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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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はじめてのおつかい ①

「よし、今日は稼ぐぞモモ君」


「はい、師匠! たーのもー!!」


 翌朝、モモ君に一通りの説教をかましてからギルドへ襲来。

店内は昨日と変わらぬ活気と朝から飲んだくれるダメ人間たちの姿が広がっていた。


「大人しく入ってこれないのかいあんたたち」


「あっ、ステラさん。 おはようございます!」


「おはよう、早速依頼を受けに来たんだろ。 そっちの掲示板に張ってある用紙を受付まで持ってきな」


 呆れた顔で話しかけてきたステラが指で差した先には、掲示板に群がった人だかりが見えた。

僕たちと同じく金欠の冒険者たちだろう、少しでも稼ぎのいい依頼はないかと吟味している。


「おいおい、これは僕らも早くしないと美味しいところが根こそぎぐわー!?」


「し、師匠ー!」


 掲示板前の人ごみをかき分けようと突っ込むが、あえなく弾き飛ばされる。

まるで潜り込む隙間がない、金欠にあえぐ人間の熱気と執念というものは何とも恐ろしいものだ。


「大丈夫ですか師匠? 貧弱なんだから無理しないでくださいって」


「き、気を付けろモモ君……あいつら皆目が血走ってるぞ……」


「んもー、ちょっと待っててくださいね!」


 最寄りのテーブル席に僕を座らせると、モモ君は臆することなく人ごみへ突っ込んでいく。

さすが馬力が違う、屈強な男たちの押し合いへし合いにも負けず、モモ君が中へ中へと潜りこんでいった。


「モモくーん、あまり時間がかからないものを見繕ってくれ。 数をこなして稼いでいこう」


「了解です! じゃあこれとこれと……これ!」


 しばらく待っていると、人だかりを再度掻き分けてモモ君が生還した。

彼女の手には3枚分の依頼書が握られている、こちらのリクエストに叶うものをよく持ち帰ってくれた。


「孤児院の草むしり、聖書の写本、ゴミ屋敷の清掃か……しかし随分質の良い紙を使うもんだな」


「そうなんですか?」


 依頼書に使われているのはおそらく植物由来の紙だ、決して安いものではない。

それを依頼の数だけ惜しげもなく使うなんて金がいくらあっても足りないはずだ、冒険者ギルドとはそんなに儲かるものなのだろうか。


「まあいい、報酬も悪くないしこれらを受注しよう。 よくやったぞモモ君」


「えへへ、なんだったらあと10枚ぐらい持ってきますよ!」


「絶対にやめろよ、違約金だって発生するんだからな」


 冗談だとは思うが、釘を刺さないと本当にやりかねないのがこの子の怖いところだ。

慎重に監視しながら受付に向かうと、すでに同じく依頼書を抱えた冒険者たちが列を成していた。


「結構並んでいるな、時間がかかりそうだ」


「なんだか人気アトラクションみたいでワクワクしますね」


「へっへっへっ、なんだか場違いなお嬢ちゃん達が並んで来たなぁ。 まさか冒険者だって言うんじゃねえだろうなぁ?」


 しかたなく列に並ぶと、一つ前に並んでいた男がニヤニヤとこちらに話しかけて来た。

細身ながらも鍛えられて引き締まった筋肉と、腰に携えた一対の短剣はいかにも戦えるという雰囲気を醸し出している。


「むっ、私たちも冒険者ですけど……」


「へっへっへっ……こっちは荒事専門の依頼受付だぜ、間違えてない?」


 男に注意されあらためて列を注視すると、他の受付に比べてここだけ武器を携えた筋骨隆々の男たちが並んでいる。

なるほど、たしかにこれは僕たちの方が場違いだ。


「…………すみません、間違えました!!」


「へっへっへっ……気にすんな、冒険者は助け合いだぜ。 分からねえことあったら何でも聞きな」


「師匠! すごくいい人でした師匠!」


「そうだね、人は見かけによらないな」


 親切な冒険者に軽く手を振って別れ、あらためて正しい受付に並び直す。

そしてしばらく暇しながら列が進むのを待つと、僕たちの対応をしてくれたのはステラだった。


「悪い悪い、伝え忘れてたね! 物騒な依頼は専用の窓口があるんだよ」


「びっくりしました……後でお礼言わなきゃですね」


「カマッセのやつは暇ありゃギルドにいるから気が向いた時に声かけりゃいいよ、依頼はこの3つで良いのかい?」


「ああ、今日中に片づけられるようにするよ」


 僕らが渡した依頼書に一通り目を通すと、ステラは受付脇に置かれた判子を手早く押印していった。


「はいよ、依頼場所は裏面の記載をよーく確認しな。 ケガするんじゃないよ!」


「ありがとうございます、それじゃ早速行きましょうか師匠!」


「よし、時間も惜しいし急ぐぞモモ君」


 3つの依頼を一日でこなすとなるとスケジュールもハードになる。

早急な収入が求められる以上、多少の恥は忍ぶしかない。 差し出されたモモ君の背に飛び乗って僕らはギルドを飛び出した。


「師匠、まずはどれから向かいます?」


「二手に分かれるか、まず僕を教会で降ろしてくれ。 君は孤児院で草むしりを頼む、終わったら合流しよう」


「えー、師匠一人で大丈夫ですか?」


「そのセリフはそのままお返しするよ、心配だがあまりこの2つに時間を掛けたくないから仕方ない」


 草むしりなんてあからさまな肉体労働だ、残念ながら今の僕じゃ戦力外だろう。

逆に写本はモモ君に向いていない、ペンや本を破損する可能性さえある。 そうなればまた借金がかさむ一方だ。


「うーん、それなら構いませんけど……そこまで急ぐ意味ありますか?」


「ゴミ屋敷の清掃なんてどれだけ時間がかかるかも分からないんだ、これが一番報酬も高いし逃したくはない」


 モモ君がいる限り時間の短縮は出来るだろうが、着手する時間は多ければ多いだけいい。

それにこの依頼は他にも美味しい点が依頼内容として記載されている。


「必要ならば発掘したゴミは持ち帰っても良い……か。 戦利品を吟味する余裕は持ちたいところだな」


「えーっ! ゴミを持って帰るんですか!?」


「タダで手に入るんだ、再利用できるものなら損はない。 掘り出し物があったら万々歳だ」


「うーん、でも……死んだ人のお屋敷なんですよね?」


「ただ捨てるよりも今を生きる者の糧となった方が故人も喜ぶさ、それより先の依頼をさっさと片づけるぞ。 そこの角を右だ」


「わっかりましたー……まあ細かいことは後で考えますか」

――――――――――――――――――――

【依頼名:ゴミ屋敷の清掃】条件:一つ星から 人数:不問

内容:

先日、私の祖父が急逝したため、残された屋敷の清掃作業をお願いします。

内部は非常に雑多なガラクタが散乱しているため、肉体作業が得意な方を募集中です。

作業人数は何名でも構いませんが、報酬は相談の上で分け合ってください。


報酬:

三等銀貨で1200G相当(※百瀬かぐや視点の金額は1万2千円相当)

また、屋敷のガラクタはお好きに持ち帰って構いません。

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[一言] 噛ませじゃなかったのにカマッセとは
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