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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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ゆうれいさわぎ ③

「師匠、邪教ってどういうことですか?」


「うるさい、良いから君は体調回復に努めろ」


 幽霊を撃退した後、疲れて動けない私は一階のソファに寝かせられていた。

師匠の話ではすごい量の生気を吸われたらしく、普通の人なら死んでいたかもしれないと聞いてゾッとした。

これも神の恩寵(ギフト)のおかげなのだろうか。


「ヒマなんですよー、動けないし寂しいですし構ってください!」


「…………ハァー……腕ぐらいは動かせるだろ、今日渡した本をめくってみろ」


 長くて重たいため息を吐き出し、師匠は枕元に置いていた本を渡してくれた。

依頼のお土産にもらった子供向けの本だ、めくっていくと見覚えのあるドクロとヘビのマークが描かれたページを見つける。


「あっ、これってさっき師匠が見つけた」


「不浄と永劫の神オーカスの聖刻印だ。 髑髏が不浄、その周囲を一周するヘビの身体が永劫を意味している」


「な、なんだか物騒な神様ですね」


「そうだ、だからこそ邪神と蔑まれる」


 その時の師匠の表情は、まるでキッチンでカサカサと動く黒光りするやつ(G)を見つけたような目をしていた。

不浄と永遠を司る神様、汚いのはもちろん嫌だけどそこまで嫌われるなんて何をした神様なんだろう。


「オーカスは免れぬ死の運命を持つ人間を憂い、そのすべてを救おうとしたと言われている」


「つまり人類みんな不老不死にしようと?」


「ああ、ただし最悪の手段でな。 オーカスは人間を一度殺害し、グールや悪霊として生き永らえさせようと目論んだ」


「ぶ、物騒だ!?」


 悪霊……つまり人間をみんな二階で遭遇したお化けにしてしまおうと考えた神様、たしかに邪神と言われても仕方ないかもしれない。

でもそんな危ない神様の聖刻印が見つかった屋敷で幽霊に出会ったということは……


「もしかしてここに住んでいたおじいさんってその神様を信仰していたって事ですか!?」


「いや、それはどうだろうね。 魔導とやらは浅学だが魔法と手を取り合える概念とは思えない。 それに見つけた聖刻印はつい最近作られたものだ」


「難しい話は分からないので結果だけ教えてください!」


「君なぁ……はぁ、つまりは屋敷の主が亡くなった後、誰かが人為的に悪霊を作った可能性があるってことだ」


「えーっと……………………それってとんでもないことじゃないですか!?」


「飲み込むのに大分時間がかかったな」


 師匠がいたから何とか助かったような相手だ、もし私たちじゃなければ誰かが死んでいたかもしれない。

そんな危険な幽霊を放つなんてたぶん殺人未遂とかそういう罪に当たる行為だと思う、異世界だろうと許されるものじゃない。


「でもなんで犯人はそんな事を?」


「話を聞いてなかったのか、オーカスは死んだ後にこそ永遠の命が宿るとした神だ。 なら信者は何が一番オーカスを喜ばせると考える?」


「……えっと、死体をいっぱい作ること?」


「その通りだ、そして死体が増えるほど悪霊どもも数を増やす。 これがどういう意味か分かるだろう?」


 生気を吸い取られて死んだ人がお化けになって、その人もまた他の人を襲ってお化けになって……

さすがに私でもわかる、人が死ぬたびにお化けが増えて収拾がつかなくなってしまう。


「昔はオーカス信者のせいで街一つ滅びたなんて話もある、現代じゃどうだかわからないがな。 ともかく放置して良い話じゃない」


「ま、街一つ……」


「魔法遣いが到着したら一度ギルドに報告するぞ、今日中に終わる依頼じゃなくなった。 寝る前にもうひと踏ん張りしてもらうぞ」


――――――――…………

――――……

――…


「よう、待ってたよあんたら。 初日から大変だったみたいじゃないか」


「ステラさぁん……もう本当に大変だったんですよ!」


 ようやく歩けるまでに回復したモモ君を連れ、ギルドに戻った時にはすでに日が落ちていた。

すでに教会か依頼主から話が回っていたのだろう、ステラも僕らを待っていたようだ。


「やあステラ、早速だが話がある。 少し時間は取れるか?」


「そのために待ってたんだよ、奥の個室を空けといたからついて来な。 そっちの子は大丈夫かい?」


「あっ、大丈夫です……ご飯食べて寝たら回復すると思うのでぇ……」


「タフな子だね、あとで飯も奢るからもう少し気張んな」


 ふらつくモモ君にステラが肩を貸し、そのまま個室へと案内される。

窓もなく防音もしっかりした造りだ、テーブルには他のスタッフが用意したのか淹れたての茶と焼き菓子が置かれていた。


「悪いがモモ君はこの調子だ、見聞きした情報は僕から話そう」


「構わないよ、まず聖刻印を見せてもらおうか」


 ステラに促され、ゴミ屋敷から回収した聖刻印をテーブルの上に置く。

彼女もそれを手に取って観察し、本物だと理解したのだろう。 ゆっくりとテーブルに戻ると深いため息を吐き出した。


「……で、これが()()()()()()()()?」


「8つだ、証拠品の1枚以外は教会に浄化を依頼したよ」


 そう、あの屋敷からは結局最初の1枚を皮切りに計8枚の聖刻印が発見された。

微弱に魔力を纏ったゴミに埋もれて探知にも苦労したが、見落としはないはずだ。


「すべて作成されて新しいものだった、屋敷の主が狂信者ならそこまで多くの聖刻印を作る理由はないだろう」


「他人に見つかるリスクが高まるだけだね、十中八九誰かが死後に仕掛けたんだろうさ」


「ああ、そして犯人はきっと今もこの街のどこかで息をひそめている」


 室内に重い空気が流れる、今回はたまたま発見が早かったがそれでも事態が好転したわけではない。

状況は完全に後手だ、犯人がいる事は分かったが尻尾が掴めない以上、相手が動き出すのを待つしかないのだ。


「……師匠、そこのクッキー取ってください。 お腹空きました」


「君なぁ……」


「だってお腹空いたんですもの! 良いじゃないですかそんな呆れた目しなくても!」


「まったく……それで、部屋の外にいるのは誰だ? 敵ならこのまま撃つぞ」


「――――おや、気づいていましたか。 これは失敬」


 申し訳程度に扉をノックし、入室してきたのはステラと同じ制服に身を包んだ壮年の男性だった。

長く伸ばした金髪に碧の瞳、顔立ちも整っているが何より目を引くのは尖るほどに伸びたその耳だろう。

人間とは思えない異質な耳、しかしこれこそ彼らを指し示す特徴でもある。


「……驚いたな、こんな街中でエルフと出会えるとは」

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