、制作者は誰かな?」


『不明でござるよ、この水晶は遺物(オーパーツ)でござる』


「……遺物?」


『失われた過去の遺跡や建築物から見つかる魔導部品などをそう呼ぶらしいでござる、ようはハチャメチャなパワーを持ったお宝でござるな』


 失われた過去の遺物、なるほどたしかにこの水晶に使われている技術は僕が知るものよりもはるかに高い。

だが僕の中の技術は1000年前のものだ、そして現代においてもこの水晶に刻まれた魔力技術はオーバーテクノロジーだという。

ならばこの水晶は“いつ”生まれ、そして“なぜ”潰えたのか?


『おっと、そろそろ発艦でござるよ。 揺れると危ないからそろそろ出て行くでござる』


「ああ、そんな時間か。 邪魔したね」


 煌帝とここまで案内してくれた信者に礼を残し、機関室を後にする。

すこし後ろ髪を引かれる思いだが、今はそれよりも気になることができた。

頭に浮かぶこの疑問符を消さない限り、この知的好奇心が満たされることはないだろう。


「……空白の1000年に一体何があったのか、ね」


 船内を繋ぐ長い廊下を歩きながら、一人呟く。

……この距離、はたしてモモ君と合流するまで僕の体力で歩き通せるだろうか。


――――――――…………

――――……

――…


「ぐぬぬ……! ボスさん、炎が出なくなりました!」



 船が飛び始めてから小一時間ほど、檻の横で魔術の練習を続けていたけどまったく上達する気がしない。

火が付いたのだって最初の1回だけだ、それもすぐに消えてしまったあとはうんともすんともにゃんとも言わない。


「そりゃ魔力切れだよ嬢ちゃん、お気の毒様」


「そんなぁ、一回だけポンと火が付いただけですよ?」


「それだけ保有してる魔力が少ないって事だよ、嬢ちゃんほど少ないのは稀だけどな」


「へー、魔力の貯蔵量って個人差があるんですか?」


「そりゃな、身体の中に魔力を溜める袋があると思えばいい。 袋が大きいほど魔術師の才能があるってことよ」


「ほうほう、なるほどなるほど」


 そうか、渡来人である私には魔力という謎エネルギーを受け入れる袋がないんだ。

どれだけ頑張ってもMPが0なら魔術は使えない、考えてみたら当たり前のことだった。


「質問です、その袋って大きくできますか!」


「鍛えりゃある程度はな、だが大事なのは貯蔵・放出・制御のバランスよ」


「えーと、貯蔵は袋の大きさで……放出と制御って何ですか?」


「放出は一度に取り出せる魔力の量、制御は魔術としてコントロールできる許容量だ」


「はぇー、なるほど……」


 一度に取り出せる量が多くても、袋が小さければ意味がない。

逆に取り出せる量が少ないと、大きな量をコントロールできる力も無駄になってしまう。 難しいバランス感覚だ。


「すごいです、ボスさん分かりやすいですよ。 魔術の先生に向いてるんじゃないですか!?」


「お、俺が教師だぁ?」


「に、似合わね……イデェ! 殴らないでくださいよボスゥ!」


「うっせぇ! ……だけどこいつらの言う通りだよ、俺が教師なんて冗談だろ」


「でも私はボスさんのおかげで魔術が使えましたよ?」


「そりゃ嬢ちゃんの筋が良いからだろ、あとはあのガキんちょに教えてもらいな」


 たしかにボスさんたちは盗賊だ、村の人たちにも許せない事をした。

一度犯した罪は消えない、それでもやり直すことは出来るはずだ。


「よし、私ロッシュさんにお願いしてみます!」


「はぁ!? 待て待て待て、止めとけ止めとけ!!」


「なんでですか、ボスさん達も一生檻の中は嫌でしょう?」


「そうだけどよぉ! 機嫌損ねて殺されたらどうすんだよ、そうなったら流石に寝覚めが悪ぃぞ!!」


「大丈夫ですよ、ロッシュさんは良い人ですし話し合えばきっとお互い分かり合えます!」


「バカだこの嬢ちゃん相当バカだ! おい、あのガキんちょはどこ――――」


 いざロッシュさんを探しに行こうと倉庫の扉を開けた、その時だった。

ふと、船がかすかに揺れた気がして足を止める。 

急な風にあおられたのだろうか? いや、そういう感じとも何だか違うような……


「おお、そうだ嬢ちゃんちょっと戻って来い! ほら、アメやっからアメ!」


「あっ、ずるい! どこに隠し持ってたんすかボス!」


「うっせぇわこのすっとこどっこい! 悪いことは言わねえから戻って来い嬢……」


「……皆さん、伏せて!!」


 違和感が悪寒に変わった瞬間、天地がひっくり返ったような衝撃が船内を揺るがした。


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