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とんちき騒ぎ ④

「……さ、3秒ルール! 3秒ルールでまだセーフ……!」


「無茶言うんじゃないわよダメピンクゥ!!」


「あらあら、これは大変ですね」


「あらあらじゃねえんだよ! お前これ治せ、責任持て!!」


「無機物は対象外でございます。 それに私が修復する道理はないかと」


「た、たしかにぃ~!」


「何納得してやがるのですかアホピンク!!」


 数秒前までの殺伐した空気も忘れ、テオちゃんたちが私の元に集まる。

いや、私というか正確に言えばみんなが気にかけているのは私が抱きかかえている石板だけども。


「……モドキ。 オタンコの師として、なにか言うべきことはあるか……?」


「ぼくじゃない、あいつがやった、しらない、かんけいない」


「師匠ぉー!! 見捨てないでくださーい!!」


「……はぁ、土壇場で君に任せたのは最大の判断ミスだった。 ヌル、制御盤(あれ)が壊れたらどうなる?」


「死」


「簡潔な回答どうも。 というわけだモモ君、諦めろ」


「ヤダー!!」


 ヌルちゃんは顔面真っ青で泡吹いてるし、バベルちゃんさんも頭を押さえてうずくまってしまっている。 揃いも揃ってもうあきらめムードだ。

なんとか元に戻せないかと石板を挿し直してみるけど、元通りになるわけもない。 もう根元からぽっきり折れちゃってるから当たり前なんだけども。


「が、ガムテープ! それか接着剤とかだれか持ってません!?」


「この塔にそんなものがあると思うのですか……?」


「ですよねー! うわーどうしようどうしよう!!」


「うふふ、今際の際に面白いものが見れました。 あの世へ善い土産ができそうです」


「テメェこの期に及んでふざけてんじゃ……」


「わたくしに手を出すのはやめておいた方が良いかと。 塔内の制御が崩壊した以上、生存権を保てるのはわたくしの魔法だけですよ?」


「……ラグナ、悔しいけどそいつの言う通りよ。 喧嘩は後にしなさい」


「ンだとぉ……」


 ロッシュさんの胸ぐらをつかんで押し倒すラグナちゃんの背後には、彼女たちが部屋へ突入するために壊した壁の大穴が口を開いている。

本来なら室内の空気があっという間に宇宙(そと)に吐き出されてしまうところ、ロッシュさんが穴を埋める形で張ってくれた障壁がそれを防いでいた。

おまけに室内には生存可能な空間を作るというアスクレスの魔法も展開されている。 これがないとロッシュさん本人も死んでしまうからだけど、私たちはそのおこぼれを貰って何とか生き延びている状態だ。


「だ、だけどこのままじゃじり貧なのサ……どうやら制御盤が壊れたから、最後に下された“塔の自壊”という命令を上書きできないみたいでサァ……」


「だークソッ! だったらどうしろってんだ、このままじゃ全員あの星に真っ逆さまだぞ!?」


『やあやあ、どうやらお困りのようだな愛しい弟子たち&その他大勢』


「「「「うわでた」」」」


『ははは、その反応は繊細なお師匠ハートに傷がつくぞ?』


 大混乱の室内に向けてどこからか聞こえてきたのは、山にいるはずの大師匠の声だ。

自称地縛霊である大師匠は山から離れて行動できない、だからラグナちゃんたちみたいにこの塔へ乗り込んでは来れないはずなのに、いったいどこから?


『なんだか隕石の子たちが吸い込まれた穴が開きっぱなしだったからね、そこから通して声をかけているんだ。 なんだか山の大気がどんどん吸い込まれているんだけど大丈夫かなこれ?』


「あっ、やっべ。 そういや閉じ忘れてたネ」


「何やってんのよヌル! あんた本当そういうところ抜けてんだからいつもいつも……」


『悪いが姉妹内でのお説教ならあとにしてくれ。 何があったのかな?』


「まもなく塔が崩れる、地表に大量の破片と特大の石ころが落ちる予定だ。 テオ、どれぐらいの被害になるかわかるか?」


「バベル自体は……破片の大きさに寄るけど、大陸の一部が穴だらけになるぐらいで済むんじゃない? ただ隕石は地表全部ダメになるわ、終わった星をやり直すための終末装置だもの」


