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とんちき騒ぎ ①

「うぎゃー!? なんですか、地震!?」


「そんなわけあるか! ヌル、バベル、ノア! この揺れはなんだ!?」


「「『わからん!!』」」


「ええい揃いも揃って!!」


 部屋全体が縦に横にとガックンガックン揺れる。 ヌルちゃんたちも何が起きているのかわかっていないらしく、立っていられないほどの衝撃に皆その場に伏せていた。

近くに師匠が居たのは幸いだったと思う、みんなはともかく師匠は私がこうして押さえていないとどこに転がっていくか分かったものじゃない。


「おいモモ君、今何か失礼なこと考えていただろ」


「いえ、師匠の身の安全について考えてました!」


「そうかそうか、いろいろ聞きたいことはあるが今は置いておこう。 最優先はこの揺れの正体だ」


「おばばばばば!!? ざ、座標がズレて行ってる!! この塔全体が少しずつ動いているじゃないのサ!?」


 さっきまでの余裕もどこへやら、転ばないよう床にへばりついたヌルちゃんが慌てふためいている。

この塔はたしか星全体を覆う殻の突き刺さっていたはずだ、つまりその座標がズレているってことは……


「……もしかしてこの建物、崩れてないか?」


「いやいや、何言ってるのサ。 まさかそんなことあるわけ……」


『バベルの塔内部、酸素濃度低下および重力制御装置に異常確認。 システムの一部がダウンしている可能性が高い』


「えーっと……つまりこのままじゃ空気が無くなっちゃって無重力になるってことですか?」


「う、うわー!!? どうしてサ、何があったんだヨこの塔に!!」


「落ち着け。 おい煌帝、聞こえているなら返事をしろ! この異常は君が原因なのか!?」


 師匠が天井に向かって叫ぶけど、コウテイさんからの返事は帰ってこない。

そもそもどこから話しかけていたんだろうか? 天井にも壁にもスピーカーのようなものは見当たらない、この大広間に隠れるようなスペースはないから陰からこっそり話しかけたとも考えられない。


「バベル、君はこの建物の構造に詳しいだろ。 重力制御装置とやらを管理しているのはどこだ?」


『……バベルの塔を全体管理する制御室がある。 管制放送を行えるのもそこだけだ』


「なら案内してくれ、時間がない。 ヌル、そこまで君の能力で空間を繋げられないのか?」


「む、無理だヨ! こんなガクガク座標が揺れてちゃ転送先を固定できないのサ、繊細な権能なんだからネ!?」


「チッ、肝心なところで使えないな」


「ヌルは……昔から調子に乗りやすく、そして土壇場のトラブルに弱いんだ……」


「つまり今放っておくと危ない子ってわけですね! 任せてください!」


 グルグルお目々で床にへばりついたヌルちゃんをひっぺがし、師匠とノアちゃんも一緒に両脇へ抱える。

気のせいかすでに空気が薄くなってきた気がする、足元もなんだかふわふわしてきた。 師匠の言う通り、このままじゃあっという間に空気が無くなってしまう。


「動くなら固まって動きましょう! バベルちゃん……バベルさん? 制御室はどこか教えてください!!」


『……あそこは、この塔の心臓だ。 お前のような人間に教えるのは――――』


「バベル、教えてくれ……今は言い争いしている場合じゃない。 それにオタンコは悪用を考えるほど賢くない」


「ひどい! でもその通りです、私難しい機械のことは何もわかりませんから! でも腕っぷしだけは無駄にあります!」


「煌帝がそこに居る可能性は高い。 バベル、君とここの役立たずになったヌルだけでなんとかできるならそれでもかまわないが?」


『……チッ』


 心の底から不本意だ、というような舌打ちを鳴らしてバベルちゃんさんは回れ右して走り出す。

この揺れの中でもしっかりとした足取りは私たちを突き放すものじゃない。 むしろ「ついてこい」と言っているようだった。


「言葉が足りないやつだな。 モモ君、あの背中を追ってくれ」


「ふっ、誰かさんに……そっくりじゃないか……」


「なんか言ったかノア?」


「あーもーケンカしないでください! 喋ってると舌噛みますよ!!」


 バベルちゃんさんの足取りは決して早くはない、けどこの不安定な足場では師匠たちを抱えて追いかけるだけで精いっぱいだ。

本人は後ろでひーひ―言ってる私のことなどお構いなしに広間を抜け、狭い通路をグングン走っていく。

ときおり壁の中に消えたり、人が通れないような隙間の通路に身体をねじ込んだり、ちょっとでも距離を離されるとそれだけで置いてけぼりにされてしまう。 


《あらあら、さすがですね。 こんな状況でも諦めないとは》


「そ、その声……ロッシュさん!? 地上に残っていたはずじゃ……」


《残念ながらそちらは幻影です。 この塔の外装も便利なものですね、わたくしのような人間でもホログラムが扱えたので》


「……ああ、そういえばロッシュさん前にも宇宙に行ったことあるって言ってましたね!?」


『まさかその時にバベルの迷彩塗装をはぎ取ったのか……?』


《うふふ、わたくしも何かに使えればいいなと思って隠し持っていたとっておきです。 まさかこのような形で使うとは思っていませんでした》


「ロッシュさん、この揺れってあなたたちの仕業なんですか!?」


《はい》


 ひどく簡潔な返事からはなんの感情も読み取れず、ロッシュさんの考えが分からない。

このままじゃみんな窒息死してしまう、助かるのはロケットになるコウテイさんと空気を守る魔法を使えるロッシュさんだけだ。

それは1つでも多くの命を救うというアスクレスの神様を信仰する彼女の流儀に反している気がする。


《わたくしはこの機会をずっと窺っていました。 すべての元凶であるバベルに潜入し、崩落させる機会を》


「バベル、この塔が消えるとどうなる?」


『まず言語統一が消失する。 今まで当たり前のように話していた言葉が通じなくなるんだ、地上波大混乱に陥るだろうな』


「ほ、崩落ってことはこの塔もガラガラに崩れ去るってことだよネ? 地上に塔の破片が降り注ぐことになるヨ!」


「隕石いっぱいっ落ちてくるってことですか! それはまずいですね!? というか崩れるならロッシュさんたちも危ないじゃないですか!!」


《うふふふ、別に構いませんとも。 私が死のうと目的さえ果たせれば》


 引き続き感情の読めない声でロッシュさんが笑う。

天井や壁からどこからでもなく響いてくるその声は、まるでホラー映画の1シーンみたいでひどく不気味に思えた。


《空に浮かぶあの隕石を我らが星に落とす、それがわたくしたちの目的です。 では、詳しい話はあなたがたが制御室までたどり着いた時に話しましょうか》


『……通信が切れた。 殺そう』


「殺意が溢れてますねバベルちゃんさん! でもロッシュさんどうして……」


 いや、今は考えても仕方がない。 それにロッシュさんも制御室までたどり着いたら話すといったんだ、まずはバベルちゃんさんの後を追う事だけに集中しよう。

…………けど、もしロッシュさんが本当にこの塔と隕石を惑星に落とすというなら――――それはもしかして、()()()()()()()()()()()()

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