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神の麓 ⑤

「こっちが軟膏、こっちが飲み薬、毎食後飲め。 替えの包帯も詰めとくから毎日取り替えろ、あと……」


「はい、全部持っていきます! 師匠の面倒は私に任せてください!」


「なあ見てくれラグナ、これモモ君が巻いてくれた包帯」


「紫になってんぞ腕」


「人に見せる前にさっさと解いた方がいいっすよ」


「ギチギチでほどけないんだ、もうこの腕は諦めようと思う」


「ペストォ! 溶かせ溶かせ!」


「世話焼けるっすねこのモドキ!!」


 ラサルハの入り口で野口さんからの処方箋を受け取る後ろで、師匠たちの賑わう声が聞こえてくる。

どんな話をしているのか気になるけど仲が良さそうだから邪魔するのも悪い気がする、あとで落ち着いてから聞けばいいや。


「百瀬さん、荷物はこれで全部でしょうか?」


「はい、あとは私が背負うので大丈夫です! 大五郎とコウテイさんもありがとうございます!」


『何のこれしき、某の手にかかれば綿を背負うようなものでござる!!』


「あらあら、そこまで余裕があるならダイゴロウさんの荷物も背負ってもらいましょう。 良いですね煌帝?」


『ヌワー!?』


「ろ、ロッシュさん……そこまで無理させなくても」


 ただでさえ背中に山盛りの荷物を背負っているというのに、そこへさらなる重荷を背負わせるからコウテイさんの足が地面に沈んできた。

ロッシュさんは良い人なんだけどなんというか煌帝さんへの扱いが気さくというか……なんか雑だ、この2人の関係も気になる。


「おい、いつまでモタモタしてんだバカピンク! 薬だなんだはもういいだろ、どうせそこまで長くない命なんだからよ!」


「ラグナちゃん、言い方! 師匠はそんな老い先短くありません、私が老後まで面倒を見ます!」


「モドキ、この介護能力で面倒みられるらしいっすよ」


「いっそ殺してくれ」


「許してやってほしい……オタンコはオタンコなんだ……」


「オメーはどういう立場なんだよ」


「しかしこの旅路もずいぶん大所帯になってしまったな……」


 ラグナちゃんたちのやり取りを眺めた師匠がポツリとつぶやく。

思い返せばはじめは私と師匠だけの旅だったのに、行く先々でいろんな人と出会ったり一緒に行動したりいろんなことがあった。

そしてまさかあんなにケンカしたラグナちゃんたちと一緒に山登りなんて、ちょっと前まで考えもしなかったことだ。


「チッ。 言っておくがオレは仲良しごっこするつもりはねえぞ、隙晒して喉笛食いちぎられねえように気ぃつけとけ」


「はい、私に噛みつく時まで師匠のことは頼みましたよラグナちゃん!」


「僕を背負ったままじゃ何を言っても格好つかないぞ」


「クソがよォ……!!」


 これからの登山に備え、ラグナちゃんの背中には毛布に包んだ師匠の身体が括りつけられている。

初見の私よりも彼女たちの方が山について知っている、もし途中で何かあってもラグナちゃんの身体能力なら大丈夫だ。 私が背負えないのはちょっと残念だけど。


「しかし1万mだったか? 素人共がそんな軽装で登るには自殺行為だろ、医者としちゃお勧めできねェな」


「ご安心を、ドクター野口。 彼女たちの話ではなにも頂上まで登る必要はないとのことです、それにアスクレスの加護があれば“自殺行為”などありえません」


「それが一番納得できねェ」


「あらあら~?」


「まあ、医者からすれば……治癒魔法の存在は……複雑な心境だろう……」


「外科と内科みてえなもんだから割り切ることはできるけどな、ただお前さんのレベルになるとどっちも独りで片付けちまう」


「自分が蒔いたウイルスもまるごと浄化されたっすからね……」


「まあ異物は医者(こっち)の方だけどな、それでもいずれ追いつくから覚悟しとけよ」


災厄(オレたち)からすればたまったもんじゃねえけどな……やっぱここで潰しとくか?」


「ダメですよラグナちゃん、約束したはずです。 早く山に急ぎましょう!」


 私たちの前では人を殺そうとしないこと、それがラグナちゃんと交わした約束だ。

彼女の主義主張と私たちの間には分かり合えない溝があるけど、それでも一緒に行動する間ぐらいは仲良くありたい。

それにアスクレスの聖女であるロッシュさんとの相性は見るからに最悪だったので、(師匠の忠告で)先に釘を刺しておいたのはやっぱり正解だ。


「チッ、わかってるよクソ……ああもう、あの時オレが勝ってりゃこんな面倒な真似しなくて済んだのによぉ」


「だが結果は、御覧の通りだ……そろそろ腹を括れ、ラグナ……」


「わかってるよ、それじゃ白山霊峰目指して出発すんぞ!」


「はい! ……で、もしかして歩きで行くんですか?」


「ンなわけねえだろ、着く前に背中のこいつが死んじまうわ。 走るんだよ」


「姐御、誰も彼もあんたと同じ速度で走れるわけじゃねえっすよ」


「あァ? ピンク、テメェならついてこれんだろ」


「うーん、どうでしょうか……」


 ラグナちゃんの速さは師匠との戦いで十分知っているけど、ついて行けるかとなると結構ギリギリだと思う。

そのうえノアちゃんたちも背負っていくとなるとかなり厳しい、大五郎に至ってはもう背負う余裕がない。 荷物だけでも手いっぱいだ。


「ご安心ください、わたくしには煌帝がいます。 彼ならば本気を出せば音より速く動けると自負しておりますから、トゥールー信者に後れを取ることはないでしょう」


「お゛ぉ゛ん? アスクレスの連中はずいぶんケンカを安売りしてくれんだなァ、ダースで買うぜ?」


『某も初耳のアピールポイントでござるなぁ!!』


「本人はこう言ってますが、この程度の積載なら2人を追って飛行するだけの余力はあります。 フォーマルハウトからラサルハまで飛行したのはこの煌帝ですよ?」


「誰もポコピンが姐御に追走できるかについては疑ってないんすね」


「できるだろ、モモ君だぞ」


「うーん……わかりましたやってみます!」


 師匠にそこまで信頼されては弟子としてノーとは言えない、ここは一度張り切ってみよう。

これでもこっちの世界に来てからスタミナもかなり増えている、山までどれほど距離があるかはわからないけどこれも限界を試してみるいい機会かもしれない。


「それに万が一どちらかが力尽きてもこちらには聖女がいる、回復は任せたぞ」


「ええ、もちろんです。 とはいえ屈強なトゥールーが一般人である百瀬さんより先に息が上がるとは思えませんが」


「上等じゃねえか全員ぶっちぎってやる!!」


「ぶっちぎっちゃダメっすよ姐御」


「そういうわけだモモ君、君は疲れる心配などしなくていい。 ただ全力でラグナを追いかけて走ってくれたまえ」


 ……あれ? もしかして師匠、私にとんでもなく過酷なフルマラソンを任せるつもりでは?

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