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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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はじめてのおつかい ②

「……で、ここが依頼の教会か」


 ギルドから(モモ君の脚で)走って5分、辿り着いたのは街並みに溶け込む形で存在する小さな教会だった。

外観は清貧だが決して手入れを怠っている訳ではない、人の出入りもそれなりに見られるため、敬虔であることは窺える教会だ。


「ほぇー、ここもアスクレスっていう神様を祭っているんですか?」


「いや、ここはまた別の神を信仰している。 表に掲げられた聖刻印(シンボル)で区別がつくよ」


「なるほど、神様もたくさんいるわけですね」


 聖刻印は信者がどの神を信仰しているのか示すためのマークだ、故に神の数だけ違うデザインが存在する。

あのうさん臭い聖女が身に着けていたものとこの教会では聖刻印が違う、少し危惧していたが杞憂で済んだか。


「君はこのまま真っ直ぐ孤児院に向かえ、予定通り先に片付いた方から合流しよう」


「わっかりましたー! それじゃお気を付けてー!」


 返事をするや否やモモ君は軽快な足取りで駆け出して行った、スタミナが無尽蔵かあいつは。

ともかくあの様子なら力仕事は問題なさそうだ、こちらも自分の仕事をさっさと片づけよう。


「ぃよいしょっと……たのもー、ギルドからの依頼で来たものだが誰かいるか?」


「おや、仕事が早いですね……と、君がギルドから派遣された冒険者かな?」


 (僕にとって)重い扉を押し開けると、ちょうど祭壇前で祈りを捧げていた神父がこちらにやって来た。

眼鏡をかけた白髪頭の初老男性、感じ取れる魔力の練度からして熟達した魔法遣いなのは間違いない。


「これが依頼書とギルドカードだ、見てくれこそ子供だが写本作業に支障はない」


「ふむ……確かに正規のカードだ、小さいのにえらいですね」


「子供扱いは止めてくれ、それと依頼の本は?」


「奥の部屋に用意してあります、こちらへどうぞ」


 神父に案内された祭壇奥の部屋は、おそらく彼の仕事部屋なのだろう。

雑多な書類と仕事机、そして狭い部屋に敷き詰める様に本棚が設置されていた。


「これはすごい数の本……それに紙だな」


「ええ、これも知恵神メティリースの導き。 渡来人モトキ様のご助力あってこそですな」


「渡来人……? その人物がこれだけの本を仕入れたのか?」


「とんでもない、彼の偉業はもっと根本的に()()()()()()()を伝えたことでしょう」


「それは……とんでもないな」


 依頼書やこの部屋の卓上に置かれた紙は、僕が知るものよりずっと良質なものだ。

渡来人モトキ、顔も知らぬ存在だが彼もまたモモ君のように「神の寵愛」とやら受けていたのだろうか。


「その歳では知らぬのは無理ありますまい、知恵神の加護を受けた彼は……ああ、これ以上は話が逸れますな、依頼の話をしましょう」


「ああ、そうだな。 それで書き写す本は?」


「こちらを頼みます、子供向けの聖書です」


神父が本棚から取り出した本は、他のものより薄く装丁もシンプルなものだった。

受け取って適当なページを斜め読みしてみれば、なるほど子供向けだけあって大まかにこの世界の神話を表した内容だ。


「しかし……紙がこれだけ普及しているなら本の複製技術も進歩していると思うが」


「何を言っておられる、人の手で書き写してこそ気持ちが宿るというものでしょう!」


「…………そうかい」


 ああ、そういう所だぞ魔法遣い。 一生分かり合える気がしない。

実際に気持ちとやらで魔法のクオリティも上がるのだから厄介だ、ただの根性論なら無駄と断じることもできるが。


「あー、ついでだが自分の分も一冊写本していいかな。 いやー今の熱弁を聞いて僕も神様に興味が湧いちゃったナー」


「素晴らしい、その歳でなんと立派な……一冊とは言わず何冊でも!」


「ははっ、ありがたい話だ。 では少し作業に集中したいので一人にしてもらってもいいかな」


「分かりました、ではどうかあなたに知恵神のご加護がありますよう……」


 魔法遣いらしく祈りを添え、神父が部屋から去っていく。

机の上には白紙の本とインクに羽ペンが用意されている、一応気配を探るが人気(ひとけ)もない。

つまり、いくら不正してもバレることはないということだ。


「気持ちや真心とやらで魔法遣いの実力は底上げされるのかもしれないが、本を読む子供たちには関係ない話だな」


 効率的にいこうじゃないか、せいぜい気持ちは籠めてやるがわざわざ無駄な時間を割くまでもない。

モモ君への手土産も出来たことだし、手早く終わらせて彼女を迎えに行こう。


「さて……“水よ”―――」


――――――――…………

――――……

――…


「……で、迎えに来たわけだがなにをやっているんだ君は」


「うえぇえ!? 早くないですか師匠!?」


 怪しまれないようにそれなりの時間をかけ、仕事を終えたのが2時間ほど前。

依頼の孤児院までやってくると、モモ君はまだ庭で仕事をしている最中だった。

正確に言えば草むしり自体はとっくに終わっている、だというのに彼女は農具を持って庭の土をほじくり返していた。


「ちょっと待ってくださいね、もう少しで耕し終わるので……というか師匠、ここまで歩いて来たんですか?」


「時間の節約だ、少しだけ飛んできた。 それよりなんで畑を作っているんだ?」


「家庭菜園を作りたいらしくて、温かくなる前に田起こししておこうかと!」


 頭がクラクラしてきた、理由は理解したがどうしてそこまで手を貸す必要があるのか。

むしろ畑を作るというなら新たな依頼に繋がるかもしれないだろうに、その分の収入を見逃しているのだ。


「けど異世界の雑草ってすごいですねー、こんな寒いのに真夏みたいにのびのびしちゃって」


「雪食み草だな、寒気を喰らって天敵のいない環境で成長する草だ。 煮詰めて水で希釈すると融雪剤になるぞ」


「ほぇー、ザ・ファンタジーな草ですね。 食べられます?」


「腹を下しても知らないぞ」


 それに食える草ならわざわざ冒険者に依頼などせず、自分達で処理してしまうはずだ。

煮ても焼いても食えないからこそ雑草なのだ、それに煎じて飲んで酷い目を見たバカも僕は知っている。


「はぁ……“起きろ、仕事だ”」


 魔術で土を隆起させ、適度に空気を含ませながら邪魔な石を取り除いていく。

我ながらなんとバカバカしい魔術の使い方だが、どうせ止めろと言っても聞くようなお人よしじゃない。

こちらの方が結果的に時間短縮になると考えたまでだ。


「わー、すっごい! 流石です師匠、ありがとうございます!」


「良いから終わったなら行くぞ、まだ依頼が一つ残って……ん?」


 不意に自分の視点が高くなる、それにこの浮遊感は誰かに持ち上げられた時のものだ。

モモ君か? いや、彼女は今目の前にいる。 だとしたらいったい誰が……


「あらあら、駄目ですよーモモさんの邪魔をしちゃ……あら、知らない子ですね?」


「あっ、ミーティアさん! 違います、その人私のお師匠です!」


「あら~?」


 僕の体を抱きかかえていたのは、この孤児院の長であろう金髪の女性だった。

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