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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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オアシスを目指して ②

「えっ、レグルスって砂漠にあるんじゃないですか?」


「砂漠ですとも、しかしレグルスは水上都市なのです」


 工房からまだ使える資材を選んで地下に運び込む合間、ミンタークさんから教わったレグルスの話はとてもワクワクするものだった。

 砂漠なのに水に浮かぶおっきい街、想像するだけでファンタジーだ。 早くこの目で見てみたい。


「地下水脈を魔術で引き上げ、巨大な水の流れを作った上に都市が建てられているのです。 それもすべて王の独力だとか」


「王様一人で街を作ったんですか!? すっごい……」


「魔術師としての腕はライカ様と同等、もしくはそれ以上やもしれませんな」


「むっ、師匠は負けませんよ!」


 私に魔術師のことはよくわからないが、それでも師匠が相当上の実力なのはわかる。

砂漠に湖を作った王様もたしかにとてもすごいが、師匠だって体力があればそれぐらいきっとたぶんなんとかできると思う。 おそらく。


「むーん、一度その王様に会わなきゃダメですねこれは。 ちゃんと師匠と肩を並べる人か見極めなければ」


「モモセ様、一応王様なので不敬になりますぞ……」


「おっとっと、また師匠に怒られるところでした。 危ない危ない」


「お弟子さんの前で師を比較するとは、私が無礼でしたな。 申し訳ありませぬ」


「いえいえ! おっとそろそろお仕事再開しないとですね、またあとでレグルスのお話聞かせてくださいね!」


 いつまでも油をドボドボ売っていられない、ロボットの完成が遅れるとそれだけ師匠との合流も遅れてしまうのだ。

師匠は可愛くて優しいけど怒らせると怖い、頭がいいからいろんな言葉でどこがダメだったのか指摘される。

それでも怖さと同じくらいいい人だ、見ず知らずの私を助けてくれたし出会って間もない人のために怒れる人だから。


「えーっと、あと必要なのは鉄筋がたくさんとワイヤーがいっぱいにケーブルもありったけ……」


 だからこの工房に駆け付けた時、きっと私より怒ったはずだ。

はじめて見学したときの面影はどこにもないほどに荒れて、あちこちに赤黒い血痕がこびりついた廊下。

部屋の中には頑張って戦ったゴーレムの残骸や、組み立て途中だった作品だったものが散らばっている。


「…………ひどい」


 私だって怒っているし、犯人は許せない。 だからこのエネルギーは無駄にしちゃダメだ。

ちゃんとぶつける相手を見つけるまで、ちゃんと手足を動かして前に進む力に換えなきゃいけない。


「なんじゃひどいって、ワシのことか?」


「わっ!? い、いたんですかアルニッタさん!」


 物陰になっているところからぬるっと顔を出してきたアルニッタさんに驚き、手に持っていた貴重な資材を取り落とすところだった。

私が魔術区から戻ってきてしばらく姿を見かけなかったけど、まさかこんな部屋の隅っこにいたなんて。


「もう、驚かさないでくださいよ。 アルニッタさんがいないと作業が進まないですよ?」


「なに、本格的な仕事は明日にならんとできん。 今日はもう遅い、お嬢ちゃんも宿に戻った方がいいぞ」


「いえ、私は今日泊まり込むつもりです! まだまだ何が起こるか油断できませんからね」


 ミニ恐竜たちはあれから1体も見つけていない、師匠がほとんど倒してしまったらしい。

残った個体も教会の人たちや警備兵の人たちが倒したけど、どこにも残っていないとは言い切れない。

もしもアルニッタさんまで襲われたら大変だ、ボディーガードもかねて私が泊まった方が安心できる。


「若い女子が無理するもんでないぞ、お前さんほど器量のいい娘ならいい男も捕まえられるだろうに」


