死する神に祈らば死せよ ⑤
「――――認めないわよ、そんな真似えぇ!!!」
私たちの遥か頭上から、赤い光がきりもみ回転して落ちてくる。
わかっている。 わかっていた。 ラグナちゃんたちと同じように彼女とも話をしなくちゃいけなかったから。
みんなにも事情があるのは分かっている、だけど私だってこの身勝手を譲りたくない。 だから今からぶつかり合おう、テオちゃん。
「やあ、来たか。 ここは私に任せ……」
「大師匠は手を出さないでください、ここは私が受け止めます!!」
「……ふむ、そうかい。 なら任せるよ」
「おい待てモモ君、何を言って……」
師匠が私を止めるよりも、テオちゃんが落ちてくる速度の方が速かった。
炎のような真っ赤な光の尾を引いて飛び込んでくる彼女の姿は、本当の隕石みたいだ。
「テオちゃん、こぉい!!」
「勝手に私の妹たち誑かしてんじゃないわよ……このアホピンクッ!!!」
瞬間、着弾。 一瞬私の身体がぺちゃんこになったかと思う衝撃が手のひらから足の先までビリビリ走る。
熱くて重くて痛くて強い、これがお姉ちゃんの強さか。 だけど私だって負けてられないんだ。
お腹に力をこめて今にも飛んでいきそうな意識を呼び戻す、翼をはためかせるたびにどんどん強くなるテオちゃんの勢いに負けないために声を張る。
「テオちゃん……ラグナちゃんたちを私にください!!」
「誰がやるかぁ!!!」
……あれ、なんか間違ったかな? 今意識の半分がテオちゃんを抑えることに割かれているから自分が何言ったかわからない。
だけど「ラグナちゃんたちを日本にお迎えさせてください」みたいなことを言った気がする、どうしてここまで怒られるんだろう。
「うわーん、テオちゃんも一緒に行きましょうよー!! 楽しいですよ、一緒にディ〇ニー行きましょうよディ〇ニー!!」
「でぃず……? よくわかんないけど、いかがわしいことに私たちを使おうって魂胆ね!!?」
「違いますけどぉー!!?」
「おいラグナ、お前たちの姉もかなりピンクじゃないのかあれ?」
「言うなモドキ、テンパるとああなるんだよあいつ」
「ただ一番上の姉がアレじゃ威厳がねえので普段は真面目ぶってやがるのです」
「あんたら後で全員ゲンコツするわ!!!」
「結構余裕あるっすねテオ姉ちゃん」
「ペスト……あまりしゃべると、余計な鉄拳が増えるぞ……」
「うわーんみんな喋る暇あるなら助けてー!!」
だけどやっぱりどの世界でも姉とは強いものなのか、ラグナちゃんたちはみんな遠巻きに激突を眺めているだけだ。
師匠だけはなんとか止めようとしているけど風圧で飛ばされて全然近づけていない、大師匠の足にしがみつくのがやっとみたいだ。
私もテオちゃんの突撃をいつ前押さえられていられるか……って、さっきよりなんか楽になってきたような?
「うふふ、防御・回復ならわたくしにお任せあれとお伝えしましたよね?」
「ろ、ロッシュさぁん! ありがとうございます!!」
「アスクレスの聖女……! アンタまで立ちはだかるか、もうこの世界の真相は知ったのでしょう!?」
「ええ、知ってましたから。 わたくしのやるべきことは最初から何一つ変わりません」
「……はっ? なに、あんた知ってたってどういう――――」
「――――隙ありです!!」
「きゃっ!? じゃ、邪魔するんじゃないわよアホピンクゥ!!」
少しだけ動揺を見せたテオちゃんの隙を突き、がっぷり掴み合っていた手をほどいて彼女を抱き寄せる。
相殺しきれない衝撃は2人仲良く床を転がって耐えながら、最後はどんがらがっしゃんと機械の山に突っ込んでようやく受け止めることができた。
ロッシュさんが魔法で障壁を張ってくれたおかげで降り注ぐガレキも全然痛くない、私の下敷きになったテオちゃんも無傷だ。
「ふぅー……大丈夫ですかテオちゃん?」
「はっ? な、ちょっ、近……近いわケダモノー!!」
「へぶちっ!? 待って、話を聞いてください!」
「おうそこの頭ピンクと頭ピンク、乳繰り合ってねえでさっさと出てこい」
「「アッハイ……」」
がれきの下でテオちゃんが顔を真っ赤にしたり、私がビンタされたりしている間に呆れ顔のラグナちゃんが積み重なった機械の山を蹴散らしてくれた。
なんだか気まずくなってすごすご脱出する私たち。 そのままある程度の安全圏まで脱すると、テオちゃんは弾けるように私と距離を取り、再び爪と翼を生やして戦闘態勢を取る。
「……仕切り直しよ! 私はまだあんたを認めたわけじゃないから!!」
「やあ、どういうメンタルしてるんだいあの子?」
「すまねえっす、我々の姉が本当に……」
「テオちゃん、どうしてそこまで拒絶するんですか? もうこんなこと終わりにして……」
「あんたの言うことは全部絵空事じゃない、異世界に行くってどうやって? 渡来人がどうやってこの世界に来たのかだって、わかってないくせに」
「これから探します! 何とかなります!!」
「口だけなら何度も同じことを言うやつがいたわよ、人間なんていつもそうじゃない」
疲れた顔で私を睨むテオちゃんの目つきは、幼い顔立ちには似合わないほど達観したものだった。
酸いも甘いも知り尽くしたような顔。 おそらく今まで生きてきた中で、私のようなセリフを吐いてきた人間を何度も見てきたんだ。
そして今に至るまで裏切られてきた。 私の言葉だけじゃまだ足りない。 どうにか彼女の信用を得るために、何かあと一手……
「――――ウヒヒヒヒ! あるヨォ、あと一手! とびっきりの奥の手がネェ!」