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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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七大厄災 ⑤

「ここがルニラさんのお宅ですか?」


「ええ、着飾ることを嫌うやつですので」


 掃除のおばちゃんに仕事を休むことを伝え、ミンタークさんと一緒に魔法区までやってきた。

偉い人と聞いていたルニラさんの家は、想像よりも小さい一軒家だ。 私の実家とそこまで大きさに違いはない。


「この時間なら午前の仕事を終え、自宅に戻っている頃合いです。 ……しかし、本当に訪ねるおつもりで?」


「ここまで来たなら当たって砕けろです! お土産も準備したので失礼はないかと!」


「そういう心配では……」


「――――失礼、そちらのお嬢さん。 小生の家に何か御用ですかな?」


「わっ! ごめんなさい!」


 私たちが玄関でまごまごしていると、後ろから声がかかる。 何も悪いことはしていないのに、思わず謝りながら振り返ってしまった。

後ろに立っていたのは、片手に持ったタバコパイプから煙を漂わせる、片メガネのお爺ちゃんだ。

背筋はピンと伸び、険しい顔をした眉間にはシワが寄っている。 どことなく師匠と同じ雰囲気を感じる人だ。


「ルニラ……」


「……ほう? この魔法区で珍しい顔を見るものだ、ミンターク?」


 顔をわせた途端、二人の間にピリピリした緊張が走る。

やっぱりこの人が例のルニラさんだ、よく見ると写真の面影が残っているような気がする。 


「何の用だ、小生の居ぬ間に火でも放つつもりだったか?」


「なっ……そ、そんなわけあるか! 貴様はいつも嫌味から入らねば人と話せないのか、そんなことだからご自慢の髪も禿げ上がるのだ!!」


「貴様ァ、髪は関係ないだろうが!! これだから魔術師は陰湿極まりない……」


「まあまあまあ、喧嘩しちゃダメですよ! ルニラさん、こちらお土産ですどうぞ!」


「む、これはご丁寧に……失礼だがあなたは?」


「百瀬かぐやと申します! 今日はルニラさんにお願いがあってまいりました!」


 お土産の茶葉セットを渡すと、少しだけルニラさんの表情が柔らかくなった気がした。

ミンタークさんの情報通りだ、やっぱり仲が悪くても友達の好きなものはちゃんとわかっている。


「小生に頼み事か、ふむ……どうやら込み合った事情のようだ、中で話を聞かせてもらおう」


「ありがとうございます! よかった、これで仲直りが……」


「ただしお前は入れぬがなミンタアアアアアアアアアアアアク!!!」


「器が小さいぞルニラあああああああああああああああ!!!!」


「なんでー!?」


 安心したのもつかの間、私への優しい雰囲気からコロっと変わってすぐに喧嘩が始まってしまった。

胸ぐらを掴んでにらみ合う二人の間にはバチバチと火花が散って焦げ臭いにおいが……焦げ臭い?


「る、ルニラさんルニラさん! 何か変なにおいしませんか!?」


「構えろ、ミンターク! 今日という今日は我々の因縁に決着をつけてやる、まずは貴様からだ!!」


「ふんっ、神に祈るばかりの他力本願片メガネがッ! 死後の安寧を存分に祈ってろ!!」


 ヒートアップした二人は焦げ臭い臭いにも全く気付いていないようだ、間に割って入っても私のことは目にも入っていない。

……そういえば、さっきお互いに胸ぐらを掴んでいたけど、ルニラさんが持っていたタバコパイプはどこに?


「み、ミンタークさーん! 火事ですよ火事、大変ですよ!?」


 足元を見てみると、喧嘩のどさくさで誰かが踏んづけてしまったのか、ペッキリ折れたパイプが転がっていた。

中身の葉っぱが零れて玄関の芝生に燃え移っている、なんだか火花も出ているしたぶん普通のパイプじゃない。


「あばばばばばば! 消火消火、早く消火しないと!」


「“我らが偉大なる知恵の神よ、どうか愚か者に授ける英知を……!”」


「“滾れ炎よ、この手に集い眼前の敵を穿ち抜く力を……!”」


「よりにもよって炎の魔術をたぶん唱えてるー!!」


 踏んだり叩いたりなんとか炎を消そうとしても、火の手はどんどん強くなる。

なんだか二人の戦いに反応してパイプの炎が激しくなっている気がする、やっぱりこれただのタバコじゃない。


「「食らいやがれええええええええええええええ!!!!!」」


「ふぅー! ふうぅー!! ゲッホゲホゲホゲホッ!!」


 なんだかもうやぶれかぶれになって吹き消そうとしてもダメだった、炎の勢いはもうロウソクやライターの大きさじゃない。

しかもうっかり煙を吸い込んでしまって涙が出てきた、咳も止まらなくてもうめちゃくちゃだ。


……咳き込むたびになんだか喉の奥からもやもやしたものがこみ上げてきた。

あれ? そういえば私、忘れていたけどドラゴンのビームが吐き出せるようになってたんだっけ。


「ゲホッ……ま、待って待って今はだ、ダメ……ブハァー!!?」


――――――――…………

――――……

――…


「なるほど、つまりトドメは君か!! このバカ!!!」


「「「誠に申し訳ありませんでしたぁ!!」」」


 現場に駆け付けると、燃える一軒家を背景に3人が異世界流謝罪スタイル・土下座を披露する。

火の手はもう取り返しのつかない勢いだ、完全に建物を取り込んで燃え上がっている。


「どおりで若干呪詛が混じっているわけですね、ただの水では鎮火できませんよこの火事」


「ぶ゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛……! せ、責任をもって私が切腹いたします……!」


「あとにしろそんなもん! まずは消火が先だ、手伝えモモ君!」


「は゛い゛ぃ゛……」


 涙やら鼻水やらを垂らすモモ君を叱咤しながら、燃える家屋に水球をしこたま叩きつける。

効果がないわけではないが、いまいち効き目が悪い。 聖女の言う通り、ずいぶん厄介な火事だ。


「いっそ建物は叩き壊した方が早いな、延焼しかねない周囲の可燃物も壊すぞ。 修理費はギルドマスターに押し付ける」


「はい……」


「ルニラさん、浄化作業のお手伝いを。 自分の不始末は自分でお片付けしてください」


「はい……」


 意気消沈の重鎮2人をしり目に、数人がかりの消火作業は日が沈むまで行われた。

なお、その後に待っていた3人への説教は夜通し行われることとなる。

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