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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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オアシスを目指して ③

「や、やったー! 完成だー!」


「うむ、これが今のワシにできる全力よ……」


 それからアルニッタさん渾身のロボットが完成したのは、5日後のことだった。

頼れる人に手あたり次第声をかけて、みんなでヒイヒイ言いながら作り上げた銀色のボディが眩しい。

この5日間で良いことも悪いこともたくさんあったけど、すべて忘れてしまいそうな輝きだ。


「かっこいいですね、巨大五郎DX!」


「そうじゃろうそうじゃろう、ワシのギガンティックトランスフォームゴーレム!」


「馬鹿なことを言うなアルニッタ! 超弩級エレガンスジャイアントで決まりだ!」


「なに!? トゥールー様の巨大御神像ではないのか!?」


「うーん、バラバラ!」


 ただひとつ問題があったのは、完成してもロボットの名前が決まっていないことだった。


「落ち着け皆の者、ここはひとつ私のゴールデン・プレリオン号で手を打とう!」


「ださい……全然ゴールデンじゃない……」


「黙れ次期当主! そういうお前は何か名前考えてあるのか!」


「せんせ絶対見つけるマン」


「私欲がダダ漏れではないか!!」


「ちなみにわたくしはブンブン丸が良いと思うのですが」


「いいからあなたはお休みくだされ聖女様ー!!」


 途中から手伝ってくれたプレリオン君にシュテルちゃん、それに回復してきたロッシュさんも乱入してきてもうめちゃくちゃだ。

本当にいろんな人たちが手伝ってくれた、みんながいなければロボットの完成ももっと遅くなっていたはずだ。


「ぬうぅ、こうなったらもう腕っぷしで決めるしかないか……?」


「待ってくださいアルニッタさん、それでは不利な人たちも多いです。 ここは私の世界で伝わる伝統的な決闘方式で決めましょう」


「渡来人の伝統的な決闘作法……まさか、“アレ”でしょうか?」


「そうですともロッシュさん―――――ジャンケンです!!」


――――――――…………

――――……

――…


「巨大五郎DXだー!!」


「ワシのギガンティックトランスフォームゴーレムゥー!!」


「超度級アルティメットエレガンスフォーエバージャイアントー!!」


「せんせ絶対捕まえ拉致監禁丸……!」


「白髪教師が逃げたのは正解だったんじゃないかこれ」


 厳正なるジャンケントーナメントの結果、晴れて巨大ロボットの名前は巨大五郎DXに決定した。

腕を拘束して無理やりグーを出させる魔術、同時に三つの手を出す魔道具、食べ物で釣ってくるロッシュさん、みんな手ごわくて苦しい戦いだった。

だけど最後に勝ったのは私だ。 やっぱり相手の指が動く瞬間に素早く後出しする方法が一番強かった。


「それでアルニッタさん、巨大五郎はすぐにでも動かせるんですよね?」


「ギガンティック……くっ! そうじゃよ、あとは食料や必要な物資を積みこめばすぐにでも出せるわい」


「ふむ……しかし魔導の翁よ、この巨大なゴーレムをどうやって外に運び出すのだ?」


「我々トゥールー様より賜った筋肉があれどこの巨体を運び出すのは難しいぞ」


「…………あ」


「アルニッタさん?」


 そうだった、広くて忘れていたけど巨大五郎が居るのは地下だ。

私たちが出入りしている扉からではとてもじゃないが運び出せない。


「……渡来人たちの間では弘法にも筆の誤りという言葉があるようじゃな」


「アルニッタ貴様ァ!! どうするのだ、もう完成してしまったんだぞ!?」


「分かっとるわぁ! 可動部を分解してパーツ別に運び出すぞ、もう一仕事じゃお前たち!!」


「た、大変だぁー!」


 それからみんなで分解した巨大五郎を運び出すのに一日、旅に必要な支度をそろえるのにさらに一日かかってしまった。

