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死体遊び ①

「…………はぇ? 看守さんがバベルちゃんで、バベルちゃんが師匠で、師匠がバベルちゃんで……?」


「待て……オタンコの処理能力が限界を迎えた……」


『えぇ……』


「気持ちはわかるが少しだけ時間を取るぞ。 モモ君のここのところをこの角度で殴るとだな」


「あいったー!? なるほど、師匠がバベルちゃんの身体を借りてるからバベルちゃんはほかのボディにインしてるわけですね!!」


「こうして読み込み速度が上がる」


『えぇ……』


「あれ、どうしたんですかそんなドン引きした顔をして」


 なぜだろう、意識が宇宙に彼方から戻ってきたら看守さんが仮面越しでもわかるぐらい引いた顔をしていた。

看守さん……そういえば呼び方は看守さんでいいんだろうか? 中身がバベルちゃん(真)だからややこしい。


「さて、話を戻そう。 君の正体がバベルというのは分かった、いつからだ?」


『お前を地上に突き落とした時には、すでにこの器に入っていた。 しかし、やけにあっさりと信じるのだな』


「むしろ合点がいった。 僕がバベルの肉体を持っているなら魂はどこに行ったのかずっと疑問だったんだ、他の肉体に憑依していたのなら筋も通る」


「しかし、だ……バベル、お前は死んだはずじゃなかったのか……?」


『ヌルの仕業。 殺したように見せかけ肉体を転移、そのまま魂だけ剥離された』


「キヒヒヒヒ! そういうことサ、ここまでご苦労さん!」


 ゴリゴリと重い音を立てて開いていく扉の向こうから、あの山で聞いたものと同じ声が聞こえてくる。

息を呑んで扉が完全に開かれるのを待つと、その先に待っていたのはまるでプラネタリウムみたいな大きな空間だった。

そして透き通った天井から見える大迫力の星空の下、ぽつんと胡坐をかいた彼女が私たちを待ち構えていた。


「――――ごきげんヨウ、こうして顔を合わせるのは初めてカナ? あらためてボクはヌル、君たち全員が抱えた悩みの根源サ」


「“爆ぜ――――”」


「わー! 待った待った師匠、魔術使っちゃダメですよ死んじゃいますよ!?」


「止めるなモモ君、ここで刺し違えるならそれも悪くない」 


「キヒヒッ! すげー覚悟じゃん、けどいいのカナ? 万が一ボクが死ぬとそこのお弟子ちゃんも帰れなくなっちゃうぜ?」


 ヌルちゃんがパチンと指を鳴らすと、天井の空間に星空を覆い隠すほど大きな穴が開く。

ぽっかりと開いた穴の先に見えるのは、私にとってなじみ深い風景。 そして二度と見れないんじゃないかと覚悟したあの景色だった。


「…………師匠、あれ……私のいた、世界です……日本です……! 私の、故郷です!!」


「あれが、君の……? なんだあの細長い建物は、地上を走ってるのはゴーレムか?」


「あれは高層ビルに自動車って言うらしいヨ? 幻覚だなんだと疑ってもいいけど、実物も知らなきゃこんなの見せられないよネェ」


 天井に映っているのは上下をひっくり返したような東京の風景だ。

今すぐこの床を蹴ってあの中に飛びこみたい、今までずっと押し込めていたホームシックがふつふつと湧き上がってくる。


「堪えろ、オタンコ……ヌルがわざわざお前の前に餌をぶら下げたなら、それなりの理由がある……」


「さっすが愛しの姉妹、ボクのことよくわかってるネ。 飛びこもうとしたらちょうどいいところで空間切断して首ちょんぱしてやろうと思ってたところサ」


「ひえっ……」


「モモ君を無駄に脅かすのは止めてもらおう。 そちらの目的は何だ? 嫌がらせのため見せつけたわけじゃあるまい」


「その通り、いわばこれは人質……いや、世界質ってところカナ? お弟子ちゃんを安全に送り返したければ大人しくしてもらおうか、ライカ・ガラクーチカ」


「……なるほど、狙いは僕か」


「えっ……?」


 ヌルちゃんの意図が分からない、どうして私が帰るために師匠が大人しくすることが必要なんだ?

いや、そもそも彼女の目的はこの世界で死んでしまった神様の代用だったはずだ。 


『私とヌルの目的は半ば同じだった。 自分たちに課せられた馬鹿げた使命を解放すると』


「そうだヨ、だからまずバベルを殺したフリをしてから交渉した。 ボクと協力して安住の地探さないってサ」


「ヌルちゃん、それって脅迫だと思います」


「人聞きが悪いじゃないのサ、同意を得たんだかられっきとした交渉だヨ!」


「だ、そうだが?」


『…………』


 ケタケタ笑うちゃんヌルちゃんに対してバベルちゃんは不本意という表情だ、マスクに隠れていてもわかる。


「ま、解釈は任せるヨ。 合意を得たのは事実サ、ただしここで2つ問題が起きた」


「1つはヌルとバベルで最終目的地に相違があった、というところか?」


『……正解。 私は(ヌル)の生還を許さない、それにほかの世界を犠牲にするほど薄情ではない』


「嫌われてるネェ、なんでカナ?」


「自分を殺しかけた相手と素直に協力できると思うか? 君は自分のうさん臭さを自覚しろ」


「傷つくネェ、まあいいけどサ! さて、もう一つの問題がボクたちの肉体だ。 なにせ2人とも一度は死んじゃったわけだし?」


「そういえば、ヌル……お前はどうやって肉体を取り戻したんだ……? たしかにテオが塵一つなく消し飛ばしたはずだ……」


「あっ、そうですそうです。 それ気になってました」


 ノアちゃんが言うなら私の覚え間違いでもない。 ヌルちゃんはバベルちゃんを殺し(たふりをし)たときに一度死んでしまったはずだ。

本人いわく、その際に魂だけは避難させていたらしいけど肉体は無事じゃすまない。 なのに私たちの目の前には、ホログラムじゃない実際のヌルちゃんが座っている。


「だからバベルを協力相手に選んだんだヨ。 殺しに特化したほかの連中と違ってバベルは応用が利くからネ、ボクの肉体も少しずつ治してもらっていたのサ」


『甚だ遺憾、ぶっ殺してやる』


「おお怖い怖い、ちゃんと別の肉体に移し替えておいて正解だったネ。 そして余ったバベルの身体は……」


「……僕の入れ物として使われたわけだ。 迷惑極まりないな」


「おかげで延命できたんだからいいじゃん? ま、そろそろ()()()()()()()()返してもらうところだけどサ」


「……えっ? いや、待ってくださいヌルちゃん。 それっておかしくないですか?」


 ヌルちゃんの魂はちゃんとヌルちゃんの肉体に収まっている。

わざわざバベルちゃんの身体を奪う必要はないはずだ、よっぽどの理由がない限りは――――


「――――言ったじゃないカ、バベルの権能は応用が利く。 だからボクは彼女が欲しかった」


『…………死ね』


「キヒヒッ、その身体で言われてもなんともないね! というわけで、大人しくその身体をボクに寄越せよ。 まあお前は死ぬけどお弟子ちゃんは無事に帰れるんだからいいよね、ライカ・ガラクーチカ?」

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