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呪いと呪い ⑤

「うーん、全然出られない!!」


『当たり前だ……このオタンコォ……』


 幽霊船をどうにかするため、まず初めに考えたのが単純に歩き(または泳ぎ)続けることだった。

ノアちゃんを中心としてまとわりついた呪いの塊が幽霊船の正体だ、つまり彼女を船の外に連れ出せば勝手に壊れてくれるんじゃないかと考えた。

だけどこの闇の中を歩き始めてすでに30分は過ぎている気がするのにまったく終わりが見えない。


「うーん、私たちがノアちゃんと会う前に泳ぎた距離はとっくに越しているはずなんですけど……」


「でっかいの、すごいことに気づいてしまったぞ」


「なんですかコルヴァスちゃん」


「この呪いの本体がそこのずぶ濡れなら、こいつが移動すれば連動してガワの呪いも動くんじゃないのか?」


「………………なるほど!!」


『もうやだ……こいつら……』


 うっかりしていた、呪いがノアちゃんに連動しているならいくら歩いても出口が見つからないわけだ。

まるで回し車で遊ぶハムスター、もしくはルームランナーを走り続けていたようなもの。 ただ時間だけを無駄にしてしまった


「ノアちゃん、質問です。 どうしたら幽霊船とのつながりって断ちきれますか?」


『それができるなら……とっくに脱出してる……』


「それはそうですよねぇ」


 考えよう、私の頭は悪くても時間はある。 

幽霊船は外から取り付けられたオプションだ、外せないわけがない。 きっと何か方法がある。


「ずぶ濡れ、そもそもどうしてお前はこの中に囚われているんだ!」


『……呪いたちの憎しみが……私に向けられているからだ……犠牲になった人間たちが、余計に私の足を引く……』


「犠牲になった人たちですか……」


 クラクストンの中で垣間見た記憶がよみがえる、魔法陣の上に並べられた人たちが液体になるまで溶けていく光景が。

呪いを“飲んだ”今は分かる、この闇を作っているのは死んでいった人たちが持っていた負の感情だ。

1つ1つでは弱い感情を死ぬまで追い詰めて、最高潮まで高まった憎しみや悲しい感情を人という器から絞り出したのがあの黒い液体なんだ。


幽霊船(わたし)が殺した人間は……当然ノア(わたし)を恨む……何百年も積み重ねた死の怨念は……決してこの身体を逃がさない……』


「うぅ゛ー……でっかいの、これ無理だぞ!」


「ノアちゃん、それなら今もあなたは死んだ人たちから呪われている状態ってことですか?」


『……当然』


「なら説得しましょう」


『はっ……?』


 最初の犠牲者と幽霊船に飲まれて死んでいった人たちがノアちゃんを縛り付けているなら、ひとつずつ解こう。

たぶん途方もない人数になるけど、他の手が思いつかないならまず試してみるべきだ。


『お前……バカ……? できるわけが……』


「それを今から確かめます」


『なんで……そこまでする……私は、人の敵だぞ……』


「だってノアちゃんも犠牲になった人たちも、ずっと呪いに閉じ込められたままではよろしくないです」


 幽霊船の中はジメジメしていて暗くて息苦しい、そのうえ常にどこからか見られているような視線も感じるし悪口が聞こえる気がする。

死んでもなおこんな場所で恨みに囚われるなんて考えるだけでもぞっとする、生きているならなおさらだ。


「だから私は決めました、幽霊船を終わらせてどっちも助けると。 だから協力してください、ノアちゃん」


『…………オタンコピンク』


「それで、どうやって幽霊船に囚われた人たちと交渉すればいいんでしょうか?」


『オタンコピンク…………』


――――――――…………

――――……

――…


 ああ、こいつは本物のバカなんだ。 お人好しが人の皮を被って歩いているような底抜けの阿呆だ。

だからこんな聞いている方が恥ずかしくなるような理想論を大真面目に語るし、叶うと信じて疑わない。

一体どこのどいつだ、よりにもよってこんな悍ましい奴を私の中にぶち込んできたのは。


『……わかった……教える……』


 だけどこれは好機だ、数百年この屈辱の海で揺蕩うしかなかった私に舞い込んできた千載一遇のチャンス。

こいつを利用すれば忌々しい幽霊船の楔から解き放たれるかもしれない。 そうだ、だから私はこいつを騙しているだけに過ぎない。

幽霊船さえどうにかなれば、この2人は始末する。 それが私たちの使命なのだから。


『私の手を取れ……私に向けて注がれる呪いを……そのままお前に押し付ける……』


「わかりました!」


「待てでっかいの! そんなの呪詛の一番強いやつを直接注がれるものだ、今度こそ死ぬぞ!」


『呪いを飲み下すような……稀代の阿呆なら大丈夫だろ……』


「うぅ゛ー……」


「コルヴァスちゃん、そこはちょっと反論してくれると嬉しかったです! ……でも大丈夫ですよ、少し話をしてみるだけです」


 やはりバカだこいつは。 根拠のない自信を振りかざしたところでお前が強くなるわけではないのに。

そこの呪われた小娘の言う通り、私を媒介して直接注がれる呪詛の原液は今までの比じゃない。

幽霊船の呪詛を摂取できたこのオタンコなら耐えられるかもしれないが、最悪精神が壊れるだろう。


 もしこいつが壊れてしまったら……その時はその時だ、角付きも始末して私は人類抹殺の役割を順守する。


「ではお願いします、握手すればいいんですよね!」


『早い早い早い……!』


 こいつの頭には躊躇や恐怖という概念がないのか? ほぼノータイムで掴んできた。

すでに言ったはずだが私は幽霊船の呪詛に強弱は付けられても制御はできない、“弁”を開いて構えていたところにこうも容易く踏み込まれては……


「う、ぐ――――っ!?」


 ああ、死んだ。 このオタンコピンクめ、これは確実に死んだぞ。

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