遥かな遺産 ④
「師匠は下がっていてください、私が何とかします!」
「自信はあるのか? 生ぬるい手心で倒せる相手じゃない、あれが聖女のお付きゴーレムと同じ性能ならな」
「いけます!」
握りしめた拳を構えてコウテイさんのそっくりさんと対峙する。
師匠が戦うのは駄目だ、強い魔術を使うほど体に負担がかかっていく。 ここで戦うのは私の仕事なんだ。
それにこんなところで躓いていたら、多分私は師匠の弟子を名乗っちゃいけないと思うから。
「こんにちは! まずは話し合いましょう、私たちは全然危ない人じゃなくてちょっとこの遺跡を調査させてほしいというか――――」
『敵生命体行動解析……理解不能、魔術詠唱と断定。 緊急排除』
「――――って速いっ!?」
そっくりさんは背中のブースターを一瞬で点火させると、私目掛けてロケット花火のような加速で突っ込んでくる。
回避は後ろに師匠がいるから危険だ、だけどこれは……
「……まだテオちゃんの方が速い!」
そっくりさんの刀を両手で挟んで受け止めて、真横に向けて力を込めてへし折る。
そのままの流れで身体を回転させ、なお突っ込んでくる巨体へ叩きこんだ回し蹴りは、メシャリと嫌な音を立ててそっくりさんの装甲をへこませた。
「くぅ、堅い……!」
『敵性脅威:想定以上。 再演算――――戦闘シミュレーション実行』
蹴りはたしかに効いたようだけど、動きを止めるほどのダメージにはならなかった。
攻撃を受けた勢いを利用して真後ろに飛ぶと、折れた刀を投げ捨ててガッションガッションと肩のパーツが変形し始める。
あれは……あれだ、ロボットアニメで観たことがある。 肩キャノンだ、つまりこれから私は撃たれることになるな?
「モモ君、テオの爪をさばき切った君なら見えるだろ。 その杖は見た目ほど柔じゃないぞ」
「……! はい、わかりました!!」
『中距離射撃:エネルギー充填完了。 ファイア』
そっくりさんの両肩に生えた銃口に光が集まり、サッカーボールぐらいの大きさになって撃ち出される。
いかにも当たったら無事じゃすまない雰囲気だけど大丈夫、落ち着けばちゃんと見切れる。
だからしっかりと距離を測り、呼吸を整えてから……飛んでくる光の球をぶん殴った。
「お――――りゃあぁー!!!!」
『エラー:想定外・回避不能反撃』
殴った球は水風船みたいな小麦粉みたいな重たくて不思議な感触だった。
そしてまっすぐに打ち返された球はそっくりさんの肩キャノンにすっぽり吸い込まれ……爆発した。
「よし、なんだかわからないですけど殴り返せました!!」
「無茶苦茶だなぁ」
『エラー:砲撃部位破損。 戦術再演算……』
「っと、相手も君の突飛な行動に面食らっているぞ。 今のうちに畳みかけろ」
「はい!」
壊れた肩からバチバチと危ないエネルギーが溢れているせいか、そっくりさんは片膝をついてうまく動けない。
その隙に今度はこちらが一気に距離を詰める。 またガッションガッション変形してすごい武器を出されても困る、ここは一気に勝負を決めるところだ。
『近距離戦闘兵装展開……』
「させません!!」
収納されていたブレードを展開して斬りかかって来る腕を掴み、肩に背負ってぶん投げる。
古い記憶から引っ張り出した見様見真似の一本背負いは綺麗に決まり、そっくりさんの身体は大の字になって地面に叩きつけられた。
『適性脅威度再演算……エラー、エラー、エラー……』
「ごめんなさいコウテイさん、あなたの兄弟かもしれないけどひどいことします!」
倒れたそっくりさんの腕を持ったまま、力任せに振り回してだんだんと回転数を上げていく。
ハンマー投げの要領だ、ただしこのままぶん投げるわけじゃない。 ある程度勢いをつけたところで、回転の方向を横から縦に変えて真下の地面に叩きつける。
そっくりさんの装甲が地面より硬いせいか、潰れることはなかったけど体の半分以上が埋まってしまった。 こうなると自力の脱出はまずむりだ
『――――……。 ――――:―――……』
「……もはやくぐもって何を言ってるのか聞こえないな。 これで破壊できないとは恐ろしい」
「ど、どうします師匠? やっぱりここで倒さないとダメですか?」
「いや、拘束できたなら下手に追撃するのも怖い。 それにこれだけ頑丈だと破壊するのも一苦労だろう」
「よ、よかった……」
生きている人じゃないことはわかっているけど、なんとなく動けないゴーレムを壊すというのは気が引ける。
それに知り合いに似ているのも悪い、戦っている最中も気になって気になって仕方なかった。
「って、そうですよ師匠! なんでこの人……人?はコウテイさんと似てるんですか!?」
「あるいは彼がこの機体に似せて作られたか、だな。 塗装の色が違うのは個体を識別する必要があったのか?」
「うーん、聞いたら答えてくれますかね」
「そのために引っこ抜くなんて言い出すなよ、君で破壊できない相手を僕も相手したくはない」
「さすがにそこまで私もバカじゃないですよ! ただコウテイさんなら何か知っているかなって」
「少なくともあの聖女は何か隠している気がするな、次に会えば問い詰めようか」
「物騒なことはしないでくださいね? ほら、今のうちに探索しちゃいましょう!」
無事にそっくりさんを埋めることはできたけど、本来の目的はまだ何も果たせていない。
今回はこの遺跡の秘密を解き明かすためにやってきたんだ。 この村みたいな場所といい、謎ばっかり増えていく。
「まずは適当な民家から家探しするか、はぐれるなよ」
「えぇ……だ、大丈夫ですかね?」
「文句を言ってくるような住民はいないだろ、さっきから気配を探っているがこの周辺は完全に無人だ」
「それでも罪悪感ってものが……って待ってくださいよ師匠ー!」
ためらう私とは対照的に師匠はズカズカ先に進んでいく、本当に何も躊躇がない。
そんな師匠のおかげか、私たちが“それ”を見つけ出すのはすぐのことだった。




