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神の麓 ①

「師匠ぉー!! 師匠師匠師匠師匠!! 死なないでください師匠ぉー!!!」


「誰かこのピンクを締め出してくれ……」


「「「それはちょっと……」」」


 やはりこんな切り札は切るべきじゃなかった、病室に飛び込んできたモモ君を振り払う事すらできやしない。

うるさいし暑苦しいし涙と鼻水でぐしゃぐしゃだしうるさいし、これで傷が開いたら一生恨んでやる。


「野口さん、師匠は助かるんですか!?」


「落ち着け嬢ちゃん、内臓の損傷はひどいが処置は終えた。 ヤマは脱してんだ、安心しろ」


「よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛!!!」


「助かっても助からなくてもうるさいっすねポコピン」


「死んでいたら……もっとうるさかったぞ……確実に」


「死にぞこなってよかったじゃねえか、モドキ」


「それで、後ろの災厄娘どもはいつの間にモモ君と仲良くなったんだ」


「「「仲良くなってない!!」」」


「えっ、違うんですか!?」


 ペストの拘束をほどいていることも問題だが、ラグナが大人しく従っているのも大問題だ。

状況的に他の手立てがなかったとはいえモモ君に任せるのは不安で仕方なかったが、なにがどうなればあの狂犬がここまでおとなしく従うことになるんだ。


「ふんっ、なんだその目は? オレが負けた以上大人しくしているだけだ、別に牙を抜かれたわけじゃねえからな」


「あっ、そうだそうだ! 師匠、ラグナちゃんが師匠を治すヒントを教えてくれました!」


「ほう、それは殊勝なことだな。 やはり負け犬とは飼い主に従うものなんだな」


「ア゛ァ゛!? オレァ今すぐここで二戦目ぶちかましてもいいんギャッフン!?」


「やめろ……私とペストまで巻き込む気か……」


 有無を言わさぬノアの鉄拳がさく裂し、ラグナの目に星が散る。 

たしか彼女は幽霊船としての力はほとんど失っているはずだが、悲しいことに姉妹の上下関係は覆せないようだ。

そういえば災厄たちの序列はまだ不明だったな、雰囲気からしてペストが末っ子だろうが、何かの役に立つかもしれないしあとで聞き出してみるか。


「ノグチ、少し席を外してくれ。 診察ならもう十分だろ」


「まあプライベートな話を盗み聞くつもりはねえけどよ……暴れんなよお前ら? とくにそこの紫っ娘、院内で妙なウイルスばらまいたらホルマリン漬けにすっから覚悟しとけ」


「き、肝に銘じておくっす……」


 今回の疫病の元凶にきつめの釘を刺してからノグチが部屋を出る。 あの男はやると言ったらやりかねない凄みがある、あれだけ脅せばペストも下手な気は起こすまい。

そして部屋に残ったのは僕とモモ君と災厄共3人、僕たちの間に渦巻くややこしい関係性を知る者だけだ。


「……お前、バベルの権能を使っただろ。 ありゃ初めてか?」


「あんなもの練習していたら身が持つものか、ぶっつけ本番に決まってる」


「師匠血吐いてましたからね、本当に大丈夫なんですか?」


「しばらく固形物は食べられそうにもないな。 モモ君、君が以前話していたパフェなるものなら完食できそうなんだが」


「うん、だいぶ余裕ありそうですね」


「そうでもねえぞ、身体より深刻なガタが魂に来てやがる。 モドキ、お前あと何日持つ?」


「えっ……ど、どういうことですか師匠!?」


 あまりにも直球すぎるラグナの言動に思わず舌打ちが出た、こいつはまだ何もわかっていない。 

わざわざモモ君の前でそんな話をするんじゃない、あとが面倒くさいだろう。


「……オタンコ、モドキの魂がボロボロなのは知っているな……あろうことか、こいつはそこから追い打ちを加えたんだ……」


「うちらの権能は常人に扱える代物じゃないんすよ、ただでさえデタラメ度高いバベルの権能をパク……いやなんでマネできたんすかこいつ、人間じゃねえ」


「失礼な、基本構造は魔術と変わらないから模倣できただけだ。 それでも一度見た限りじゃ劣化に劣化を重ねた粗悪品にしかならなかったけどな」


「ば、化け物っす……」


「たとえ魔術と似てようが()()がまるで違う、人間の魔力量なら一瞬で干からびる。 たとえ量が用意できたとしてもひねり出す蛇口がぶっ壊れるだろうがな」


「えっと、魔術を扱うのに必要な3つの要素……」


「へえ、君にしてはよく覚えてたな」


 しまった、へそを曲げたふりして黙るつもりがつい褒めてしまった。 しかたない、モモ君が以前話した内容を覚えていたのが感動的だったのだから。

魔術を扱うには「魔力の保有量」「魔力の出力量」「魔力の制御量」のバランスが重要だ、この一つでも欠ければ魔術師としての才能は大きく損なわれる。

……まあ僕の場合、制御ができても出力が人並以下なのだが。


「自分でもわかってんだろ? 身の丈以上の権能を出力したせいでお前の魂はぶっ壊れる寸前だ、少しでも魔術を使えば間違いなく粉々になるぜ」


「ただじっとしていても時間の問題っすね、ただでさえボロボロだった魂はこれから自己崩壊し始めるっすよ」


「御託は良い、それで僕はどうすればいいんだ? 何か方法があるんだろう」


 ヒントでも確実じゃなくても何でもいい、今の僕にはとにかく時間がない。

憶測だろうが罠だろうが、手当たり次第に齧りつかなければ死ぬだけだ。


「いいね、話が早え。 ようはお前の魂を補強すりゃいいんだ――――行くぞ、テメェら現人類を神の麓に招待してやる」

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