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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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欲深き獅子王 ④

「……め、盟約?」


 ――――ああ、吾輩はレグルスの王と盟約を結んでいる。


 時は遡って昨日の出来事、ヴァルカさんと話をしていた時だ。

メラメラ燃え立つ空気の中で、私は気を失わないように頑張ってヴァルカさんの話を聞いていた。


 ――――昔の話をしよう。 先にこの砂漠を住処としていたのは吾輩だ、あとから吾輩を退かそうとやってきたのはあの男だよ。


「お、怒らなかったんですか?」


 ――――怒ったとも、人の身でありながら何たる不敬かと。 しかし彼の王は強く、三日三晩決着はつかなかった。


「はえぇ……すごいなぁ」


 見ただけじゃヴァルカさんの実力は私にはわからないけど、これだけ大きくて熱いドラゴンさんを倒すとなるとかなり難しいのは分かる。

師匠ならこの熱さだけでバタンキューだ、それを三日も戦い続けるなんて相当タフじゃないと難しい。


 ――――このままではいたずらに被害が増える、ゆえに吾輩は条件を付けて停戦を申し出た。


「なるほどなるほど……なるほど!」


「嬢ちゃんしか話が聞こえんのに嬢ちゃんが何もわかってなさそうな顔しとるのう」


「大丈夫です、わかってます! わかってますけどちょっと情報を飲み込むのにお時間をいただければ!」


 ――――もう少し緩やかに話すべきか?


「いえ、私がちょっと熱暴走しているだけなので!」


「先輩弟子……お水……」


 シュテルちゃんが魔術で作ってくれた水枕で煮える頭が冷やされていく。

ただでさえ回りの悪い頭がこの熱気で余計に悪化している、テレパシーで伝わる話を理解しようとするだけで知恵熱が出そうだ。


「そ、それでその約束というのは……?」


 ――――吾輩の寝床を保証する代わりに、吾輩の死後この地に隠された“秘宝”を譲るというものだ。


「秘宝……そ、そんな大事な約束なら直接伝えた方が良いですよ!」


 ――――ふふ、違うのだよ。 吾輩は一度この盟約を反故にしようとしたのだ、君が訪れたことによってな。


「わ、私がですか?」


 ――――ああ、人間に渡るなら同じ竜に託そうかと思ったが……まさか間違えてこんなに小さく、まっすぐな魂を呼び込んでしまうとは。


 間違えたのは、私が飲み込んだ竜玉のせいだ。

だけどヴァルカさんは怒るわけでもなく、むしろくっくっと喉を鳴らして笑っているようにも見える。


 ――――これが運命なのだとしたら、従うのも一興だ。 ゆえに小さきもの、運命の主である君の手で王を呼んできておくれ。


――――――――…………

――――……

――…


「……そうか。 逝くのだな、我が友は」


「はい、なので急いでください!」


「焦らずとも竜の生命力ならばまだ持つはずだ、彼奴らの時間感覚を人の物差しで測ってはならぬ」


「そ、そうなんですか……?」


「うむ、しかし近いうちに合わねばならぬのもまた事実。 大儀であった、もしかすれば死に目に会えなかったかもしれぬ」


「お、お役に立てたなら何よりですけど……あの、ヴァルカさんが話していた秘宝っていったい何ですか?」


「あっ、モモちゃんそれ聞いちゃう?」


 ヴァルカさんからは熱さと暑さのダブルパンチでなんとなく聞きそびれてしまったけど、好奇心には勝てなかった。

なにせ三日三晩の戦いをやめてしまうほどのお宝だ、気にならないわけがない。


「うむ、疑問も最も! 竜の秘宝など夢物語に出てくるような代物だ、その好奇心見事である!」


「えへへそれほどでも……」


「褒められてるのかなぁこれ?」


「しかしてその秘宝の正体とは――――余も知らぬ!!」


「なんじゃ知らんのかい!」


「はっはっは! 余もその時までのお楽しみとしていたからな、詳細を知ると是が非でもほしくなる!」


 豪快に笑う王様の言葉は冗談に聞こえない、宝の正体を知っていたら本当にやりかねない凄みを感じる。


「――――して、余も一つ問うていいか? 桃髪の娘よ」


「へっ? あ、はい!」


 途端に、うなじにチクチク感じる嫌な予感がより強くなった。

私の顔を見つめる王様の黒目がネコのように細くなり、好奇心に輝いている。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 彼奴が異邦の民に心を許すとは思えなんだ」


「…………え、えっとぉ……」


 正直に話していいんだろうか? いやたぶん駄目だ、この王様に竜玉の話をするのはとても危険な気がする。

輝く王様の目は、夏休みのとき一緒にカブトムシを捕まえに出かけた小学生の子供たちを思い出す。

このまま何も考えずに話すと、虫かごに捕まるのは私の方になるかもしれない。


「え、えっとそのえっと……お、王様はどうやってヴァルカさんと会話を?」


「余は盟約によって念話ができるが、近距離でなければ難しい。 故に不思議なのだ、なぜ友はそなたに目を掛けたのか」


「ぐ、偶然じゃないかと……」


「いや、違う。 その身体からわずかに感じる波長……弱すぎて気づかなかったが、竜と同じか? ああなんてことだ、もしやそなたの身には……そうか、なんと奇妙な!」


 誤魔化そうにもずいずい顔を寄せてくる王様は勝手に謎を解明している。

これはもう無理だ、竜玉のことまで気づかれる。 そうなったらきっと薄暗い地下に捕らえられて解剖されて……


「――――おい、人のものに何勝手に手を出してんだ」


 鼻と鼻が触れそうな距離まで王様の顔が近づいたその時、シャンデリアがぶら下がった天井が突然崩落する。

キラキラと日の光を反射するシャンデリアの破片に照らされる白い髪と、その声を、私が間違えるはずがない。


「……モモ君、そいつの鼻っ柱へし折っていいぞ。 僕が許す」


「し、し、し……師匠ぉー!!!」

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