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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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皇帝 ④

『……せやからなぁ、ワイはおどれらみたいな敵から人類を守るハイパークオリティすごすごゴーレムやねん!』


「わあ、全部喋ってくれる~」


 最初は気難しいかと思ったけども、どうやらイカロスさんは喋りたがりらしい。

ちょっと質問するだけで聞いていないことまで詳しく教えてくれる、たぶんこういう人(?)が詐欺に会いやすいんだろうな。


「でもそんなすごいゴーレムならなんで簡単に縛られちゃったんですか?」


『アホぬかせ、ワイはこの居住区の管理に特化した個体や。 荒事は表の“マンティス”どもに任せとる』


「マンティスって……あのそっくりさんたちですか?」


『いや誰が誰のそっくりさんやねん、主語ぬかすな主語を』


「知り合いにそっくりなんです、ちょっと色味が違いますけど……どうしてなんですか?」


『知るか! 色は製造地の違いやろ、しかも外にいるっちゅうことは誰か盗み……おうこらそこのガキ、そのパネルに触んなや! この施設のエネルギーパイプを制御しとる重要なモンやねんぞ!』


「なるほど、良いことを聞いた。 操作方法を調べるから少し黙っていてくれ」


『触んな言うとるやろがー!!』


「まあまあ、それよりイカロスさんって何歳なんですか?」


『知らん、スリープと再起動繰り返しとるからな。 起動合計時間は32日と12時間っちゅうところやな』


「1か月ちょいですか、結構短いんですね」


『緊急事態に起動する最終防衛ラインなんや。 最近は七災の反応が近所に現れたから寝ずの番が続いてな……』


 たぶんテオちゃんのことだ、彼女が落とした隕石の衝撃でイカロスさんも目覚めたんだと思う。

だから私のことも敵だと勘違いしたんだ、この身体と杖から竜の気配を感じたから。


「はい、次の質問いいですか!」


『おう、聞くだけ聞いてみい』


「イカロスさんはテオちゃん……七災と呼んでいた子たちと喧嘩していたんですよね、なんでですか?」


『ケンカなんて生ぬるいこと言うなや、あれは人類の存亡をかけた戦争や』


「それです、なんで彼女たちは人間を憎んでいるんです?」


『……ほんまに何も知らんねんな、いっそ羨ましいわ』


 イカロスさんの言葉にはこれまでになかった負の感情が込められていて、ヘソに力を込めていないと気圧されてしまいそうになる。

だけど私たちは知らなくちゃいけない。 なんでテオちゃんたちが人を憎むのか、昔に何があったのか。


「知らないです、だから知りたいんです。 教えてください」


『…………チッ、しゃあないな。 つってもワイの情報アクセス権限は少ないで、なにが“バベル”に引っかかるか分かったもんやないからな』


「バベルってあれですよね? いっつも空に見える大きな塔」


『せや、おかげで人類の言語は統合されてもうた。 ワイもゲジョロンコ訛りが相当強い設定にされとるけど言葉通じるやろ?』


「ゲジョ……?」


『そこは気にせんでええねん、誰でも彼でも言葉が()()()()()()ってことが問題や』


「それって悪いことなんですか?」


 誰でも言葉が通じる世界、最高だと思う。 誰でも英語のテストが100点満点だ。

イカロスさんは渋い顔をしているけど、どんな言葉も通じることで困る状況が思いつかない。


『嬢ちゃん、おどれは何語を話しとる?』


「日本語……ですね、たぶん」


『今ちょっと不安になったやろ? 皆が皆、今何語で会話してるかもわからん状況がずっと続いとんねん、もしあの塔が突然無くなってもうたらどうなると思う?』


「…………大変ですね!?」


『せや、人類が積み上げてきた言語体系が崩壊する。 おまけにワイたちが話す言葉はバベルに監視されとるさかい』


「な、なるほどぉ……それが滅多なことを話せない理由ですね?」


『おかげ様でな、あの塔にはいくつかN()G()()()()がある。 それを呟けばたちまちほかの災厄共が飛んでくるっちゅう仕掛けや』


「……それは確証がある話なのか?」


 どこから話を聞いていたのか、パネルの操作を切り上げた師匠が会話に合流してきた。

いや、切り上げというより諦めたのかもしれない。 師匠の手には引っぺがされたパネルの一部が抱えられていた。


『お前何してくれとんねーん!?』


「こちらの方が手っ取り早くゴーレムへの供給を断てたからな。 かなり高度な制御盤だ、芸術品といってもいい」


『その芸術を台無しにしてどないする!!』


「非常に心苦しい。 それでバベルが会話を監視してるというのは本当なのか?」


『おどれ必ず一発シバいたるからな……確たる証拠があるわけやない、けど言論監視はほぼ確実や。 同じケースで襲撃された避難区も多いで』


「そのNGワードとやらを教えては……もらえないだろうな、ここが狙われる危険が高い」


『わかっとるやんけ、滅多なこと言うなや。 そもそもワイも具体的な内容は知らん』


 バベルは今日も空にぼんやり浮かんでいる。 言葉でも文字でも、教えるために伝えれば見つかってしまうはずだ。

だけど本当に……そんなことが可能なんだろうか?


「イカロスさん、バベルの影響範囲ってどのくらい大きいんですか?」


『あぁん? そないなもん全部や全部、人類を監視しとるんやから穴があったらあかんやろ?』


「でも誰もNGワードをつぶやかないなんて難しくないですか? 偶然でも0じゃないはずです」


「偶発的な事故でテオたちが襲撃した場合、大きな騒ぎになるだろう。 それも繰り返せば大まかな法則は読めるはずだ」


『…………』


「あるいは……意図的にその言葉を使う機会がない環境が作られている?」


『縄を解け』


「へっ?」


『ええからさっさと縄解かんかい! 別に逃げたりせんわ!』


 今までおとなしくしていたイカロスさんがここに来て暴れ始める。

とはいっても芋虫みたいに身体をよじっているだけではあるけど、どうしたらいんだろう。


「モモ君、彼の縄を解いてくれ。 なにか言いたいことがありそうだ」


「あっ、はい! えーっと……これ千切ってもいいですか?」


『やめえや! 大事なケーブルやねん、1ミリも傷つけたらあかんで!?』


「えー……」


 すごく複雑に結ばれた縄……というか電気ケーブルらしきものを丁寧に解いていく。

私の力で引っ張っても簡単に千切れないあたり、すごく頑丈な造りだ。 おかげでそこまで時間もかからずにイカロスさんを救出できた。


『ふぅー、ワイのボディに傷が付いたら全世界の美ゴーレムが悲しむところやで……ほならワイについてきぃ』


「ついてこいって、どこにです?」


『おどれらに見せなあかんもんがあんねん、そっちのイケメン小麦肌もや。 自力でそこまで思いつくやつには教えたる、それがワイに設定されてる命令やからな』

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