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師匠、死す ④

「この世の罵詈雑言をすべて継ぎ合わせたとしても君への評価にはほど遠いな……!」


「いやあそれほどでも」


「ははは今のを誉め言葉と受け取る度胸だけは褒めてやろう! ダイゴロウ、胃薬!」


『わっふぉーん』


 フォーマルハウトで何が起きたのか、モモ君の報告を飲みこむにはかなりの時間と精神力が必要だった。

いちいちの行動が理解不能なので何度か聞き返し、頭痛を覚えながら理解して次の話を聞き、また意味不明な行動に頭を痛めること数十回。

何度か気が遠くなりかけたが、これまでの経験と多大な精神力のおかげでなんとかすべての話を飲みこむことができた。


「ちょっと見ない間にずいぶん仲良くなりましたね、なんだか私も嬉しいです」


「僕は全く嬉しくないが同じ言葉を返してやろう、ちょっと見ない間にずいぶん仲良くなったじゃないか厄災どもとなぁ!」


「仲良くなった……わけじゃない……!」


「3人で協力したから幽霊船を倒せたんだぞ!」


 僕の命令で正座中であるモモ君の目の前には、ロープで雁字搦めにされた少女……もとい、「ノア」が転がされている。

その正体は幽霊船の核、およびテオたちと並ぶ災厄を語る少女たちの一人だというのだからもう頭を抱えるほかない。


「君というやつは……君というやつは本当に……本当に!!」


「えへへ、照れますね」


「でっかいの、褒められてないぞ」


「こんな細腕じゃなければ君の頭頂部にタンコブの1つでも作っていたところだ。 ……ところでモモ君、さっきから何を食べているんだ君は」


「ふぁい? あっ、これですか?」


 ふざけたことに、叱られている最中もモモ君は手にした板切れをバリバリと食べている。

いや板切れのような、とかそういう事ではなく本当に板だ。 床板を引っぺがしたような木板を馬鹿げた顎の力で噛み砕いているようにしか見えない。


「これはあれです、幽霊船の根元にあった魔法陣。 食べきれなかったので残りは小腹が空いたらつまもうと思って」


「へーなるほどなるほどあの幽霊船を形作っていた根幹の術式かオワアァー!!?」


「ウワーッ!? し、師匠もお腹空いたんですか!?」


「誰が食べるか!! 貴重な生きた情報源を食うな!!」


 すでに板切れは8割損失しているが、かろうじて残された魔法陣は解読できそうだ。

かつての魔術師が遺した情報は非常に貴重だ、この術式を読み解けばテオたちへの対策を講じることもできるかもしれない。


「そもそも君はこんなものを食べて平気なのか……?」


「そいつ……私の呪いを飲み干しても……平然としたやつだぞ……」


「君どんどん人の道から外れて行ってないか?」


「ひどい」


 聖水を飲んで呪いに抵抗できるのはまだわかるが、呪いを摂取することで同化してしまうのは完全に想定外だ。

こうして目の前にいるならモモ君の身体から呪詛が放射されている恐れはないが、つくづく頭の留め具が吹き飛んでいるとしか思えない。


「ふん……私からすれば、お前の方が異常だがな……バベル……!」


「悪いが半分人違いだ、君が知るバベルはこんなベラベラ喋るやつだったか?」


「…………」


 振り乱した髪の隙間から覗くノアの目には、強い憎しみの念が籠っている。

やはり彼女たちとこの身体の持ち主には深い因縁があるようだ、ヌルは裏切りと言っていたがいったい何をやらかしたのやら。


「ふぅー……モモ君の所業にはいろいろ言いたいことも多いが、ノアを生け捕りにしたことだけはよくやった。 彼女から聞き出したいことは山ほどある」


「くっ……殺せ……!」


「ダメです、師匠。 ノアちゃんをいじめるのはNGです」


 僕からよからぬ雰囲気を感じ取ったのか、モモ君がノアと僕の間に割って入る。

後ろで控えているコルヴァスも体勢を低くして今にも飛び掛からんとしている、本当によくもまあこの短時間で仲良くなったものだ。


「モモ君、ノアはテオたちと同じ立場の存在だ。 優しく接してやる必要はどこにもないと思うが」


「ノアちゃんはついさっき幽霊船から解放されたばかりです、その原因も当時の人間にありました」


「可哀そうだから同情すると? 君の背中を刺さない保証がどこにある」


「だからってイジメて聞き出した話を師匠は信用できますか?」


「…………チッ」


 モモ君は道理を無視するバカだが、だからこそこうして直感的に痛いところを突いてくるときがある。

たしかに堅い口を無理やり割らせたとして、その内容が信用できるかは別問題だ。 拷問するなら何人か痛めつけて、成否を照らし合わせる手間がかかる。


「……優しくされたところで……私は何も話さないがな……」


「だ、そうだ。 いっそここで介錯するのが優しさではないのか?」


「ダメです、ノアちゃんにひどいことする師匠を見たくないです。 ちゃんと私が責任もちますから!」


「そういって本当に面倒を見れるのか? エサ代だってバカにならないんだぞ」


「私を……ペットみたいに言うな……!」


『ふぉーん』


「ふん、まあいい。 テオたちと合流されても困るので君を解放する気はない、しばらく僕たちと同行してもらうぞ」


「素直に……いう事を聞くとでも……」


「君たちにとっても僕の存在は無視できないんじゃないか、バベルの肉体がここにあるんだぞ?」


「…………」


 悔しそうに唇を噛みしめるノアの沈黙が、何より雄弁な答えだった。

こちらとて手札がないわけではない、強引な手段が取れないなら正当な交渉で話を聞き出そうじゃないか。


「交換条件と行こう、僕らも君が知りたい情報を可能な限り開示する。 だから僕の質問にも答えてもらおうか」


「なんだか難しい話が始まっちゃいましたねコルヴァスちゃん」


「うぅ゛ー、ちっこいのの話は小難しい言い回しばかりでわけわからないぞ」


「そこ2人ー、今は大事な話をしてるからしばらく干し肉でも嚙んで待ってろ」


「「はーい」」


 保存食の中から大きめの肉を2切れ投げ渡すと、獣娘とバカ娘は大人しくなる。

あの干し肉は日持ちこそするがスープで煮込まない限り硬くてなかなか噛み切れるものじゃない、しばらく肉と格闘している間は大人しくなるだろう。


「さて、話を戻そう。 こちらの申し出は受け入れてくれるかな?」


「……いい、だろう……まずお前は、何が聞きたい……?」


「そうだな、ではまずは――――……」

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