アルニッタさんはその間も遺族への連絡やザイフさんのお見舞いで忙しなく、結局リゲルを出発するのは師匠が出て行ってから一週間後のことだ。


――――――――…………

――――……

――…


「ん、行こう……先輩弟子……」


「シュテルちゃん、本当に一緒に来て大丈夫ですか?」


「大丈夫……お父さんも、泣いて喜んだ」


「たぶんそれは喜びじゃないと思うなぁ」


 雲一つないピーカン晴れに照らされ、横たわる巨大五郎DXの上ではシュテルちゃんが両手を組んで仁王立ちしている。

その視線は師匠が向かった方角、つまりレグルスのある方を向いて離れない。 かなり意志は固いらしい。


「モモセさん、残念ながらわたくしは同行できませんがご武運を。 十中八九ライカさんはこの事件の核心に迫っております」


「もちろんです! それでその、ザイフさんたちは……」


「残念ながらまだしばらくは目を覚まさないかと、なにせ一度は生死の境を彷徨ったほどですから」


「そうですよね……皆さんのこと、お願いします」


 ロッシュさんは治癒魔法を酷使した反動と、いまだ昏睡しているザイフさんたちを治療するためにまだしばらくリゲルに滞在することを決めた。

できれば生き残った3人からあの工房で何が起きたのか聞きたかったけど、無茶は言えない。


「おーい、そろそろ行くぞ嬢ちゃん! はよ乗り込め!」


「はーい! ロッシュさん、師匠と合流したらまたいつかアルデバランまで遊びに行きます! ザイフさんたちの治療、本当にありがとうございました!」


「いえ、偉大なるアスクレス神の教えに従ったまでです。 ……それとモモセさん、一つお伝えしたいことが」


「はい?」


「まだ意識が戻っていないのですが、ザイフさんたちは時折うなされて同じような言葉を繰り返しているのです。 “塔を崩すことなかれ”と」


「塔を……わかりました、覚えておきます」


 私には何のことだかわからないが、師匠なら気づくことがあるかもしれない。

塔を崩すことなかれ、その言葉を頭の中で何度も繰り返しながら、ロッシュさんと別れて巨大五郎へと乗り込んだ。


「すみません、遅れました!」


「よし、全員乗ったな!? 点呼ォ!」


「1番、ウムラヴォルフ・シュテル……」


「2番、百瀬かぐやです!」


「……3番? おい返事をせんか3番のミンターク!!」


「ええい話しかけるな、今は備蓄の確認中だ! えーと、食料と水と燃料とあとは……」


「心配性じゃのう、だがワシを含めて全員乗り込んだな」


 シュテルちゃん、ミンタークさん、アルニッタさん、そして私。 レグルスに向かうメンバーはこの4人だ。

リゲルの偉い人である2人がこの街を出るのはどうなのかとも考えたけど、しばらくの間はルニラさんに仕事を任せて(押し付けて)きたらしい。

たぶんあとで滅茶苦茶怒られるし恨まれると思うけど、2人とも絶対にレグルスと決めた以上は仕方ない。


「進路上、障害物なし! 事前通知のおかげだな、このまま大通りを直進して魔導区正門をくぐるぞ!」


「ヨーソロー! シュテルちゃん、揺れるので座ってシートベルトしてくださいね」


「ん……」


 全員が巨大五郎の中に乗り込むと、アルニッタさんが運転席のスイッチを操作してエンジンが唸りを上げる。

よかった。 再組立ての時にパーツがいくつか余った時はどうなることかと思ったけど、なんとか順調に動いてくれた。


「目標はオアシス都市レグルス! 過酷な旅になるぞ、覚悟は良いな!」


「「「おー!!」」」


  ――――――…………


「…………あれ?」


「ん……どうか、した?」


「いや、今何か聞こえたような……気のせいかな?」


 アルニッタさんの号令に紛れて、どこか遠くから私たちじゃない誰かの声が聞こえた気がした。

当然だけど巨大五郎の内部には私たち以外の人はいない、今日まで急ピッチで作業を進めたから疲れているのだろうか。


 それでも私の耳がたしかなら、「それ」は一度だけ聞いたことのある竜の鳴き声によく似ていた。

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