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最弱の災厄 ④

「……で、具体的には何をしたんだ」


「師匠、今ノアちゃんが頑張って話してくれているんですから邪魔しないでください」


「しかしそのくだりはモモ君も以前に聞いただろ、幽霊船の中でな」


「ぐうぅ……! どこで聞いたんだオタンコォ……!」


「ああ、妙なところからノアちゃんの信用度が下がった!」


「ふん……まあいい……オタンコ、お前の世界では……神は居たか……?」


「う、うーん。 それはちょっと難しいですね……」


 歯ぎしりするノアちゃんから問いかけられたのは、なかなか答えにくい質問だった。

迷いなく「居る」と答える人もいれば、「居ない」とする人もいる。 個人的には居たらいいのになとは思うけど断言はできない。


「……答えを迷うということは、それだけ神の定義が揺らいでいる……ということだな……」


「っかー! これだから渡来人はイヤっすねえ、百害あって一利ないっす!」


「ちなみに僕も神は信じていないぞ」


「っかー! これだから魔術師は!!」


「モモ君、針」


「魔術師は大変すばらしい職業だと思うっす!!」


「師匠、脅さないでください」


 師匠の間合いからペストちゃんを引き離す、何をするかわからないけどそんな都合よく針なんて持っていない。

それにしてもこのペストちゃんの嫌がり方からして、そこまで神様を信じていないというのは不都合なんだろうか?


「結論から言うと、だ……この世界に、神は存在する……」


「大きく出たな、ただ君たちがそう信じているだけではないのか?」


「ならお前は……魔法の原理をどう説明づける……?」


「それは魔法遣いが大気中の魔力に働きかけることで……」


「はっ……ナンセンス、だな……」


「っすね」


 ノアちゃんたちに鼻で笑われ、師匠の額に青筋が浮かび上がる。 いつでも割り込める準備だけはしておこう。


「魔法は……信仰の対価に神が与える奇跡だ、神が無ければ魔法は扱えない……」


「待て、それなら君たちの話と矛盾するぞ。 神は死んだのだろう?」


「だから今の魔法は神様の残滓っす、このままじゃリソースが枯れる一方すね」


「枯れるとどうなっちゃうんですか?」


「そりゃ魔法が使えなくなるっすよ、だから自分たちが定期的に信仰を集めて騙し騙し魔法を繋いでいるんすよ。 “神は今も健在だ”とね」


「では質問を変えようか、君たちはどうやって信仰を集めている?」


「無神論者が神に祈るのはトイレか死ぬ間際しかないっすよ」


 ――――師匠とペストちゃんの間に立ちふさがる。

次の瞬間に何が起きるのか私でもで理解できた、ノアちゃんもすぐに察して師匠の腕を掴んで止めている。


「モモ君、十分だろう。 こいつらは敵だ」


「まだです、だってペストちゃんたちの目的は魔法の存続ですよね!? なら人間を追い詰めるよりもっといい方法があるはずです!」


「相互理解は不可能っすよ! それはそれとしてかばってくれるのは大変ありがたいっす!!」


「残念だが……人間がそこにある限り、我々に和解する意思はない……」


「どうしてですか!!」


「考えろモモ君。 仮にペストたちの主張がすべて正しいと仮定し、神が魔法遣いの信仰を対価として魔法を授けていたとしよう」


「は、はい!」


 信仰してもらった代わりに魔法を与える……つまりお地蔵さまにお供え物をして願い事を叶えてもらうということだ。

この場合、お供え物=信仰だから……


「……信仰が減ると、神様はお腹が空く?」


「君らしい回答だがまあ及第点としよう。 おそらくペストたちにとって邪魔なのは魔術と魔導、そして渡来人が持ち込むこの世界にない技術全般だ」


「………………」


 ノアちゃんの沈黙は、師匠の推測がすべて当たっていると言っているようなものだった。

魔法は便利だ。 傷を治したり、大事なものをずっと同じ状態で保存出来たり、裁判で嘘を見抜いたり。

だけどそれと同じくらい魔術も便利で、魔導もどんどん便利な道具を開発している。 単純に考えて魔法を使う回数が1/3になったとしたら、一日三食のはずが朝ご飯しか食べてないようなものだ。


「医師の存在なんて邪魔でしかないだろうな。 ノグチが言っていたぞ、医術が広まればアスクレスへの信仰は衰退すると」


「……信仰の確保と、神へ仇成す存在の駆逐……それが我々の存在価値と、行動理由だ……」


「魔法と魔術は対等な関係じゃない、利便性で言うならば魔術の方が上だ。 モモ君、それでも君は彼女たちと共存できるというか?」


「それは……」


 師匠の言葉に反論は出来なかった。 ガラケーからスマホへ移り変わったように、人はどんどん新しくて便利なものへと流れていく。

この世界だってきっと化学が発展して、古い技術や魔法はどんどんなくなっていくのだろう。 それは簡単に止められるものじゃない。


「いやー、しかし詳しいっすね知らない人! おかげで話が早くて助かるっす、何者っすか?」


「………………お前、まだわからないのか……」


「はい?」


「えーっと、ペストちゃん。 紹介します、こっちの子はあなたの姉妹のノアちゃんです」


「…………えぇー!? ノア姉!? いや、だってノア姉は……いやでも陰気臭い喋り方はたしかにノア姉っす!!」


「うぐぅ」


 どうやらペストちゃんは今の今まで自分の味方をしてくれていたノアちゃんの正体に気づいていなかったらしい。

そしてノアちゃんは実の妹に今まで気づかれなかったショックで涙目になっている。

……その反応はやっぱり私たちと同じで、とても人類を滅亡させるような怪物には思えない。


 師匠に誰かを殺してほしくはないし、ノアちゃんたちにも死んでほしくない。 それは私のワガママだ だけど譲りたくないワガママなんだ。

私はいったい、どうしたらいいんだろう――――

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