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抜錨 ②

「すごいです師匠、コルヴァスちゃんまで巻き込んで王様を丸め込むなんて! 天才詐欺師です!」


「ははは褒めてないだろモモ君、デコを出せ」


「あばぁー!」


 言われた通り額を差し出すと、ベチンと鈍い音を鳴らすデコピンを貰った。

ひどい、ちゃんと褒めたつもりなのに。


「別に騙してはいないさ、フォーマルハウトを治める者の血筋はコルヴァスが継いでいる。 彼女が首を縦に振ればあの土地はレグルスのものだ」


「でもそんな大事なことを勝手に決めていいんですか?」


「文句を言う住民は皆死んだだろ。 幽霊船が無くなってあの土地を欲しがる者も現れるだろうが、先に所有権を主張したもの勝ちだ」


「うーん、やっぱり詐欺師の手口みたいです」


「ははは良い度胸だ、もう一度デコを出せ」


「あだぁー!?」


 もう一発デコピンを食らってしまった、病んでいるとは思えないほど元気だ。

そうだ、こんなに脂汗ダラダラで辛そうなのに……


「……って師匠! 駄目ですよ寝てないと!?」


「だーれのせいでわざわざ起きたと思っているんだ。 僕を起こしたくなけりゃ君がちゃんとしろ、いいな?」


「わかりました、頑張りますから師匠は寝てください! 大五郎、見張ってて!」


『わっふー!』


「くっそー力じゃかなわない」


 無理やり師匠に毛布を掛けて大五郎の背中に乗せる、ベッドとしての乗り心地は悪いけど今は我慢してもらおう。

この先私がやらかすたびに何とかしてもらっては師匠の身体が持たない、気を引き締めて挑まないと。


「桃髪の、こちらの話は終わったぞ。 白銀の調子はどうだ?」


「はい、今は無理やり寝てもらったところです。 ただこのままじゃ命にかかわるらしくて……」


「そのようだな、猫より気難しいこやつがこれほど寝入るとはただごとではない」


 王様がすぐ目の前にいるというのに、師匠は大五郎の背中でか細い寝息を立てている。

いつもなら王様どころか私が近づくだけで目を覚ますはず、強がっているけどやっぱり呪いはしんどいんだ。


「幽霊船の呪詛か、聖女クラスでもなければ解呪も難しいだろう。 当てはあるのか?」


「はい、さっきからずっと王様を睨んでいる子がカギを握っています」


「ほう? 何やら面白い気配を感じていたが、やはりただものではないか」


 問題のノアちゃんは、王様が現れてからずっと距離を取ってダイゴロウの後ろからこちらを睨みつけている。

彼女の正体を話せば王様はノアちゃんを勧誘するだろう、王様の嗅覚もノアちゃんの勘もかなり鋭い。


「まあよい、聞けば余は辛抱ならなくなるだろう……しかし聞きたい……いやしかし……」


「王様! フォーマルハウトとコルヴァスちゃんたちのことよろしくお願いしますね!!」


「おお、そうであったそうであった。 任せよ、余の手の届く限り決して困窮させぬ」


「うぅ゛ー……指が痛いぞ」


 王様の手には血判が押された羊皮紙が握られ、コルヴァスちゃんは自分の親指を咥えている。 私が師匠を寝かしている間に2人の間で契約が交わされたらしい。

王様は自分の欲には素直だけど悪い人じゃない、不利な契約を結んで騙すような真似はしない人だ。 コルヴァスちゃんたちのことは任せて大丈夫……だと思いたい。


「王様、コルヴァスちゃんたちを悲しませちゃダメですからね」


「うむ、余は約束は守る男よ。 それに白銀のを怒らせたくはない」


「その時は私も怒りますからね! コルヴァスちゃんも困ったときは周りの人に相談です、とくにメイドさんへの密告は効きます」


「やめよやめよ、それだけはやめよ桃髪の」


「わかったぞ、あることないことぶちまければいいんだな!」


「おっともしや余はとんでもない獣と手を組んでしまったか?」


 うん、なんとかなりそうだ。 

コルヴァスちゃんは強い、ずっとこの枯れた土地をおじいちゃんたちと一緒に生きてきたんだ。

これからフォーマルハウトにはいろいろなことが起きるだろうけど、彼女なら乗り越えられる。


「……話は……済んだのか……? いい加減にしないと、そこのバベルもどきが死ぬぞ……」


「はい、大丈夫です! 王様、コルヴァスちゃん、ここでお別れですね」


「うむ。 ……しかし海を渡るとはいうが、どうする気だ? さすがの余も船は用意できぬぞ」


「問題ない……オタンコ、お前ならできるだろ……」


「えっ、私ですか?」


 なんだろう、ノアちゃんは当然だという顔をしているけど全く心当たりがない。

もしかして師匠たちを背負って次の街まで泳げということだろうか? いやいやまさかそんな。


「アホなことを考えているところ悪いが……全然違うからな……お前は、私を()()()だろう……?」


「そうですね、幽霊船は食べました。 美味しくなかったです」


「味はどうでもいい……だからお前は、使えるはずなんだ……念じてみろ……」


「念じる? こうですか?」


 いつか読んだドラゴンのボールを7つ集める漫画のように、ぐっとガッツポーズを作って全身に力を込めてみる。

するとヘソのあたりからグワっとドス黒いものがこみあげて、私の手を通して飛び出そうとする感覚に襲われた。

いや、手じゃない。 私の腕に装着した杖を介して“何か”が放たれようとしている。


「うぎぎぎぎ……! な、なんですかこれ!?」


「堪えるな……その感覚を受け入れて、放ってみろ……」


「そそそそんなこと言われてもなんか背筋がゾワっとしてうぎゃー!?」


 しびれを切らしたノアちゃんが私の背中を人差し指でツーっとすると、途端に力が抜けて今まで堪えていたもののタガが外れてしまう。

杖に集まった黒いものが一気に私の手から飛び出したそれは、土にしみこむこともなく折り重なって何かを形作ろうとしているようだ。

そして3Dプリンターを早回ししているように、どす黒い液体がどんどん重なって作られた形は……見上げるほど大きな“船”だった。


「ほう、これはまさか……」


「こ、これって……幽霊船!? だ、大丈夫なんですかこれ!?」


「チッ……やはりオタンコを通して()()されてるか……誰も死なないとは、腑抜けたな……」


「ノアちゃん!?」


「なにが悪い……私は元より人類の敵……背中を見せるような真似をした、お前が悪い……」


 舌を出してそっぽを向くノアちゃんは悪びれる様子もない、師匠が起きていたらただじゃすまない悪行だ。

でも危なかった、今のは私もちょっと迂闊だったかも……あれ、もしかしてわざわざ「自分を信用するな」って教えてくれた?


「ほうほう、ほうほうほうほうほう? それは幽霊船か、使役したのか。 つまりそこにいる娘は?」


「ああダメだ王様の目が輝き始めた。 ノアちゃん、どうしよう」


「し、知らん……私もあいつは、本能的に苦手だ……さっさと海に、出るぞ……」


「海に出るってまさか、幽霊船(これ)で?」


「それ以外……乗り物はないぞ……オタンコ、お前が船のキャプテンとして……ラサルハを目指せ……」

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