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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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砂中の星、墜ちる星 ②

「なんと、扉であったか! では疾く開けよ純白の!」


「僕の腕力でできるわけないだろ。 任せたぞモモ君」


「師匠、いくら私でも限度があります!」


 扉の隙間はぴったりと閉じて、手を差し込む余裕はない。

しかもこんな大きくて分厚い扉なんてどう頑張っても無理だ。


「だが、わざわざ取っ手があるということは開く方法があるはずだ」


「余の魔力をはじくとは不遜な扉め、しかしそうなると是が非でも通りたくなる!」


「うーん、だったら……アルニッタさん、巨大五郎で開けられませんかー!」


『おう、こっちもちょうど相談しとったところじゃ。 危ないから離れておれ!』


 トラック形態の巨大五郎からブシューと蒸気が噴き出し、徐々にその姿が二足歩行の巨大ロボットへと変形していく。

 変形が完了した巨大五郎のサイズに対し、扉の取っ手位置はちょうどいい位置だ。 


「……なあ、このギミック必要だったか?」


「なんてこと言うんですか師匠! 変形は浪漫ですよ!?」


「失望させるな純白の! かっこいいであろう!!」


「わかった、君たちに聞いた僕が間違いだった」


『おーい、もうちょっと離れんと踏み潰してしまうぞ』


「あっ、はーい。 ほらほら、師匠も危ないから一緒に下がってください」


 師匠を引きずって離れると、巨大五郎が取っ手を掴んで扉を左右に引っ張る。

どうやらカギはかかっていないようで、引き分け式の戸は少しずつ開いていった。


「しかしいったい何のための扉なんだこれ? まさか開閉のたびにこんなバカデカいゴーレムを引っ張ってくるわけじゃあるまいし」


「純白の、先入観は持たぬ方がよいぞ。 この扉も錆び一つない、長年打ち捨てられたものとは思えぬほどにな」


「……魔力をはじく材質といい、謎が多いな。 これがあの竜の見せたかったものなのか?」


「ヴァルカの奴がこの程度の代物を隠すとは思えぬ、本命は十中八九この“先”にあるだろう」


「なんなんですかね、こんなおっきな扉が必要なものって……」


 そして少しずつ開く扉の隙間が、ようやく人一人ぐらい通れるほどまで広がった……その時だった。

ズンとお腹に響く衝撃と揺れが走り、天井からぱらぱらと砂が零れ落ちてくる。

地震ではない、おまけに私たちが砂に飲み込まれた時もなんだか雰囲気が違う。 一瞬だけ重たいものを叩きつけられたような感じだ。


「うわーっ! なんですか今の!?」


「知らん、ここからだと竜の魔力に潰されて何がいるのかすら把握できない。 だが穏やかな状況ではないぞ」


「……急いだほうがいいな。 余の友も心配であるが、どのみち脱出口を探さねば地上にすら戻れまい」


『おう、よう分からんがゆっくりしてる暇はなさそうじゃな! 生き埋めになる前に進むぞい!』


 アルニッタさんに急かされて扉の隙間に体を滑り込ませると、埃っぽい匂いが鼻をつく。

師匠の火の玉で照らし出されたのは、どこかアルニッタさんの工房に似た廃墟だった。

六角形のタイルが敷かれた廊下、その隅に沿う形で伸びた何本もの導線、天井にはうっすら青白く光る電球のようなものがプラプラぶら下がっている。


「な、なんですかここ……?」


「僕にもわからん、しいて言えば魔導の研究施設に見えるが」


『……年代が合わぬわい。 この朽ち方は10年20年では済まぬ』


「それは先に余が言ったぞ!」


「張り合うなバカ。 それとモモ君、もう少しこっちに寄れ」


「えっ? どうしたんですか師匠、急に甘えちゃって照れますね……」


 私の袖を引く師匠を抱きしめようと頭を下げた瞬間、頭上を何かが高速で通り過ぎて行った。

掠めた髪の毛がチリチリに焦げ、後ろの扉は一部が真っ赤になるほど熱くなっている。

もし師匠が声を掛けなかったら、扉じゃなくて私の身体が真っ赤っかになっていたかもしれない。


「……し、し、し、師匠ぉー!? なんですか今の!?」


「いちいち抱きつくな暑苦しい。 どうやら僕らの侵入は歓迎されないようだぞ」


「そのようであるな、来るぞ」


 王様が片手で金貨をいじくりながら通路の先をじっと見つめていると、通路の先から金属がぶつかるような音が近づいてくる。

たぶん目に当たる部分とチカチカ点滅させながら近づいてきたものは、大五郎とは違う形のロボットだ。


『イラッシャイマセ、イライマセ、ゴメダサイ、サヨウナラ、イラッシャイ、ラッシャイセ』


「え、えーと……こんにちわ?」


『イラシャイマセ、セキュリティ、オモチ、イラッシャデスカデシタ、ラッシャッセ、サヨナライマセ』


「うん、どうみても壊れてるなあれは」


 無茶苦茶な言葉を繰り返しながら、たくさんの脚をせわしなく動かして近づいてくるロボットはまるでクモのようだ。

だけど本来なら8本あるはずの脚は半分が千切れて、目に当たる部分もレンズが砕けて中身の部品が見えてしまっている。

なにより「いらっしゃいませ」と歓迎しているのに、背中にくっついている砲塔はずっと私たちに狙いを定めていた。


「製作者に許可を取る必要はないな、破壊して進むか」


「待て、純白の! もったいないではないか、余はあれが欲しいぞ!」


「身の安全が第一だ、壊してしまった方が早い。 それが嫌なら自分でなんとかするんだな」


「なるほど、ありがたい! やはり純白のは優しいな、ここは余に任せてもらうぞ!」


「へっ!? ちょっ、大丈夫ですか王様! いいんですか師匠!?」


「良いから好きにやらせておけ、僕は知らん」


 機嫌を損ねてしまった師匠はそっぽをむき、王様はずんずんクモロボットに近づいていく。

王様が強いことは知っているけど、もしさっきの熱ビームが直撃したらいくらなんでも死んでしまう。

王様が死んでしまったらレグルスは大変だ、私たちも王様殺しの罪で捕まってしまうかもしれない。


「大丈夫だモモ君、腹立たしいがアレはあんな壊れかけのゴーレムにやられるような人間じゃない」


「師匠……」


「それに万が一ここで死んでくれたら僕が手を下す必要がなくなる、目撃者も少ないから後処理も楽だワハハ」


「師匠!」


 本当に大丈夫なのかと心配しながら王様の背中を見送る。 だけど、勝負は一瞬だった。

時間が飛んだかのように王様がクモロボットの背後へ瞬間移動し、銃身に触れた手から生える氷があっという間にロボットの全身を包み込む。

ビームどころか身動きする暇もない、まさに瞬殺だ。


「よし、あとは核を引っこ抜けば再度暴れる心配もあるまい。 それでよいか、純白の!」


「……まあ、文句はないな」


「す、すっごぉ……」


 何か起きたのか私の目じゃよくわからなかった。

間違いない、この王さんは本当に強い人なんだ。 

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