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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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はんにんさがし ②

「んもー、なんで起こしてくれなかったんですか師匠!」


「起こしたが君が起きなかっただけだろう、徹夜の頭に響くから騒ぐな」


 翌朝、目を覚ましたモモ君から聞いた第一声がこれだ。

文句があるなら自分で起きる努力をしない方が悪い、寝込みを襲われていたら間違いなく死んでいた。


「朝食を済ませたらギルドに行くぞ、昨日の件を報告しないとな」


「了解しま……あっ、ちょっと待ってください。 私ちょっと寄り道します」


「なにぃ?」


 こいつ、まさか僕にギルドまでの永い道のりを一人で歩かせる気か。

いや、それ以前に単独行動の危険性が分からぬほど間抜けなのか? 寝ぼけて昨夜の記憶が全部吹っ飛んだのか?


「ごめんなさい、すぐに合流しますから! 走って追いつきます!」


「たしかに君の脚ならすぐだろうが……まあいい、だがどこに行くつもりだ?」


「ちょっと昨日の孤児院に寄ってから行きます! なんなら師匠は宿で待ってても大丈夫です、すぐに戻りますから!!」


 そう言うとモモ君は窓から飛び出し、屋根の上を器用に渡りながら街を駆けていく。

追いかけるにも骨が折れる速度だ、それに止めたところで聞きやしないだろう。 体力と魔力の無駄だ。


「……ハァー……僕も飛んで行くか」


 同じ魔力を使うなら、先にギルドで用事を済ませてしまった方が無駄が少ない。

宿のチェックアウトを済ませ、僕もギルドへ向けて宙へ飛び出した。


――――――――…………

――――……

――…


「と、いうわけでこちらが問題のナイフだ」


「よくもまあ涼しい顔して恐ろしいものを出すもんだね」


 ギルドに到着すると、何かを察したステラがすぐに昨日と同じ個室へ通してくれた。

対応が早くて非常に助かる、今回は特に神経を使うものを運んでいたからなおさらだ。


「今は塗布された毒液を水で希釈して金属鍋に保管している、あとは魔法で浄化してくれ。 僕はそっち方面がからっきしなんだ」


「そうかい、あんたにも苦手な事があって安心したよ。 こいつの処理はうちに任せな」


「あいにく神を信用していなくてね。 それと支部長はいないのか?」


「朝早くから助っ人の迎えに出かけているよ、そろそろ戻ってくる頃だと思うけどね」


「助っ人……? ああ、ちょうど今戻って来たな。 ギルドの扉を開けたところだ」


「……あたしにはどうやってるのかさっぱり分からないんだけどさ、何やってんだいあんたのそれ?」


 ステラが少し引いた顔を見せるが、ただ他人の魔力を探っているだけだ。

そろそろ戻るというからいつもより索敵範囲も広げていた、彼の魔力なら昨日覚えたばかりで探りやすかったのもある。


「まっすぐこちらに向かっているな……隣の人物が助っ人か? かなり魔力の扱いに長けているようだが」


「まあ、それは嬉しい評価ですね」


 不躾な値踏みをしている間にも、支部長たちは個室の前まで到着していたようだ。

いや、そんな事よりも扉の向こうから聞こえるこの声は忘れるはずもない。


「……まさかこんなすぐに再会するとはな。 考えたくもなかったぞ、ロッシュ・ヒル」


「ふふっ、これも神の思し召しですよ? ライカ・ガラクーチカさん」


――――――――…………

――――……

――…


「おはようございまーす! ミーティアさんいますかー!」


「あっ、昨日のうるせーねーちゃんだ!」


「ねーねーお化け屋敷どうだったー? 昨日の銀髪ちゃんいないのー?」


「はーい、百瀬かぐやです! 今日は何して遊びますかー!」


 屋根の上を走って孤児院に到着すると、すぐに元気いっぱいの子供たちがわいわい集まって来る。

昨日の今日で心配していたけど、皆何も変わりはなくてちょっとだけ安心した。


「あら~? モモセさん、どうしたんですか~?」


「あっ、ミーティアさん! どもども、ちょっと気になっちゃったもので」


 子供たちと遊んでいると、洗濯カゴを抱えたミーティアさんもやってきた。

洗濯カゴの中は子供たちが汚した服で一杯だ、まさかあれを全部一人で洗っているのだろうか?


「あら~、そういえば幽霊屋敷の件は大変だったようですねぇ」


「えへへ、色々あって死にかけちゃいました……それ洗濯ですか? 私も手伝いますよ!」


「あらあら、お客様にそんな事は任せられないので~」


 山盛りになったカゴを手伝おうと伸ばした腕をヒョイと避けられた。

華麗な身のこなしだ、さすがこの数の子供たちを見ているだけはある。


「お茶もお出しできませんけど、少し院内でお待ちください。 子供たちと一緒にやっつけてしまうのでー」


「姉ちゃんこっちで遊ぼうぜー! ボールあるんだぜボール!」


「あはは、私が蹴るとボールが木っ端みじんになっちゃうから……」


 洗濯をサボろうとついて来る子供たちを振り切りながら、孤児院の中に避難する。

窓の外では水を張った桶の上で子供たちが洗濯物をもみくちゃに踏んだりかき混ぜたりしている様子が見える、ちょっと楽しそうだ。


「……そういえば服、洗わないとなあ」


 師匠の魔法で身体は洗って貰っているけど、服の方は全然手を付けていない。

それとも服も一緒に洗っているのだろうか? 考えてみると汗臭さや泥汚れもあまり目立ってない気もする。

コツコツカツン、コツコツカツン、手持ちぶたさん(てもちぶさた)と考え事でなんとなく部屋をグルグル回っていると、部屋の中にローファーの足音だけが響く。


「…………あれ? なんだろうこの感じ」


「お待たせしました~、週一の大仕事が終わった終わったぁ」


 そこにちょうど良く洗濯を終えたミーティアさんが戻ってきた。

外は雪が残る寒さなのに、額には薄っすらと汗が滲んでいる。 洗濯機のない時代の洗濯は大変だ。


「どうぞ、よく冷えたお水です~。 それで、今日は依頼も出していませんけど何の御用でした?」


「わあいありがとうございます。 いやー、昨日物騒な出来事もあったので安否確認……のつもりだったんですけど」


 キンキンに冷えた井戸水を飲み干すと、緊張で温まった体にすっとしみ込む。

これは間違っていたらすごく失礼な事だ、何を言われても文句は言えない。

それでも私は、この直感は間違っていないと思う。


「……ミーティアさん、もしかして昨日の夜に師匠を襲いました?」

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