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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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遥かな遺産 ②

「あれってロッシュさんや加賀瀬さんとは違う形ですよね、何の神様に対応してるんですか?」


「君にしてはよく覚えていたな。 あの聖刻印は古き帳の神ニュクロスのものだ」


「ニュクロス……舌噛みそうですね」


「性質としては眠りと夜を司る神だ、人々に睡眠を与えて夜の安寧を保っていると言われている」


 さすが師匠、一つ聞けばすらすらと答えが返ってくる。

私もこの世界の神さまについてはいくらか勉強したけどニュクロスという名前は知らなかった、お城に戻ったらちゃんと調べておこう。


「なるほど、その神様に仕える聖人だから近づくと眠っちゃうわけですね……いやなんで眠っちゃうんですか?」


「ニュクロスの魔法だ、対象に悪夢を見せると聞いたことがある。 死後に残留する強度とは、相当信心深い魔法遣いだったんだろうな」


 喋りながらも師匠は慎重な足取りでミイラの人へと近づいていく。

 1歩、2歩とだんだん距離を詰めていく足取りは、3歩目で急にふらりと倒れかけ……


「おっとっとぉ! なにやってんですか師匠!」


「むっ、一瞬寝ていたか。 ここが境目だな」


「もー、そういう無茶するなら事前に言ってください! 頭打ったら危ないですよ?」


 どうやら自分の身体で勝手に眠ってしまう範囲を調べていたらしい。

心臓に悪いことをしないでほしい、私が襟を引っ張ってなければ頭から落っこちてたところだ。


「あのミイラから円形に広がっているとするなら……部屋の端に沿って歩けばぎりぎり迂回できるな、奥の通路も調べられそうだ」


「そんなことのために体張ったんですか?」


「重要なことだ、それに君なら倒れる僕を支えるくらい訳ないだろ?」


「もー……もぉー師匠ったらしょうがないですねー!」


 危ない真似をした師匠を怒る気持ちもあるけど、私のことを信用してくれたなら悪い気分じゃない。

ここはひとつ大人な女子高生として私が引き下がるべきだ、うん。


「単細胞……」


「何か言いました?」


「いいや何も。 それよりモモ君、なぜ彼がこれほど強力な魔法を敷いたかわかるか?」


「わかんないですね!!」


「自信満々で即答するんじゃない」


「なら師匠はわかるんですか? 私はもうチンプンカンプンですよ」


「そうだな……推測ぐらいならできる」


 師匠はミイラの睡眠範囲に踏み込まないよう、慎重に辺りを歩き回って何かを探す。

そうして拾ってきたのは、微妙に色合いの違う2本の骨だった。


「目を逸らすなよモモ君。 テオの襲来と豪雨に耐えた幸運な骨たちだ、2本の違いを答えろ」


「うぇ、えっとぉ……色が違いますね、骨になった時期が遅かったり早かったり?」


「そうだ、変色が進んだこっちの骨は僕の握力で砕けるほど脆い。 対してこちらは比較的新しいため、まだ強度を保っている」


 実際に片手で骨を砕いて見せる師匠、思わず目をそむけたくなる光景だ。

だけどこの2つの違いがいったい何なんだろう、骨になった時期が違うということは……


「……あれ? なんかおかしい気がします、年代にばらつきがあるのは」


「そうだ。 遺体の多くは流されてしまったが、残留した骨でも区別がつくほどに劣化の具合が異なる」


「えーっと、つまり何回かにわけてみんながこの部屋に集まって……し、死んじゃったってことですよね」


「もしくは僕らのように侵入して永眠してしまったのだろうな、ニュクロスの悪夢から逃れられずに」


「え、永眠……でもこの遺跡はヴァルカさんが守っていたんじゃ?」


「彼がこの砂漠に巣を張る以前なら侵入も容易いだろ、裏を返せばそれだけ年月を重ねた遺跡というわけだが」


 たしかドラゴンの寿命は人間の数倍だ、天寿を全うしたヴァルカさんより古いとなると、何百年も昔の話になる。

そんなに昔からこの人はずっと遺跡を守っていたんだろうか、たった一人でミイラになるまで。


「さすがに年月を重ねて魔法の効力も弱まっていたが、僕らもこの骨たちのように永眠してもおかしくはなかったな」


「怖いこと言わないでくださいよ! ……つまりこの人は遺跡を守っていたんですね」


「それじゃ50点だな、君は初めにこの部屋に来た時の景色を覚えているか?」


「一面骨でしたね」


 あれは忘れようと思っても難しい衝撃だった。 足の踏み場もないほど一面の骨、骨、骨。

さすがに色味までは覚えていないけども、ミイラの聖人さんを中心にぐるりと……


「……うん? 師匠、あの聖人さんに近づくとすぐに眠っちゃうんですよね?」


「その通りだ。 ちなみに現在の限界接近距離がこのあたりだ、昔はこの部屋ぐらい余裕で覆っていただろう」


「だとしたらおかしいですよ、足の踏み場もないほどぎっちりでしたから」


 私たちが初めてこの大広間にやってきたとき、聖人さんをぐるりと取り囲む骨は部屋を埋め尽くす量だった。

近づくだけで眠ってしまうなら、骨になった人たちも外側に寄ってしまうはずだ。 聖人さんの近くまでまんべんなく散るのはちょっとおかしい。


「彼の仕事は2つあった、1つ目は君も推測したように侵入者からこの遺跡を守ることだろう。 ほかのセキュリティたちと合わせ、おそらく生還者は僕たち以外一人もいない」


「ひえっ……そ、それでもう1つは?」


()()()()()


「…………えっ?」


「ニュクロスは二面性がある神だ。 人に良い夢を見せて明日への活力を与える神とも、辛い現実から救済するために永遠の微睡に突き落とす邪神とも言われる」


「だから人を一杯集めて、眠らせたと?」


「思わず死を望むほどに凄惨な現実が待っていたのかもしれないな、僕が知らない1000年の間に」


 師匠の視線は聖人さんのさらにその向こう、私たちがまだ探索していない通路の先へと向けられていた。

ぽっかりと空いた出入り口の先は真っ暗だ、今はただ何も見えないということが恐ろしく感じる。


「行くぞモモ君、きっとこの先に1000年の空白を知るヒントがある」


 私の杖から常に熱風が出ているというのに背筋が冷たい。

本当に私たちは、この先を知ってしまっていいのだろうか?

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