砂中の星、墜ちる星 ④
「……急ごう、時間はなさそうだ。 まずは出口を見つけないとな」
頭上からは相変わらず鈍い揺れが響いてくる、この建物もいつまで持つかわからない。
かなり古くなっているし、たぶん日本の建物ほど揺れに強くはないはずだ。 師匠の言う通り、とにかく出口を探さないと安心できない。
「ダイゴロウ、風の匂いは感知できないか? 空気の流れがあればそこは外に繋がっているはずだ」
『クゥン……クンクンッ』
「ふーむ、風感センサーは備わっとるから何かあればわかるはずじゃが」
「つまり今は何も感じていないわけか、どこまで広いんだこの建物は」
「……せんせ、手分けして探すのは?」
「むぅ……」
シュテルちゃんの提案に、師匠が渋い顔をしながら唸る。
たしかにこれだけ歩いてまだ端っこが見えない建物なら、みんなで手分けしたほうが出口も見つかりやすいはずだ。
「だけど戦力を分散すればそれだけ危険も増える、さっきのようなゴーレムがまた現れないとも限らないぞ」
「心配するな純白の! その時は余が客人たちを守って見せようではないか!」
「だから心配なんだよ。 ……だがシュテル君の意見も最もだな、問題はグループをどう分けるかだ」
「師匠、ここは我らが故郷に伝わる伝統的で公平な分け方を提案します!」
「モモちゃん……やるのね、あれを!」
「ほう、異世界の伝統か。 興味深い、余にも教えよ!」
「ふっふっふ、いいですか? これはグーとパーのどちらかを一斉に出すことで……」
「どうせくだらない話だぞこれ」
――――――――…………
――――……
――…
「……それじゃAチーム、点呼」
「はい! 1番、百瀬 かぐやです!!」
「2ばぁん……ほ、星川でぇす」
『ウワン!!』
「よし、全員いるな。 それじゃいくぞ」
グーとパーの分かれっこにより公平に2チームに分かれた私たちは、リーダーである師匠に従って探索を再開した。
チームのバランスとしては悪くないかもしれない、体力が心配な師匠のサポーターとして私と大五郎がついている。
それに星川さんも一緒なのも心強い、私たちだけじゃなんかこう……魔力的アイテムを見つけてもわからない。
「モモ君、君は僕を背負いながら先頭を歩いてくれ。 変質者はその後ろ、ダイゴロウは最後方から奇襲を警戒してくれ」
『ワオン!』
「それじゃ急ぎましょう、しっかり捕まっててくださいね師匠!」
「言っておくが足並みは揃えろよ、君だけが突っ走っても後ろ2人がついてこれないと意味がない」
「はい、ゆっくり急ぎます!」
「……まあほどほどに頼む」
「ライカちゃんが諦めた」
星川さんを置いていかないように、できるだけゆっくりと歩きながら廊下を進む。
ときどき分かれ道や脇道に出会ったときはとにかく勘で進む、どの道が正しいのかなんてわからないから無駄に悩むより先へ先へ進んだ方が良い。
それに、砂に埋もれていたり柱が崩れていたりで通れない道も多い。 見た目は広いけど、実際はそこまで探索できる場所もないのだ。
「でも本当に広いですね、どれだけ歩きましたか?」
「目測だがリゲルの学園は超える規模だな、なんのために建てられたのやら」
「なんだか秘密の研究施設って雰囲気ともちょっと違う気が……あっ、モモちゃんちょっとストップストップ」
「おっとっと、どうしました星川さん?」
星川さんに呼び止められて脚を止めると、私の横をすり抜けた彼女が目の前に空間にハンカチを投げる。
そのままヒラヒラと床に落ちる瞬間、「バヂン」と何かがはじけるような音を立て、ハンカチは黒焦げになった。
「ほ、ほぎゃー!?」
「せ、赤外線センサーかなぁ……まだ生きてる装置もあったんだぁ」
「…………どうやって気づいた?」
「私のメガネは“神の恩寵”の力で改造したものでぇ、強度を上げるついでに色々見えるようにしちゃいましたえへへ……まさか役に立つとは思わなかったけど」
「それで今の装置も見破ったのか、君に助けられたな」
「い、いやいやそんなそんな! たぶん直撃しても火傷するだけで死にはしないですしおすしそんなえへへへ……」
師匠に褒められた星川さんが顔を真っ赤にし、嬉しそうに両手をぶんぶん振り回す。
すごく謙遜しているけど、ハンカチが一瞬で黒焦げになる威力なんて私が食らったら火傷どころじゃすまないと思う。
今回は本当に間一髪で星川さんに助けられた。
「でも珍しいですね、こういう仕掛けなら師匠はすぐに気づきそうなんですけど」
「……悔しいが僕の落ち度だ。 装置が反応するまで一切魔力反応を感知できなかった、どうやら発射機構に魔力を用いていないらしい」
「えっと、それってつまり?」
「モモちゃん、このセンサーは科学的な仕組みってこと。 たぶん、ライカちゃんほどの魔術師でも発動するまで気づけない」
「つまりとても危険ってことじゃないですか!?」
「そういうことだ。 モモ君、気休めかもしれないがこれを被れ」
「わっぷ! あ、ありがとうございます……」
師匠は自分が羽織っていた猫耳マントを脱ぎ、私の頭に被せる。
星川さんが作った断熱効果付きのマントだ、たしかにこれなら何も羽織っていないよりマシかもしれない。
「……ホシカワ、そのメガネは君以外にも使えるのか?」
「わ……ァ……初めて名前呼んでくれた……だけど推しに認知されるのは私の地雷……ッ! 」
「うん、評価を改めようかと思ったけどやっぱり君は変質者呼ばわりでいいか。 それでメガネは他人でも使えるのか?」
「あっ、はい! ちょっと視界の切り替えにコツはあるけど誰でも使えます! けど、これを貸すと私が何も見えなくなっちゃうので……」
「なら無理強いはできないな、緊急時には君にも動いてもらわなければならない。 モモ君、僕が防御するから慎重に進んでくれ」
「は、はい! 任せました、師匠!」
その後、何度か同じようなセンサーを見つけては破壊しながら道を進む。
なんだか進むほどに壊れていない機械が増えてきている気がする、王様たちのチームは大丈夫だろうか?
気になるけど道を戻るわけにはいかない、こういう時にスマホで気軽に連絡が取り合えないのは不便だ。
「……ん? モモ君、その部屋の先に大きな魔力反応がある。 念のため気を付けろ」
「了解です! 大五郎、星川さんを頼んだよ」
『わっふん!!』
師匠に言われた通り、身体を隠しながらそっと通路の先を覗き込む。
その部屋は今まで通ってきた細長い通路とは違い、天井が高い大きな部屋だった。
「…………な、なにこれ……?」
私と一緒に部屋を覗き込んだ星川さんが、“それ”を見て息を呑む。
学校の体育館ほどの広さはある床一杯に積み重なっていたものは――――数えきれない数の人の骨だった。
 




