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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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竜の姫 ③

「お前、あの人のことを知っているのか?」


「知ってるわよ、覚えているわよッ! 竜の恨み、1000年過ぎても忘れるものか!!」


「ああ……その節はどうも迷惑をおかけした」


 竜の恨み、と一口に言われても思い当たる節が腐るほどある。

なにせ我が恨めし(いとし)の師匠様の蛮行は枚挙に暇がない、「竜」というカテゴリーだけで思い出したくもない記憶がこれでもかと湧き上がってくる。


「謝って済むものか!! 秘蔵の希酒を簒奪し、立ちふさがる竜の住処をことごとく破壊、あろうことか一部の竜は奴の手で絶滅した!!」


「まて、絶滅の件は覚えがあるぞ。 あれは人里を襲った竜が悪い」


「やっぱりあんた“竜殺し”ユウリ・リンの金魚のフンか! 殺す!!」


「クソッ、過去の負債がこんなところで襲ってくるとは」


 苛烈に爪を振るう少女に合わせ、背後に控えていた二体の竜も動き出した。

地を踏むだけであふれる魔力が地表へ伝播し、凝結した砂が槍となって隆起する。

羽ばたきひとつすら刃を伴う竜巻だ。 これらすべて意図した攻撃ではなく、飽和した魔力で引き起こされたただの災害なのだからうんざりする。


「あー、彼女の不始末は僕には一切関係ないことだ。 ここはどうか穏便に話し合いで解決できないか?」


「黙れ、それ以前の問題なのよ! あんたが本当に1000年前の人間なら、ここで生かして返すわけにはいかない!!」


「……それは興味深い話だな?」


 足元から串刺しにせんと迫る砂の槍を水球で受け止め、荒れ狂う旋風は同じく風の魔術で相殺する。

クラクストンの時よりも災害の密度が激しい、目の前の2体は竜の癖に魔力をある程度制御する術を持っているのか。

それとも、目の前の「姫」とやらが竜たちを指揮しているのだろうか。


「なぜ1000年前の人間が生きていると困る? そもそも君たちは何者なんだ? ウォーやラグナと無関係じゃあるまい」


「あの子たちとも会ったの? よく生きてるわね、あんた」


「日ごろの行いが良かったんだろ……っと、さすがにあれはまずいか」


 急所を狙った少女の攻撃を砂壁で防ぎながら、のんきに会話を続けていると、彼女の背後で2体の竜が息吹の兆候を見せている。

少なくともオルゲイユが吐き出す息吹は毒を含んでいることは分かっている、バクビリードの形質はわからないが、少なくとも混ぜてマシになるはずがない。


「――――星遊び(スイングバイ)


 吐き出された二重螺旋の息吹が直撃する寸前、固有魔術を用いて竜たちの背後へと回り込む。

独特な旋回軌道と急制動に胃の中身が飛び出しそうになるが、おかげで死角は取った。

2体の指揮を執っているのがあの少女なら狙いは一つだ、このまま背後から頭部を吹き飛ばし――――


「どこに行く気?」


「――――っ!」


 見通しが甘かった、相手を見失っていたのは僕の方だった。

振り切ってなんかいない、少女は星遊びの軌道に対応してぴったりと肉薄していた。

その鋭く伸びた爪を、僕の腹へ突き立てながら。


「っ……してやられた、な。 誰かに出し抜かれるのも、1000年ぶりだ……っ」


「こんな時でも減らず口は変わらないのね。 ヘンテコ魔術の仕組みは分かったわよ、“回転”でしょ?」


 少女が突き刺した爪をグリグリねじ込むたび、臓物に焼けるような激痛が走る。

かろうじて心臓への直撃は避けたが、まずい状況であることに変わりはない。 下手に引き抜けば大量に血を失う。


「よくわからないけど見えない何かが高速で回転してるのよね、竜の吐息や私の攻撃すら巻き込んで軌道を逸らすようななにか。 あんたが弧を描くような軌道で後ろに回り込んだのも同じ仕掛けでしょ?」


「やあ、驚いたな……この短時間でずいぶん見破ってくれるじゃないか、とっておきなんだぞ……」


(あっさ)い奥の手ね、万策尽きたならこのまま死んでくれる?」


「……だが、それじゃまだ片手落ちだな」


 少女の観察眼は正しい、たしかに“星屑の海”の正体は高速で回転させた極小の魔力塊だ。

回転する際に生まれる力場で周囲のものを巻き込み、加速・減速・軌道修正と使い勝手がよくて気に入っている。

汎用性を求めて磨き上げた固有魔術だ、この程度の傷など窮地にすら入らない。


「回転というところまでたどり着いたのなら、自分の爪を捩じ切られる程度は予想しておくべきだったな」


「……!!」


 反応が良い。 根元から捩じ切ってやろうと力を掛けた爪が、寸でのところで引き抜かれる。

同時に蓋を失った傷口から血が噴き出すが、気を失う前に焼いて血を止めた。


「チッ! 大人しく死ねばまだ楽だったものを!!」


「分かってないな、こちとら1000年生き抜いてきた老害だぞ。 生き汚さなら自信がある」


 後退した少女の隙を縫うように飛んでくる砂と風と猛毒の嵐を逸らしつつ、激痛で荒くなった呼吸を整える。

視界が霞むし頭も冴えない、やはりこの身体では長時間の運動は厳しい。 手の内も暴かれ、この役立たずな肉体を引きずったままどうやって勝ったものか。


 ……いや、勝たねばならない。 たかだか竜2体と子供1人に襲われて死んでしまえば、地獄で飲んだくれている彼女に笑われてしまうだろう。

それに、こんなところでくたばるとモモ君がうるさい。 せめて死後ぐらいは安らかに眠りたいものだ。


「ふぅー……仕方ない、ちょっとだけ大人げないところを見せるか。 掛かってこい頂点生物、人が研鑽した魔術というものを教えてやる」


「いいわ、私も久々に本気でキレたから……! あんたはこれから、最っ低な死に方を味わうことになるわ!!」

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