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百瀬 かぐやという怪物 ③

「お……っらぁ!!!」


「妹風情がしゃしゃるんじゃないッ!!!」


「ひ、ひええぇー!!? こっち来たっすー!!」


 空中で姐御と姉ちゃんがもう何度目かわからない激突を繰り広げる。

そのたびに散る火花と衝撃は人間どもが作る爆弾や砲台なんてものの比じゃない、お互いに城1つ消し飛ばすような力で殴り合っているんだ。

本人たちはそれどころじゃないだろうけど巻き込まれる身としては冗談じゃない、流れ弾で死なないようにするのが精いっぱいだ。


「ちょっちょっちょっと! そこのシスター、お前も突っ立ってないで2人を止めるっすよ!?」


「はて、私が間に入ってどうにかできる姉妹喧嘩とお思いですか?」


「んなわけねえっす、人間ごときで止められる姉ちゃんたちじゃねえっすから!」


「あらあら、止めたい気持ちと姉思いが反発してますね」


《んー、某としてはこのまま相打ちになってくれるのが一番助かるでござるな》


「なんてこと言うんすかこいつ、血も涙もないんすか!?」


 この聖女どもはダメだ、自分で作った結界に閉じこもってばかりで何もしてくれない。

いや姉ちゃんたちのケンカに耐えられる結界なんてスゲー代物だけども、結局この中から動かないと2人の戦いはどんどんヒートアップしていくばかりだ。

自分たちは滅多に喧嘩なんてしない、だからこうしてたまに大喧嘩を始めると歯止めが利かなくなる。 いつもならウォー姉ちゃんたちが止めてくれるけど……


「の、ノア姉ちゃん……」


「今の私じゃ……無理だ……一瞬で消し炭にされる……」


「うわーん! 誰か2人の喧嘩を止めてくれっすー!!」


「――――わっかりましたぁ!! あとは任せてくださいペストちゃん!!」


――――――――…………

――――……

――… 


 世界の終わりみたいな色をした空の下で、ラグナちゃんとテオちゃんがケンカしている。

まるでそこに床があるかのように空中を跳ね、互いに殴る蹴る切る叩くの大ゲンカ……いや、殺し合いといっていいひどいありさまだ。

とても姉妹同士で、ましてや妹たちに見せるような惨状じゃない。 すぐに止めなきゃ。


「というわけでお願いします、ウォーちゃん!!」


「おめえはバカなのですか? あの2人に割って入ったら私が死ぬのですよ?」


「じゃあ私が行ってきます!!」


「バカか君は、あの雷と灼熱の奔流に首を突っ込めば一瞬で黒焦げだぞ」


「じゃあどうしろって言うんですか!!」


「やあ、そういう時のために私がいるんじゃないのかな?」


 どうしようもなくてやきもきしている私を横目に、大師匠はウォーちゃんの襟首をつかんで持ち上げる。

まるで叱られたネコのようでどこかほほえましい持ち上げ方だけど、なんだか嫌な予感がする。 大師匠はそこからウォーちゃんをどうするつもりなんだろうか。


「君の身体を私の魔力でコーティングした。 運が悪くなければ突入にも耐えられるだろう、いいね?」


「よくないのですが?」


「大師匠? さすがにそれは乱暴過ぎません!?」


「なあに大丈夫だ、昔のライカはタンコブ1つで済んだからね」


「ウォー、腹に力を込めてできるだけ身体を丸めて頭を守れ。 死にたくなければな」


「やっぱ人間はクソなのです……!!」


「ああ、ウォーちゃんたちとの間にまた大きな溝が……」


「はっはっは。 恨み文句ならあとでたっぷり聞くよ、私の弟子たちがね」


「しかもさらっと僕らに責任押し付けてきたぞ」


「じゃあもういつ怒られるのも一緒ですね、一蓮托生で行きましょうウォーちゃん!」


「はっ? なのです」


 今にも放り投げようとする大師匠の腕からウォーちゃんを奪い返し、取り返される前に走り出す。

さすがに2人の喧嘩にウォーちゃんだけを挟むのは良心が痛い、それなら一緒に飛んでしまおうそうしよう。


「大丈夫です、私のジャンプ力ならたぶん届きます! 頑張りましょう、ウォーちゃん!」


「うわああああああああ!!! こいつと心中だけは死んでも嫌なのです!!!!」


「じゃあ死ぬ気で生き返って来るんだね、もし死んだら私が念仏を唱えてあげようじゃないか」


「絶対に死ねない理由ができたのです!!」


「いっきまっすよー! 3、2、1……ドンッ!!」


 たまに降ってくる雷や火の粉を避けながら走り、2人の足元にもぐりこんだタイミングで全力ジャンプ。

久々に目いっぱいの力を出した体はぐんぐん跳び上がり、ちょうど2人の真ん中に到達したところでピタリと止まってくれた。


「ストップ! ストップです2人とも!! ケンカは良くない!!」


「どけピンク!! 今最っ高にハイになってンだよ!!」


「ウワーッ!! 止まってくださいってばー!!」


 ラグナちゃんは頭から血を流しているというのに公園ではしゃぐ幼稚園児のようなハイテンションっぷりだ。

ハンマーもブンブン、電気もバチバチだ。 ハンマーを受け止めた腕から伝わる衝撃は今まで一番痛い。


「やめるのですテオやめるのです、別に私は壊れても問題ないのですが私の名誉のために止まるのです」


「ウォー!? あんたこんなところで何やってんの!?」


「かくかくしかじかで人質に取られたのです……」


「違います、私はウォーちゃんと友達になっただけです!」


「人間どもめ、私の妹になんてむごい仕打ちを……ッ!!」


「人質より怒りが強くないですか!?」


 テオちゃんは背中から翼を生やし、腕は完全にドラゴンっぽくなっているうえに口からはチロチロ炎が零れている。 完全に怒り心頭モードだ。

なんで私が絡むと皆怒るんだろう、そろそろ私もグレていいと思う。


「……チッ、萎えた。 このピンクが絡むとろくなことにならねえ、こっちは一抜けるぜ」


「ふん、あんたが抜けても私はやる気よ。 手始めにこのムカつくピンクから……」


「あっ、そろそろ落ちるかも……テオちゃんちょっと掴まらせてください」


「はっ? ちょっ、何気安く触ってのよアンタちょっと待ちなさいよバカお前どこ触ってんのよヤダ重いわバカ!!?」


 ここまでのんきに話をして忘れかけていたけど、そもそも私はただ全力でジャンプしただけだ。

つまり飛んでいるテオちゃんたちとは違いいつか地面に落ちてしまう、せっかくここまで来たのはまた離れ離れになってはケンカを止められない。

だからとっさにテオちゃんの羽に掴まったのは悪いことじゃないと思う、たとえウォーちゃんと2人がかりの体重がのっかってしまったとしても。


「セ、セ、セ……セクハラよこのダメピンクー!!!」


 まあさすがに重量オーバーだったのか、結局私たちは顔を赤くしたテオちゃんごと地面に落っこちちゃったけど。

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[一言] 妖怪ピンクこわい
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