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ネズミは死んでいた ③

「モモ君、ちょっとしゃがんで……そうそう、やれノア」


「聖水だ……飲め……おかわりもあるぞ……」


「うわらばぼぼごぼばー!? 何するんですか2人とも!?」


 ノアがモモ君の口に手を突っ込み、生成した聖水を無理やり飲ませる。

すでに発症した病に効果はないが、悪化を食い止める助けにはなるだろう。


「簡単に説明するが、たった今ラサルハ内で凶悪な流行り病が確認された。 そして君にも感染の疑いがかかっている」


「流行り病!? だからなんだか病院が騒がしかったんですね……」


「他人より、自分のことを気にしたらどうだ……お前もその腕、ただのアザじゃないだろ……」


「えっ? うわ本当だ、なんか黒い!」


 ここでようやく気付いたのか、モモ君は自分の腕に現れた黒斑を見て青ざめた。

先ほど確認したときはほくろ程度の大きさだったが、黒斑が一回り大きくなっている気がする。

僕の気のせいでなければ進行速度が異常だ、ただの死斑病ではない。 


「モモ君、もう一度確認するが体調に変化はないか? 隠すと強めの魔術で殴るぞ」


「と、言われても本当に平気で……いやでもちょっと寒気とダルさを感じるような?」


「その程度で済んでいるなら軽い方だ、聖水が効いたか?」


「いや……オタンコだから風邪に身体が気付いていない……可能性がある……」


「ああ、なるほど」


「なんてこと言うんですかノアちゃん、師匠も納得しないでください」


 とはいえこの元気っぷりはバカだけじゃ説明できない、というより説明したくない。

他に理由があるとすればやはり飲みこんだ竜玉の影響か、死の病も竜の生命力を侵すには力不足と見える。


「それでも多少は影響があるあたり、ただの病ではないな。 モモ君、もし異変があるなら早めに申告するように」


「もががもがふが!」


「……ってなーにをやってんだ君は」


 この阿呆は本当に一瞬でも目を離すと予想のつかないことばかりする。

なんで口に布を巻いて自分で自分の口を塞いでいるんだこの子は


「もがふが……ぷはっ! 師匠、私に近づいちゃダメですよ。 師匠たちまで感染します!」


「それはそうだが今更口を塞いでも手遅れだろ、聖水で清められたと考えるしかない」


「ふん……ペスト製のウイルスなら……その程度の付け焼刃じゃどうにもならん……本体をどうにかしなければな……」


「ペスト? 砂漠で師匠を助けてくれた子ですか、その子を止めればどうにかなるんですね!?」


 ノアはたちまち「しまった」と言いたげな顔で口を押えるが、時すでに遅し。

僕もモモ君もはっきりと聞いていた、そしてこうなってしまったモモ君はとてもしつこい。 こちらが諦めるまでどこまでも食い下がって来る。


「ひどいウイルスなんですよね? 詳しいことを教えてくださいノアちゃん、このままじゃ人が死にます!」


「ふん、誰が……お前ら人間に協力など……」


「このままじゃノアちゃんだって危険じゃないですか、どうしてそこまで意固地なんです!?」


「不安なんだろ、姉妹たちが人間に負けてしまうことが」


「……なんだと」


 こちらの挑発に対し、ノアは面白いほど簡単に乗ってきた。

前髪の切れ目から覗く目は視線で人を射抜かんばかりの眼光を宿している、厄災連中にも家族の情というものは強いらしい。


「君の脳裏には幽霊船のトラウマがこびりついている、姉妹たちを同じような目に合わせたくないんだろう? ここは医療都市、もし鹵獲されれば死ぬまでモルモットだ。 いや、死んだ方がマシかもしれないな」


「………………」


「だがそこのモモ君は大の甘ちゃんだ、ペストを捕まえても殺すようなことはないだろう。 もし投了する気になれば彼女に頼むのが一番だぞ」


「師匠、今もしかして私のこと褒めてくれました?」


「ワハハ寝言は寝てほざけ」


「……ふん」


 モモ君の戯言を鼻で笑い、ノアは足早にこの場を立ち去る。

とはいえ歩く先は出口に向かっていない、どうどうと逃げるつもりではないということか。


「モモ君、君はノアに着いて動け。 定期的に聖水を分けてもらうように、おそらくあいつから話を聞き出せるのは君だけだ」


「わかりました! けど師匠は?」


「ペストを探す。 とにもかくにも病を振りまいている本体を見つけなければどうにもならない、話はそれからだ」


「……み、見つけたらどうするんですか?」


 まるで喉から声をひねり出すのがひどく苦痛かのように、モモ君は恐る恐る口を開く。

僕がやろうとしていることを察したのか、こんな時ばかり勘のいいやつめ。


「大丈夫だ、物騒な真似はしない。 本体を仕留めたところですでに散布された病がどうにかなるわけじゃないからな、まずは治療法を聞き出す」


「あの、師匠……一つお願いがあるんですけど、もしペストちゃんを見つけたらノアちゃんと会わせてくれませんか?」


「断ったら?」


「師匠の代わりに私がペストちゃんを探してきます」


 こいつめ、つまり実質断る余地はないということだ。

モモ君には聴取に集中してもらいたいが、かといってノアとペストを引き合わせるのもリスクが高い。

さて、どうしたものか……


「……わかった、善処はする。 だが保証はできないぞ、僕も僕の命を優先するからな」


「はい、お願いします! こっちは任せてください、なんなら野口さんたちの仕事も手伝いますので!」


「やめろ、君が動くと感染が広がる。 ノアを見張りながらできるだけ動かないでくれ」


「はい……」


 口先だけでも約束すればモモ君はここを動かない、ひとまずはこれで解決だ。

善処はすると言ったがあくまで努力目標だ、たとえ失敗したとしてもそれは僕のせいじゃない。


……さて、それではうちのバカ弟子に手を出してくれたネズミには落とし前をつけてもらおうか。

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