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呪いと竜とバカ弟子と ⑤

「……わあ、すごいことになってる」


「うぅ゛ー……! だから言ったぞ、近づけないって」


 コルヴァスちゃんと並んで物陰から覗き込んだ先に見えるのは、ボロボロになった大きな城門だ。

そしてその両隣には2体の黒い人影が立っている、しかも大きい。 ぱっと見た感じだけど3mぐらいあるかもしれない。


「あれは強いぞ、そして濃い。 でっかいののシュワシュワも効くけど耐えられる」


「正面突破は難しいですね、それに……」


「うん、あの中はもっとうじゃうじゃだ。 私も入り込めないぞ」


 私でもわかる、おっきな人影たちが守るお化け屋敷の中から漏れるおぞましい気配が。

たまに割れた窓やひび割れた壁の穴から黒い何かが動いているのも見える、それも1つや2つだけじゃない。

中はきっとモンスターハウスだ。 コルヴァスちゃんが侵入できないなら、それはもう誰もお城に入れないということになる。


「にしてもなんでお城だけ黒いのがいっぱいいるんですかね……?」


「知らんぞ、興味ないからな!」


「うーん、そうだよねー」


 コルヴァスちゃんから見れば危ない場所へわざわざ近づく必要もない、気になる謎があっても命には代えられないのだから。 

だから私も無理に調べる必要はないんだ、目的はあくまでお城じゃなくて遺跡の探索だから。


「よし、じゃあお城には近寄らないように気を付けましょう。 ぐるっと迂回して向こうに行きましょう」


「わかったぞ、ついてこいでっかいの!」


 元気に走り出すコルヴァスちゃんを追いかける前に、もう一度だけ城の方に振り返る。

師匠ならこの距離でももっと詳しく調べられるのかもしれない、だけど私にわかるのは多くの黒い何かがおしくらまんじゅうになりながらうごめいていることぐらいだ。

だからわからない、ずっと胸の中に残っている違和感の正体が。 私はいったいあのお城の中に何を感じているんだろうか?


――――――――…………

――――……

――…


「うぅ゛ー……ない!!」


「もー、なんでぇー!?」


 お城を迂回してから数時間後、私たちは途方に暮れていた。

イカロスさんが示してくれた次へのヒント、「遺跡」に近い建物すら見つかっていない。

そもそもイカロスさんが示してくれた地図があやふやなんだ、大体の一はフォーマルハウトとわかっても、この広い街の中から遺跡を見つけ出すのは簡単なことじゃない。


「でっかいの、お前が探してるのはどんな建物なんだ!?」


「うーんうーん……どういう建物ですかね……」


「うぅ゛ー!!」


「ご、ごめんなさーい!」


 こんなことならイカロスさんをもう一度起こしてちゃんと聞き出すべきだった。

目的地につけばなんとなく見つかるだろうなと油断していた、頼みの綱の師匠と大五郎も今は別行動だ。


「街は一周した、地下道もぐるりと回ってみた、あと考えられるのは……」


「…………でっかいの、ダメだ。 それだけはダメだぞ」


 候補は2つある。 まず一つは単純にまだ探していない場所……つまり「海」に近い位置だ。

アルデバランの時みたいに幽霊船と遭遇したくないから後回しにしていた、なので探索も全然進んでいない。

そしてもう一つの可能性は――――あのお城の中だ。


「コルヴァスちゃん、海とお城ってどっちが危なくないかな?」


「どっちも同じぐらいダメだぞ、私も近寄らないんだ! 死ぬぞ!」


「そっかぁ、うーん……わかった、コルヴァスちゃんは師匠のところに戻ってて。 ここまで道案内ありがとうね」


「うぅ゛ー!? 私はダメだって言ったぞ、なんでそこまでする!?」 


「ごめんね、師匠の命がかかってるんだ」


 正直遺跡の発見が師匠の抱えている問題とどうつながるのかはまだわからない。

だけど魂なんて問題はこの世界にある魔法や魔術という常識ですらどうにもならないんだ、ならちょっとでもありえない可能性に踏み込まないと突破口なんて見つからない。

イカロスさんや遺跡の存在は明らかにこの世界から浮いていた、もしかしたら彼らを作った存在なら……


「命は大事だぞ、だけどお前が頑張るほどなのか!?」


「コルヴァスちゃんもおじいちゃんたちが死んじゃうと悲しいよね? 私にとってのそれが師匠なんです」


「う……うぅ゛ー……」


「だけど私の無茶に巻き込む筋合いはありませんから、コルヴァスちゃんは案内だけの約束ですしね」


「……いくぞ」


「えっ?」


「自分も行く、おじじたち死ぬなら私も同じことするぞ! だからでっかいの、お前についてく!」


「えぇー!? いや大丈夫ですよ、危ないですから!」


「ならちっこいのの命を助けるお前は誰が助けてくれるんだ! だから私がやるんだ!!」


「う、うーん……嬉しいようなちょっと複雑な気持ち!」


 ついてきてほしくはないけど、コルヴァスちゃんは私の腕を掴んで離そうとしない。

無理に引き返しても彼女はこっそりついてきそうだ、ならむしろ一緒に行動していた方が安全かもしれない。


「……わかりました、一緒に行きましょう! コルヴァスちゃんの背中は守りますから私の背中は預けます!」


「でっかいの、なんかかっこいいな!」


「私も一度言ってみたかったセリフです! それでコルヴァスちゃん、海とお城のどちらへ向かいます?」


「うぅ゛ー……どっちもいやだけど、どっちかマシな方なら――――」


「……やっぱりそっちですよね、私も同じ意見です」


 ああ、この場に師匠がいたらまたクドクド文句を言われるんだ。 小言が幻聴になって聞こえる。

だけどこの場にいるのは私たち2人だけで、決定権も行動権も私たちだけのものだ。

異論はない、次の目的地は決まった。 私たちが目指すのは……


「……行きましょうか、あの恐ろしいお城に!」

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