「それから塔と外殻で星から溢れる熱量を操作し、ドロドロの原始スープになった星から生命体を再構成するのサ……まあ、今から崩れるからそれもかなわないけどネ」


『なるほど。 バベルの塔と思ったが実体はかき混ぜ棒、天逆鉾だったというわけか。 国生みどころか惑星そのものを生み直しているわけだが』


「小難しい話はどうでもいいんだよ、オレたちに何か打てる手はねえのかって話だ!」


「うーん、それならいっそ塔は粉みじんに砕いてしまえばよくないですか?」


 その瞬間、全員の注目が一斉に私へ集まった。

わかったぞ、これは「何を言ってるんだお前は」という顔だ。 いい案だと思ったけどやっぱりダメかもしれない。


「……たしかに。 どうせ崩れるならいっそ同じことよね、細かく砕けばあとは勝手に大気圏で燃え尽きるはずだわ」


「我々3人で破砕したとして、ギリギリというところなのですね」


「あ、あれ? 意外と手ごたえが悪くない……?」


「突飛だが悪い発想ではないぞ、モモ君。 万が一陸に破片が落ちたとしても被害は防げる」


『撃ち漏らしはこちらで対処しよう。 破片を墜とす位置は調整できるかい?』


「そ、それぐらいならボクがなんとかできるけどサ……問題はもう一個の方だよネ!」


「うふふ、さすがにあのサイズの隕石は人力で砕いてもどうにもならないことでしょう」


「ずいぶん嬉しそうじゃねえかよォ聖女サマがよォ……!」


「ラグナ、どうどう。 あんたがぶん殴ったところで何も状況は好転しないわ」


 ラグナちゃんに押し倒されたままのロッシュさんはそれでも余裕の表情だ。 それもしかたない、彼女からすれば目的はもう達成されたも同然なのだから。

壁にぽっかり空いた穴から見える隕石のサイズは1㎞や2㎞なんてものじゃない、たぶん恐竜を滅ぼした隕石よりも大きいと思う。 詳しくないけど。


「ヌル、テメェの権能であの隕石どこかに転移できねえのか?」


「それができたらとっくにやってるサ、許容限界だヨ! ボクが開くゲートの直径にも限度がある!」


「私の権能でもあのサイズの軌道をズラすのは無理よ。 こりゃペスト連れてこなくて正解ね、あの子いても何も変わらないわ」


「むしろうるさいだけなのです、死ぬ瞬間まで何も知らないのは幸せなことなのですよ」


『まあ私の隣にいるから現在進行形で色々知っちゃっているんだけどね、泡吹いて気絶しちゃったけど』


「ペストちゃん……って、師匠も顔色悪いですけど大丈夫ですか?」


「…………ああ、問題ない。 少し考え事をしていた」


「ライカさん、そろそろ“限界”ですか?」


「うるさいぞ駄聖女、そもそも君は何でこんな真似をしたんだ」


「うふふ、何故でしょうね? 世界が滅びた後でならお話ししましょうか」


「大丈夫ですよロッシュさん、まだまだこの世界に隕石を墜としたりなんてさせません」


「モモセさん、そういうならば何か考えがおありで?」


 ロッシュさんの質問には自信満々の笑顔を返す。 当然そんな逆転のアイデアなんてない。

私の中にあるのはいつも通り、絶対に成功するなんて言えないし師匠たちに止められるような作戦だけだ。

今からここにいる全員で、あの宇宙に浮かぶ隕石を何とか食い止めるために。


「ヌルちゃん」


「な、なにサ……」


「あのワープゲートってどれぐらいの大きさまで広げられますか?」


「ん? んー……何度も言うけどあの隕石をどこかに飛ばすのは無理だからネ? ほかのゲートを全部閉じて集中したとして、せいぜいあの直系の半分に届かないぐらいサ」


「十分です、それだけの大きさがあれば十分ですよヌルちゃん! どこかに飛ばせないなら、()()()()()()()()()()()()()()!!」


「…………はっ?」


「ついでに言うと、隕石でワープゲートを固定してぇー……私たちの世界とこちらの世界、繋ぎっぱなしにできませんか?」


「………………はぁー!?」

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