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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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132/296

七大厄災 ⑦

「わー、すごい! 隠し部屋ですか?」


「職業柄、何かと人に聞かれたくない話も多いもので」


「よくあの火事で無事だったな……いや、魔法か」


 つい手癖で足もとの魔法陣を調べるるために触れると、あの炎に飲まれてもなお焦げ跡ひとつついていないことが分かる。

床の下には石削りの階段が続いているというのに、炎の熱すら残っていない。 水や冷気で冷やしただけではこうはなるまい。


「知恵神メーティスの加護ですね。 書物やペンなど知識の糧となるものを悪意から守る魔法です」


「なるほど、モモ君は対象外だな」


「師匠?」


「それで話をするのは構わないが、なぜ僕とギルドマスターだけなんだ?」


「詳しくは地下でお話を、もし警戒するのであれば同行者を1人連れてもかまいませぬが」


「じゃあモモ君、ついてこい」


「えっ、私でいいんですか?」


「どうせ話の内容なんて覚えていられないだろ」


「師匠? 私も泣く事あるんですよ?」


 モモ君を選んだのは消去法だ。 油断ならない聖女や学園の生徒を巻き込むよりも、身近な人間の方が気兼ねしない。

それにギルドマスターたちはリゲルの人間だ。 地下で何を話すつもりかはわからないが、同行者ならこの街に対して特別な感情を持たない人間を選びたかった。


「では、足元にお気をつけて。 お前は気を付けなくていいぞミンターク」


「このハゲェ……!!」


「あらあらうふふ、どうやらお二人とも反省していないご様子ですね?」


「「…………」」


 圧が強い聖女の笑顔を前に、一触即発だった二人のオーラが一瞬で鎮火する。

そのまますごすごと地下に降りていくギルドマスターたちの背は、いつもより小さく見えた。


「モモさん、あの二人は悪い人ではないのですが……気を付けてくださいね?」


「はい、またケンカしそうなときは何としてでも止めて見せます!」


「いえ、二人ともライカさんの体力を知らないので。 この地下もかなり長いように見えます」


「師匠、抱っこしていきましょうか?」


「いらん気遣いどうもありがとう、先に行くぞ!」


 聖女と無礼な会話を繰り広げるモモ君を置き去りにし、先行して地下への入口へ飛び込む。

反響する足音から大体の深さは推測済みだ、僕の体力でも問題なく下降できる。

なぜなら全段すっとばして飛んでしまえばいいからな。


「ほら、早く来ないと置いていくぞ」


「師匠、ちゃんと歩かないと体力つきませんよ?」


「……明日から頑張るさ」



――――――――…………

――――……

――…


「来たぞ、それで話とはなんだ?」


「お待ちしておりました、ではこちらへどうぞ」


 モモ君を連れて階段を降りると、先に降りていたルニラは卓上に筆記用具や紙の書類を用意して待っていた。

地下室の割に閉塞感を覚えない程度には広く、天井には魔石を利用した灯りも灯っている。

若干の埃臭さは感じるが、長年放置されていたわけではない。 定期的な手入れは施されている気配は感じられる。


「小生が聞きたいのはあなた方が交戦した少女についてだ、たしかウォーと名乗っていたかと……」


「その通りだ。 青白い肌に蒼い髪、石礫やゴーレムを自分の武器として扱う妙な力を振るっていた」


「あと可愛かったです!」


「ええい君は黙っていろ」


「なるほど、戦争(ウォー)か……能力の記述は……だとすれば……」


 僕たちから回答を引き出すと、ルニラは一心不乱に手元の書物をめくり始める。

まるで新品のような本だが、表紙からはかすかな魔力の痕跡を感じられる。 この地下室同様、メーティスの魔法で保護されていた代物だろう。


「ライカ様、申し訳ございません。 ルニラの奴は昔からああいうやつでして……」


「なんだ、喧嘩する間柄にしては詳しいなギルドマスター? 腐っても友は友というわけか」


「……悔しいですが、その通りでございますな。 顔を合わせれば腹だしいはずなのに、奴が好む茶葉の銘柄まで覚えている」


 ギルドマスターは本をめくるルニラを見ているようで、どこか遠いところへ視線を向けている。

それは懐かしい過去を思い返すような、どこか後悔を含んだ目をしていた。


「で、彼は何を調べているんだ? 手元の本は希少な文献だと思うが」


「師匠、すごい難しいこと書いてあります! 全然読めません!」


「君は君で何勝手に読ん……で……」


 集中するルニラの背後から本を盗み見るモモ君、無遠慮が過ぎる行いを咎めようとする声がしりすぼみに消える。

記載された内容が専門的だというならわかる、ただモモ君の理解度が追い付いていないだけだ。

だが、()()()()となると話は別だ。 この世界、いや現代においてそれはありえない。


「ルニラ、貴様が呼んだ客人の前だぞ! 無礼が過ぎる、少しは顔を上げんか!」


「むっ……失礼、小生の悪い癖だ」


「いや、気にしていない。 良ければその本、僕にも見せてもらえないか?」


「それは構いませぬが……」


 言葉を濁しながら、ルニラは読んでいた本をこちらへと差し出す。

はやる動悸を押さえ、慎重にページをめくれば、紙面に刻まれていた文字は僕の想像通りのものだった。


「…………なるほど、これは読めないな。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 モモ君の言う通り、僕は本の内容を読み解くことはできなかった。

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