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平行線 ④

「来るっすよ、前!!」


「はい! 師匠、前です!!」


「いちいち仲介しなくても聞こえている!」


 直線の軌道で飛んでくる雷撃を各々飛び退いて回避する、自然雷とは思えない動きだ。

ハンマーを振るった軌跡に魔力を引いて電気の流れを誘導しているのか? 理屈はどうあれ直撃したら死ぬ威力だということに間違いはない。


「いいね、今の一撃で終わったらつまらねえ! もっと激しく踊ってくれよ!」


「ダメですよ、師匠が踊ったら10秒で倒れます!」


「失敬な、30秒は持つぞ!」


「今その口喧嘩必要っすかァ!?」


「余裕はないが、譲れないことだよッ!!」


 電撃の網を掻い潜りながらの口論は命がけだが、世の中にはたとえどんな状況であろうと訂正しなければならないこともある。

それはそれとしてやはりトゥールーの魔法は厄介だ、幸い紙一重で回避は出来ているが一瞬でも反応が遅れれば致命傷になりかねない。


「うへぇ……なんで全部ギリッギリで躱してるんすかあいつ、こっちは距離ある分なんとかなってるっすけど」


「師匠が言うにはコツがあるらしいですよ」


「コツ?」


「おっとモモ君、そこから先は喋るなよ。 わざわざ相手に手の内を晒したくはない」


「つれないこと言うなよ、無理やり暴きたくなるからよッ!!」


 ほぼ致死の間合いで飛び回る僕に対ししびれを切らしたか、ラグナは広範囲の放電をやめて攻め方を変える。

僕を叩き落そうと愚直に振り回していたハンマーを構え直したかと思えば、上体を逸らして目いっぱいの力で地面へ振り下ろした。

ハンマーに蓄積された電撃と単純な破壊力、それに壊れた噴水から溢れた水で浸された広場の路面状況を考えると……


「ウワーッ!? まずいっす、全力で逃げるっすよポコピン!!」


「えっ、逃げるってどこに!?」


「いいから飛べ、死にたくなければな!」


「はいぃ!!」


 指示通りモモ君が跳躍するとほぼ同時、叩きつけられた鉄槌の衝撃が大地を揺るがし、目も眩む閃光が迸る。

整備された路面は一撃で巨大なクレーターへと変わり、破片が水と電気を纏いながら四方八方へと飛散する。

先ほどより高密度、しかも質量を伴う石礫は簡単に迎撃できない。 いやでも魔術による防御を余儀なくなされる。


 質量と速度からして風で逸らすのは難しい、とっさに展開したのは水の壁。

これだけでは藁より脆いが、真正面から飛んできた礫を絡めとったそばから凍結させれば強固な氷の盾となる――――が、これはあくまで前座。


「本命は……本体による強襲、だろ?」


「ハッハァ!! やっぱりテメェは嫌いだが、その実力は嫌いじゃねえ!!」


 次の瞬間、岩を巻き込んで透過性が悪くなった氷壁を砕きながら突っ込んできたのはラグナ本人。

必殺級の攻撃すらも布石、今の一撃で僕が死なないと信じてトドメを刺しに来たのだ。 多少は油断してほしいものだ。

……やはり彼女を殺すにはこちらも出し惜しみはできない。


「焦るなよ、“しょせんこの世は――――」


「師匠、危ない!!」


「はっ? ハァ!? バカお前邪魔すん……ぐえェ!?」


 ――――手札を一つ明かそうとしたその時、横から飛んできたモモ君が迫るラグナを蹴り飛ばす。

さすが雷闘神に仕える戦闘狂だけありとっさに巨槌の柄で受け止めたようだが、モモ君の馬鹿力に押し込まれた2人(+1人)はそのまま仲良く噴水の中へと飛び込んでいった。


「アッバババババ!!? しびれしびしびしびびびび!!!」


「ギャアアアアアアア!!!!?? 何やってんすかポコピンー!!!」


「邪魔すんじゃねえよバカどもがよォ!!!」


「一緒にされるのは心外っすよ姐御ぉ!?」


「……もうまとめてトドメ刺していいか?」


 ラグナの身体にはまだまだ溢れんばかりの稲光が宿っている、そんな体で水の中へ突っ込んだらどうなるか? 当たり前だが3人そろって感電だ。

トゥールー信者である本人は当然耐性あり、モモ君も竜の力かしびれる程度で済んでいる。 あの中で一番割を食ってるのはペストかもしれない。


「クソッ、離れろバカ!! 神聖な戦いに水を差すんじゃねえ!!」


「そんなつもりはないんですけどわっひゃぁ!?」


 怒髪天のラグナが振り回す鉄槌から命からがら逃げ回り、這う這うの体で僕の元まで駆け寄ってくるモモ君。

背中のペストはかなりぐったりしているが両者無事だ、悪運が強いというかなんというか。


「やいバベルモドキテメェ! 師匠なら弟子の面倒ぐらい見ろ、檻に入れとけそんなやつ!!」


「僕も同じことは考えたがモモ君の膂力に耐えられる檻がどうしても見つからなかったんだ、諦めてくれ」


「師匠!? そんなひどいこと考えてたんですか!?」


「胸に手を当てて今までの君の行いをよーーーーく思い返してみろ? 妥当だろ」


「うーん……すみません、過去は忘れました!」


「すまん、このピンク頭の手綱を握るのは僕でも無理だ」


「匙を投げんな匙を、お前が諦めたら世界の終わりなんだよ」


 いかん、モモ君が絡むとついラグナと意気投合してしまう。 なんで互いに手を止めているんだ僕らは。

あくまでラグナとは敵同士、余計な情を持つと魔術に狂いが出る。 だからモモ君は置いて行きたかったんだが……


「ふぅー……悪かったな、仕切り直そう。 いざとなればモモ君は死なない程度に気絶させてくれ」


「師匠!?」


「はっ、そりゃ魅力的な提案だがバカピンクの相手をする余裕はなさそうだ。 時間が惜しい、放っておけばテメェの魂は砕けちまいそうなほど脆くなってやがる」


「……わかるのか?」


「あぁ? 魂の形ぐらいちっとばかし鍛えりゃ見えるだろ、おかげさまでお前とバベルがなかなか結び付かなかったけどな」


「そりゃ苦労させたな、ついでに聞くがその魂の修繕方法は知ってるか?」


()()()()()


「……なに?」


 ラグナの口角がニヤリと上がる、どうやらまんまと釣られたらしい。

軽口をたたき合っているつもりが、喉から手が出るほど欲している情報を餌としてぶら下げられてしまった。


「ほ、本当ですかラグナちゃん!?」


「オレも試したことはないが手掛かりぐらいなら知っている。 教えてやるよ、俺を倒せたらな」


「……こいつは困ったな」


 厄介だ、ラグナを殺すだけならまだいくらか手段は思いつく。

だが情報を聞き出すなら生かさず殺さず無力化しなければならない、戦闘狂と名高いトゥールー信者を相手に。


……本当に困った。 是が非でも勝たなければいけないというのに、勝利条件の難易度が上がってしまったじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 師匠とラグナの掛け合いやっぱり好きですね! っていうかこいつ等仲良いだろ…いや、オタンコピンクが駄目なのか…?
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