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Null ①

「はっ?」


 わけもわからないといった本人の声とは裏腹に、全員の視線が師匠へと集まる。

師匠の声ではなかったけど、今のは師匠の方から聞こえた声だ。

思わず隣のテオちゃんと顔を見合わせてお互いに頷く、やっぱり私の気のせいじゃないみたい。


「……おい、こんな時に何の冗談だ。 君だろ? ヌル!」


『キヒヒヒヒ! 悪いネェ、出て来ようにも実体がないもんだからサ!』


「ヌルヌル……? 誰ですか、師匠のお友達です?」


「「「「「「ヌル……!?」」」」」


 師匠が口にした名前を聞いた途端、よやく落ち着いていたテオちゃんたちが再び戦闘態勢に入る。

大師匠が間に割り込むのがもう一瞬でも遅れていたらそのまま師匠に飛び掛かっていた勢いだ、危なかった。


「わーわーわー!? どうしたんですか皆、怒る前に説明をお願いします!!」


「どけピンク、ヌルは俺たちの同期型だったやつだ! そして()()()()()()()()()()()!!」


「そこのバベルモドキが隠していたならそれは趣味が悪い話なのですよ、バベルの肉体も尊厳も全部奪い取るつもりなのですか?」


「……らしいです、師匠!!」


「僕も初めて知ったぞその話は、どういうことだ? というか、どこから話してるんだ君は」


『ちょっとバベルの力を借りて言語を飛ばしているだけサ、ここにはいないヨ。 そんなことより知りたいヨネェ、渡来人の帰り方』


 たしかに声は師匠から聞こえるけど、具体的にどこから喋っているのかわからない。 

まるで師匠の身体自体がでっかいスピーカーみたいだ、何者なんだろうヌルちゃん。


「オタンコ……耳を貸すな、こいつの話に聞く価値はない……」


「の、ノアちゃん。 そんなこと言っても姉妹じゃないんですか?」


「姉妹の縁はとうに切ったわよ、それに私たちはとっくの昔にこいつを殺したはずだわ」


『そうだネェ、肉体は完全に消滅しちゃったヨ。 だけど魂だけは次元の外側に逃がしたのサ』


「……()()()()()()()、それがお前の権能だったのです」


「やあ、ドンピシャじゃないか。 まさか私たちをこの世界に呼び込んだのは?」


「ヌルの仕業よ、本来ならもっとヤバい異世界から危険物を投入するはずだったけど」


「この世界で言う魔力に似た毒物が溢れて世界中が塵と化した世界とかな。 だけどあいつはオレたちを裏切って次元を繋いだままバベルごと死んだ」


「残ったのは制御不能となった排気口とバベルタワーだけっす。 おかげで自分たちは尻拭いに悪戦苦闘っすよ」


「なるほど、つまりすべての元凶(モモ君)をこの世界に招き入れたのはこいつの仕業ってことか」


 なぜだろうか、今の師匠の言葉からすごい悪意を感じたのは。

それはそれとして今テオちゃんたちが説明してくれたことは無視できない、ヌルちゃんの能力が本物なら私たちの悩みは解決できるじゃないか。


「ヌルちゃん、聞こえてますかヌルちゃん! あなたの力ならこの世界と元の世界……日本へつなげることはできますか!?」


『ヒヒヒヒ! 聞こえてるヨォお嬢様! なかなか面白いこと考えるネェ、その答えはYESサ!』


「ならお願いします!! あっ、ヌルちゃんも一緒に来ます?」


『えぇ、ここまでの話聞いといて誘う胆力何なのサ……? 出会ったらそこの姉妹たちに即殺されちゃうヨ』


「おう、はよツラ見せろ。 もう一度念入りに雷落としてやっからよ」


『ヒヒッ、やーなこったヨ。 てなわけで顔合わせはごめんだネ、元の世界に帰りたきゃ山のてっぺんに来ることだネ』


「おい待て、さらにこの山を登れだと? おい……おい? クソッ、言うだけ言って逃げたなあいつ」


 師匠が呼びかけてもヌルちゃんの声はもう返ってくることはなかった。

山のてっぺんを目指せ、たしかに彼女は最後にそう言っていた。 この山の頂上に元の世界へ戻る出入り口があるのだろうか?


「よし、無視すんぞ。 テオも頭冷やせ、今日は解散」


「いやいやいや、これは無視できないですよラグナちゃん!」


「モモ君、不本意だがこれに関しては僕もラグナと同意見だ。 怪しいにもほどがある」


「やあ、そもそも私は君がいつあのヌルという子と逢引きしていたのか気になるね?」


「ハハハ面白い冗談だグーで行くぞグーで。 モモ君、絶対に頂上なんて目指すなよ、これは振りじゃないからな」


「わかりました! 行きましょうロッシュさん!」


「はい、お供しましょう」


「やあ、それなら私もついて行こうかな」


「僕の話を聞いてたか???」


 師匠たちの制止は聞こえないふりをしよう、幸いにもロッシュさんと大師匠はこちら側のようだ。

たしかに師匠たちが言うように罠かもしれない、けど罠じゃないかもしれない。

テオちゃんたちを裏切ったのも何か理由があるのかもしれないし、何も確かめないままここで引き下がるのはもったいない気がする。


「というわけで私たちは上に登ってみようと思います、師匠は死んじゃうと思うのでここで待っていてください!」


「モモさん、煌帝に乗せれば空気が薄くなってもなんとかなりますよ」


「うーん、それでも今のライカはかなり貧弱だからね。 連れて行くのはちょっと心配かな」


「待ちなさい、あんたたちがヌルの口車に乗せられるならここで止めるしかないわよ」


「……ロッシュさん、大師匠、ゴーですゴー!!」


「待ちなさいってのよピンクゥ!! あんたたち、追いかけるわよ!!」


「わぁったようっせーな! モドキ、乗れ!」


「姐御いつの間にかモドキと仲良くなったっすよね」


 たしかこの隠し部屋……隠し穴?が山の4000m近く、そしてこの山の高さが10000mだから頂上まであと6000mある。

大まかに見積もっておよそ半分。 こっちは大師匠とロッシュさんが味方とはいえ突然始まったこのテオちゃんたちとの追いかけっこ、果たして逃げ切れるだろうか?

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