「あはは、残念ながら彼氏いない歴=年齢です……それよりアルニッタさんはこんなところで何を?」


「遺品がないか探しておった、とても遺族に見せられる状態ではない遺体も多いものでな……」


「…………そう、ですか」


 アルニッタさんはこの工房の責任者だ、どんな理不尽な理由だったとしても従業員が死んでしまった以上、責任を取らなければいけない立場にいる。

だけどそれ以上に自分の心に整理を付けたいように見えて、なんと声をかけていいのかわからなかった。


「……私も手伝います、誰のものかわかる小物を探せばいいんですかね」


「別にこんな老いぼれに付き合わんでいいぞ、嬢ちゃんは休んどれ」


「頭が動かないときは手を動かせが私のモットーなので! そのせいで竜玉も飲んじゃったんですけど」


「悪癖じゃろそれは、治せ治せ」


 軽口を叩くと、重苦しくなっていた空気もだんだん和らぐ。

夕日もとっぷり沈んだ中、ランタンの灯りだけで行う遺品探しはあまり順調には進まないので、自然と私たちの口数も増える。


「のう、嬢ちゃん。 たしかラプトルの姿を見たんじゃろ、何か気づいたことはなかったか?」


「気づいたこと? うーん……ごめんなさい、わかんないです」


「謝らんでいいわい、どうもラプトルどもの破壊が的確で気になったもんでな」


「的確、ですか?」


「おう、例えば嬢ちゃんたちに運び出してもらった資材じゃ。 一部を除いてシンプルな鋼材ほど被害は少なかった」


 思い返してみるとたしかにアルニッタさんの言うとおりだ、工房中が荒らされているのに無事な資材は想った以上に多かった。

それでも私は「ラッキーだな」ぐらいにしか考えなかったのに、さすが工房長は見る目が違う。


「遺品探しのついでにちと工房を回ってみたが、どうも彼奴等の破壊活動にはムラがある。 誰かに命じられ、何かの目的があったかのようにな」


「目的……つまり何かを探していたんですかね。 工房から盗まれたものはあります?」


「いや、ワシもその線は考えたが見た限りでは何も盗られとらん。 小物となるとさすがに把握しきれんが」


「うーん、盗みが目的じゃないなら―――――壊してしまいたいものがあったとか」


「……そうか、だとすれば一番破壊の痕跡がひどかったのは」


「ザイフさんの研究室!」


 私もあっちこっちの部屋から鉄筋やワイヤーを運び出したから知っている、一番ひどいありさまだったのはあの部屋だ。

そうだ、そもそも師匠が工房にやってきたのもザイフさんに呼ばれたからだった。 たぶんザイフさんは師匠に何かを伝えようとした。


「望遠鏡……そうだ、望遠鏡です。 原型がないぐらいメッタメタに壊されてました」


「ザイフの研究か、それがラプトルどもの主にとって邪魔な代物だったと……?」


 推理はできても、なんでそんなことをしたのかはわからない。

 どうして犯人はこんなにひどい真似をしてまで、望遠鏡の完成を阻止したかったんだろう。


「でも師匠はあの一瞬で気づいたんですね、そして答えを求めるためにレグルスに向かった」


「……ますます早く追いかけんとな、今日はここらで切り上げじゃ。 明日からバリバリ仕上げるぞ、覚悟せい」


「はい、早くロボットを完成させて師匠を追いかけましょう! ……ところで名前って決まってます?」


「あー……完成するまでには考えとくわい」


「私もナイスな名前考えておきます!」


 さすがにランタンの灯りだけでこれ以上の遺品捜索は難しい、それにレグルスへ急ぐ理由もできてしまった。

師匠はいったいザイフさんから何を託されたんだろう、そして犯人はいったいどうして望遠鏡を破壊したかったんだろう。

答えはきっとレグルスで待っている、明日から急いでロボットの完成と……あとかっこいい名前も考えなきゃ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 絶対ヘンテコな名前付けようとするだろうなぁ笑
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