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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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156/296

砂中の星、墜ちる星 ①

 ―――――ああ、行ったか。


 巨大なゴーレムが砂中に飲み込まれた後、火竜は穴倉の中で深く息を吐く。

砂漠の一部に触れたその吐息で、触れる砂をすべてガラスに溶かしながら竜は安堵した。

間に合った、自分は託すことができたと。 永い命が終わる前に最期の役目を果たせたと。


「……だからこそ腹立たしいわね。 その短い余生、わざわざ自分で縮める必要なんてなかったでしょうに」


 ――――なに、すべての竜があなたに従うわけではないのですよ。 赤き姫君よ。


「そのようね、私には媚びないくせに人の王に従うなんて実に腹立たしいわ」


 空から見下ろす渇炎竜の命は、まるで消えかけのロウソクだ。

 このまま()が手を下せば、それこそ息を吹きかけるより容易く潰えてしまうだろう。


「遺言はあるか、古き竜よ。 貴様の罪は重いわよ、よくも今の今まで隠しとおしてくれたわね」


 ――――そうだな、吾輩も少し悩んだ。 いまさら埃をかぶった歴史を掘り返して何になるのかと。


 竜はくつくつと喉を鳴らして笑う。

 もはや老衰でまともに見えぬ目で遠くを眺めながら、実に楽しそうに。


 ――――吾輩は今の人類をもっと見ていたくなった。 ただなにも知らぬまま消えるのはもったいないと思ったのだ、竜の皇女よ。


「そう、なら死ね」


 もはやこれ以上裏切り者と話す意味もない、すべては取り返しのつかないことだ。

 私はただ粛々とこの者たちに鉄槌を下さねばならない。


「……塔を崩すことなかれ。 バカな人類どもめ、あれほど忠告したというのに」


――――――――…………

――――……

――…


「なんと、余の砂漠にこのようなものが隠されていたとは!」


「べつに君のものじゃないだろ」


「なんじゃこの……遺跡、なのか?」


「遺跡というより研究ラボって感じ? モモちゃん、気を付けてね」


「はい、危ないから星川さんたちはまだ巨大五郎から出ないでくださいね!」


 なんとか着地に成功した巨大五郎から降りると、靴底からふんわり積もった埃や砂の感触が伝わってくる。

放置されてから1年2年なんてものじゃない、いったいどれだけ昔に作られた建物なんだろう。


「ずいぶん埃っぽいな、床の材質も石畳とは違うな。 魔導製品か?」


「しかし純白の、魔導はここ数十年で栄えた技術だ。 明らかに建物の年季は百年以上古い」


「って、なんで二人もついてきちゃうんですか!?」


「君一人で歩かせる方がずっと不安だ、それに光源も必要だろ」


「このような場所に来て余は大人しくできぬ、ゆえに護衛は任せたぞ!」


「もー、ワガママな王様ですねー!」


 押しの強さに負けて、王様と師匠を連れながらだだっ広い空間を歩く。

文句は言ったけど、たしかに師匠が火の玉を灯してくれるのはありがたかった。 思った以上にこの地下は広い、ライトもないまま一人で探索するのはかなり無茶だ。


「モモ君、そっちじゃない。 だんだん右にずれてるぞ、火球を目印にまっすぐ歩け」


「あれぇ? まっすぐ歩いてるつもりなんですけど……って、師匠は何か見つけたんですか?」


「僕じゃなくてダイゴロウがな、音の反響からこの先に何か当たりを付けたらしい。 だから直進だ、いいな?」


「わっかりましたー! 大五郎、ありがとうね!」


『わっふん!』


 ゆっくりと私たちの後をついてくる巨大五郎(トラック形態)の背中から、大五郎が元気に返事を返す。

そういえば師匠は大五郎に乗らなくて平気なんだろうか? 今はずっと浮遊したまま私を追いかけている。


「ダイゴロウに乗ると咄嗟の動きが鈍くなる、何が起きるかわからない環境下では身軽な方が良い」


「師匠って私の心読むの上手ですよね」


「君が分かりやすすぎるんだ、何度も言うが考えを顔に出すな。 魔術師として致命的だぞ」


「えええぇぇ、そんなひどいですか私?」


「ふはは、なるほど! モモとやら、どうやら純白のはお前が相当お気に入りのようだ!」


 とても面白そうな王様の笑い声に、師匠の動きがビシリと止まる。

そのままふわふわと床に降りると、無表情のまま師匠は王様へと詰め寄った。


「今聞き捨てならぬ言葉が聞こえたが、なんだって?」


「純白のは弟子を大事にするのだな、それにあの獣型ゴーレムも壊さぬように後方へ下げているのだろう? 余にはわかるぞ、そう照れるでない!」


「モモ君、僕は優しいから先に忠告するが3秒以内に離れろ。 血で服を汚したくはないだろ」


「ダメ、師匠ダメ!! もー、どうしてそんな喧嘩ばっかりするんですかー!」


「心外だな、余は純白を傷つけるつもりはないぞ! 仲よくしようではないか、そして余の妻となれ!」


「僕 お前 殺す」


「はい、離れて離れて! 師匠はちゃんと照らして! 王様は後ろ見張っててください!」


「余を顎で使うとは! 面白い、しかと務めて見せよう!」


「ふん、せいぜい後ろから撃たれないよう気を付けるんだな。 ……モモ君、君は前を見ろ」


「へっ? うわったったった!」


 師匠たちに気をとられたまま歩いていたせいで、危うくぶつかるところだった。

気が付かない間に壁際まで歩いていたらしく、目の前には分厚い鉄の壁が立ちふさがっている。


「うわー、堅そう。 行き止まりですね、これ」


「……ただの壁じゃないぞ、魔力が通らない。 魔術で破壊するのは不可能だ」


「なんと、余の道のりを阻むとは不敬な壁だ。 どこか入り口はないのか?」


「うーん、殴って壊すわけにはいかないですよね……」


 軽くコンコンとノックした手ごたえからして、殴れば私の腕の方が壊れてしまいそうな厚みに思える。

壁は全体的にのっぺりとして登れそうなところもない、どこか別の道を探した方が良さそうだ。


『……あれ? モモちゃーん、ちょっと壁から離れてくれない?』


「星川さん? はーい、わっかりましたー」


 巨大五郎のマイクを通して聞こえた星川さんの声は、何かに気づいたようだった。

言われた通りに離れてみたけども、私には何もわからない。


『ライカちゃんライカちゃん、もっと光源増やせる? 壁の上が見てみたいなーって』


「注文が多いな、魔力もただじゃないんだぞまったく……“灯せ”」


 文句を言いながらも魔術を詠唱した師匠は、同じ大きさの火球を何個も作って効率よく壁を照らし出す。

そして見えないところまで光が届くと、私でもその違和感に気づく。 凹凸がないと思っていた壁には、私の身長よりずっと高い位置に大きなくぼみがあった。


「…………あの、星川さん。 これってもしかして」


『うーん、まさかと思ったんだけどまさかねぇ……』


 さらに壁には一か所だけ地面と垂直な形で“切れ目”があった。

それは少なくとも針で照らされた範囲、たぶん地面から天井までまっすぐ切れ目が走っているはずだ。


『うーん、やっぱり()だよねぇこれ!』


 なぜならまるで小人になったような気分で見上げた「壁」は、取っ手が付いた巨大な扉だったのだから。

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