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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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182/296

遥かな遺産 ①

「どっこいしょっと……それじゃこれから杖の再調整をしていくわい」


「「待った待った待った」」


「ん、なんじゃい?」


 話を切り上げようとするアルニッタさんを師匠と2人で引き止める。

なんだか聞き捨てならない言葉があった気がする。 いや気のせいじゃない、絶対聞こえた。


「どういうことですか!? 私が半分ドラゴンになっちゃってるって!」


「冗談だとしても趣味が悪いぞ、どうやって調べた?」


「まあまあ落ちつけ、そういえば嬢ちゃんたちには話してなかったのう」


 するとアルニッタさんは作業着のポケットから、細いガラス管を取り出す。

フラスコのような管の中には、赤黒い液体がチャプチャプと揺れていた。


「こいつは嬢ちゃんの血液じゃ、前にワシの工房で採取した」


「わざわざ持ってきたのか、よくそんなものが残ってたな」


「おう、こいつを保管してた低温庫は不気味なぐらい無事だった」


「それは……どうしてですか?」


「…………工房を襲ったのは亜竜たちだ、モモ君が取り込んだクラクストンの気配におびえたのか?」


「その可能性が高い、それとこいつも見てくれ」


 次にアルニッタさんが取り出したのは、同じくフラスコに入った黒い何かだ。

熱を持っているのか、炭を砕いた欠片を集めたような黒い何かの奥からはチロチロと赤い光が漏れて見える。


「逆鱗の端剤か、これだけでも金貨が樽で必要な額になりそうだが」


「それを今日は贅沢に使う、ちと離れとれ」


 言われた通りに私たちが距離を取ると、アルニッタさんは床に小さじ一杯分の欠片をこぼした。

次に私の血液を封じたフラスコの栓をキュッポンと引っこ抜くと、欠片の上に一滴垂らす。

そして欠片と血液が触れた瞬間、眩しい光を放って欠片から私の背丈以上の火柱が上がった。


「ウワーッ!? 火事!!」


「安心せい、引火するようなものはさっきの嬢ちゃんの試し撃ちで全部吹っ飛んだわい」


「渇炎竜の鱗がモモ君の血に触れて活性化したのか、すでに死んだというのにすさまじい火力だな」


「えっ? えっ? どどどういうことですかこれ!?」


「竜同士ケンカしとるってことじゃ、つまり嬢ちゃんの血には竜の力が宿っておる」


「へー……えぇー!?」


 驚く私を置いてけぼりにし、アルニッタさんは燃える鱗の後片付けを始めている。

師匠もブツブツと独り言にふけって上の空だ、ミンタークさんはこんな状況でも眠ってるし誰も私のリアクションに付き合ってくれない。


「師匠師匠師匠! どういうことですか、私ドラゴンになっちゃうんですか!?」


「何度も言うが君の状態は前例がないから僕にもわからん、君は体に異常を感じないのか?」


「口から炎吐き出せること以外は普通です!」


「体表に鱗や尻尾が現れなければまだ大丈夫と考えるか、もし君が竜に飲み込まれたら僕が介錯するから安心しろ」


「うーん、まあ師匠なら……」


「自分で言っておいてなんだが納得するなよモモ君」


 死ぬのは嫌だけどドラゴンになっちゃったら仕方ない、それに師匠なら苦しまずに仕留めてくれると思う。

よし、いったんドラゴン問題については気持ちの整理がついたので置いておこう。 あまり考えると夜眠れなくなる。


「えーっと、それで杖の調整ってどれぐらいかかりますか?」


「長くなるぞ、嬢ちゃんにも協力してもらう。 嬢ちゃんの出力に合わせて都度調整していく必要があるからな」


「そうですか、それならもっとこう……ドライヤーみたいに熱風だけ送るとかできません?」


「ドライ……? ようわからんが、炎を散らして熱だけ放射する形に絞ればいいんじゃな?」


「モモ君、今度は何をする気だ?」


「いやー、ちょっと思いついたんですけど……この杖って遺跡調査に使えませんか?」


――――――――…………

――――……

――…


「うおー! 師匠、すごいです師匠! どんどん水が無くなっていきます!」


「なるほど、さすがは渇炎竜というべきか。 しかし本人もこの使い方は想像しなかっただろうな」


 翌日の早朝、さっそく遺跡でテストした杖の力はすごかった。

ストーブくらいの温かみしか感じないのに、雨で湿った砂や遺跡にたまった雨水がどんどん乾いていく。

まるで見えないスポンジで吸い上げているようだ、砂漠を作るほどのヴァルカさんパワーは伊達じゃない。


「しかし強すぎる出力をあえて散らして利用するとはいいアイデアだ、君にしてはよく考えたなモモ君」


「いやー、前から魔術って便利だなって思ってたんですよね。 炊事洗濯暖房乾燥、師匠がいるだけで家電いらずじゃないですか!」


「カデンが何か知らないがろくな例えじゃないだろ。 いいか? 魔術は剣や槍といった武器と変わらない、あくまで生き物を殺すための術なんだよ」


「あれ、でも私が読んだ本だと人の生活を便利にする力だって書いてましたよ?」


「……時代が変わったんだ。 昔は魔術なんて人殺しの道具でしかなかった、焚火や水浴びには便利だったけどね」


 乾いた遺跡を歩く師匠の横顔は、可愛らしい女の子の中に歴戦の魔術師としての影が差していた。

たしか師匠が生きていた時代は戦争がひどくて、そのせいで師匠の師匠も死んでしまったと話していた。

昔に比べて平和な今の時代を見て、何か思うところがあるのかもしれない。


「……見覚えのある通路だ、この先が僕らとテオが邂逅した場所だぞ」


「ああ、あのガイコツがいっぱいあった……もしかしてまだ残ってます?」


「多くは戦闘の余波で砕けて雨に流されてしまっただろうな、だが“あれ”だけは別だ」


 通路を抜けて大きな広間に出ると、師匠は部屋の中央にポツンと残されたものを指で指し示す。

たしかにあれだけあったガイコツは雨に流されて跡形もなくなっている、たった1人を除いて。


「……ミイラ、ですよね。 あれ」


「不用意に近づくなよ、また前回のように悪夢を見ることになるぞ」


「ということは、私たちが突然眠っちゃったアレってミイラの仕業だったんですか?」


「補足するなら、あのミイラに残留した魔法が原因だ。 即席レンズだ、これであいつの肩をよく見てみろ」


「んー……?」


 師匠が空中に水を浮かべて作ってくれた虫眼鏡を覗き込むと、たしかにミイラの肩に黒いアザのようなものが見えた。

本人がしわくちゃで茶色くなってしまっているのでわかりにくいけど、私はあのアザと似たものを2つ知っている。


「あれってたしか……聖痕でしたっけ?」


「正解だ。 あれは聖人だよ、はるか昔のな」

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