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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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155/296

亜竜の主 ③

「ヴァルカさーん! すみません、遅くなりましたー!!」


 ――――否、早すぎるくらいだとも。 相変わらず人の感覚というのは少々生き急ぐものだ。


 昨日と変わらず燃え続けている穴の底から、ゆっくりとヴァルカさんが顔を出す。

やっぱり大きい、頭だけでも私の身長よりずっとある。 そしてやっぱり熱い、この距離でも巨大五郎の車内はまるでサウナのようだ。


「 ヴ ぁ 」


「 ヴ ぉ 」


「モモちゃーん! シュテルちゃんとライカちゃんが溶けてる!」


「冷やしておいてください、固まりますから! というか師匠はマント着てないんですか!?」


「モモちゃん、着たうえでこれです!」


「貧弱ー!!」


「ははは、純白の君にも弱点があったか! どれ、ならば用事は手早く済ませぬとな」


 とろけきった師匠たちを一通り面白そうに眺めると、王様が巨大五郎のハッチを開けて外に飛び出す。

さすがこの砂漠で長年生活しているだけあって、燃えるような暑さをものともしていない。


「友よ、余だ! コル・レオニスである! 約束を果たしに来た!!」


 ――――ああ、業突張りな獅子王よ。 すまないな、どうやら吾輩が先に死ぬようだ。


「そうか、寂しくなるな。 竜の天寿、しかと見届けよう」


 ――――だがその前に、何か話すことがあるのだろう?


「…………では単刀直入に聞こう、余のレグルスを襲ったのはお前か?」


 一呼吸おいて、表情から笑顔を消した王様が低い声で問いかける。

その目つきには、「はい」と頷けば有無を言わせずに殺されそうな迫力があった。

だけどヴァルカさんは気にする様子もなく、ゆっくりと瞬きをしながら火の粉が混じった吐息をこぼす。


 ――――……言葉が少ないな。 吾輩はこの穴からしばらく外に出ていない、獅子王の巣を襲うことはできない。


「余のラプトルが数十ほど奪われ、リゲルの街を襲撃した。 それにレグルスでは5件の放火報告がある、ただの火ではなく竜の吐息に起因するものだ」


 ――――ああ、なるほど。 それは……まずいな。


 王様の説明を聞いて目を細めるヴァルカさんの様子は、私の見た限りではとぼけているようには思えない。

自分がやったことではない、だけど何か心当たりがあるから困っているという感じだ。


「あのー、ヴァルカさん。 何か知っているのなら協力してほしいです、ヴァルカさんは悪いことしていないと信じたいので!」


 ――――小さき子、そのゴーレムには王を含めてどれほどの人間がいる?


「へっ? えーっと、師匠にシュテルちゃんにミンタークさんに……6人ですね」


「モモ君……自分自身を数え忘れているぞ……7人だ……」


「あっ、そっか。 失礼しました、7人です!」


 ――――多いな。 まあいい、時間もない。 獅子王、君に渡すものがある。


「おお、この時を待ちわびたぞ! して、そなたの秘宝とは?」


 ――――少し待て、その場を決して動かぬように。


 ヴァルカさんの頭が穴の中に引っ込むと、穴から燃え上がる火の手も若干弱くなる。

すると車内の気温も少しだけ下がったおかげで、今までダウンしていた師匠がのそのそと起き上がってきた。


「……愚王はともかくとして、君も竜と会話できるんだな。 傍受を試みたが奴の念話は拾えなかったぞ」


「ははは! ヴァルカは用心深いやつだ、さしもの純白でも盗み聞きには苦労するか」


「その呼び名をやめろ、ただの白髪だこれは。 それで、今はどういう状況なんだ」


「ヴァルカさんは犯人じゃなかったので王様に何かを渡すみたいです、遺品整理かな?」


「なんだ、また竜玉でも渡されるのか? 今度は飲み込むなよモモ君」


「師匠って私のことなんでも口に入れる赤ちゃんだと思って……うわわっ!?」


 久しぶりに聞く師匠の皮肉と戯れていると、突然巨大五郎が大きく揺れる。

地震にしてもなんだかおかしい、揺れの感覚が違う。 

地面が揺れているというよりも、どんどん沈みこんでいるような……


「アルニッタ、なんだこの揺れは!? どうなっておる!」


「ええい騒ぐでない! 今外部センサーで状況を……沈んどるー!?」


「えぇー!? 大丈夫なんですかそれ!?」


「大丈夫じゃないから焦っておるんじゃ!! 流砂に飲まれたのか!? ええい浮上浮上!!」


「モモ君、ハッチを閉めろ。 砂が入ってくるぞ」


「あっ、はい! ……ってのんきしてる場合じゃないですよ師匠!!」


「大丈夫だ、あの竜に呼ばれているだけだよ。 今気づいたが真下に巨大な空間がある、着地の心配だけしておけ」


「へっ? そ、そういう事は早めに言ってぇー!?」


 巨大五郎の車内で師匠と王様が器用に浮かび上がると、一瞬だけ揺れが収まり――――すぐに全身が嫌な浮遊感に包まれた。


「うおおおおおお!!? あの火竜、ワシらを殺す気かぁ!?」


「ああああアルニッタさん、何かないんですかこういう時のための装備とか!!」


「そんなもの備えているわけが……ある! 緊急ブースター始動!!」


「あるんだ!!」


 アルニッタさんがガラスで覆われたいかにも危なそうなスイッチを押し込むと、巨大五郎の前後から生えたブースターが炎を噴射して、落下の勢いを相殺する。


「おお、このような機能もあるのか! 良い、欲しい! 余にも操縦させてくれぬか!?」


「ええい待て待て! 今神経使っとるんじゃ、話しかけるでない!」


 アルニッタさんの操縦でなんとか巨大五郎を着地させる、コックピットのモニターから見える景色は真っ暗だ。

師匠の言う通り、ここが地下の空間だとしたら灯りが全くない。


「い、いったいなんなんじゃいきなり……皆無事か?」


「ぶ、無事でぇす。 シュテルちゃんとライカちゃんは死守しました……!」


「僕にしがみついてただけだろ、いい加減離れろ」


「他は? ……よし、全員無事じゃな。 しかしなんなんじゃここは」 


 アルニッタさんが巨大五郎の目に埋め込んだライトを点灯させると、あたりの風景が照らし出される。

砂漠の底に埋もれた“それ”は、巨大な遺跡――――いや、まるで研究施設のようだった。

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