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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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七大厄災 ④

「聖女、こっちにモモ君のあんちきしょうは来ていないか?」


「せんせ……恨みが籠ってる……」


「なにをそんな怒っているんだこの白髪教師は」


「こんにちは、ライカさん。 モモさんと喧嘩でもしました?」


「なんで僕とモモ君が行動を共にしていないだけで皆その線を疑うんだ」


 (なぜかついてきた)プレリオンたちを連れ、アスクレスの教会に顔を出すと、数少ない顔見知りから返ってきた言葉がこれだ。

僕とモモ君はワンセットで記憶されているらしい、まったくもって不本意でしかない。


「ふふふ、冗談です。 彼女ならちょうど10分ほど前に訪ねてきましたよ、ミンタークさんとご一緒に」


「あのギルドマスターと? いったい何の用だったんだ」


「残念ながら嵐のように去っていったのでそこまでは。 ただ、ルニラさんを探していたようですけど」


「ルニラ? 知らない名前だな、誰だ?」


「なんだ、知らないのか白髪教師! 群雄割拠の宗派が集うこの魔法区を統率する三賢人の一人だ、どうやら知識では私に劣るようだな!」


「井の中の知識を高らかに披露してくれてどうも、せいぜいそのままの君で満足してくれ」


 自慢げに胸を張るプレリオンを片手で追い払う、構えば余計に調子づくだけだ。

そもそも知識で競うというのなら、一人の人間について知っているか否か程度では浅いにもほどがある。


「プレリオン……子供っぽい……」


「なんだと貴様ぁ!? 無礼な女だ、名を名乗れ!!」


「ウムラヴォルフ・シュテル……同級生……覚えてないほうがバカ」


「こ、こいつぅ!!」


「はいはい、ここは神聖な教会です。 諍いはいけませんよ」


「む、むぐ……」


 顔を真っ赤にして怒るプレリオンの肩を聖女が後ろから抑え、2人の喧嘩を仲裁する。

さすがの暴君も聖女ほどの立場から窘められると大人しい、行き場のない拳を振り上げたまま硬直してしまった。


「ともかくモモ君はそのルニラという人物を探しているんだな。 だがいったい何のために?」


「もしかしてお師匠様のいびりが堪えて魔法遣いに鞍替えするのでは?」


「………………」


「うふふ、冗談です。 心配せずともモモさんはあなたをとても好いていますよ」


「お、おい……あんまり白髪教師をいじめるな」


「なにを言っているんだプレリオン、いじめるも何も僕はいっさい気にしていないぞ。 モモ君が魔法遣いを目指そうが本人の勝手だ」


「おい、こいついつもこの調子なのか?」


「せんせは……素直じゃないから……」


「うふふふふふ」


「そこ、うるさいぞ」


 やはりこの聖女は嫌いだ、人当たりが良さそうな面の皮を被った狐にしか思えない。

善人であるのはたしかなのだが、あまり心を許したい相手ではない。


「よろしければルニラさんのところまでご案内いたしましょうか? また面白いことになりそうなので」


「いよいよ隠さなくなってきたな、信者が見たら幻滅されるぞ」


「なにを言いますか、アスクレス様に恥じるような行いはありませんとも」


「よくもまあ顔色一つ変えずほざけるな。 それに案内は助かるが、仕事はいいのか?」


「きっと明日の私が何とかしてくれます」


「宿題を……やらないタイプの、聖女さん……」


「さあさあ、信徒に見つかる前に行きましょう。 時間は決して我々の味方をしてくれませんよ」



――――――――…………

――――……

――…


「ママー、見てー! 女の子が浮いてるー!」


「あらあら、あの若さで綺麗に魔術を紡ぐのね。 私たちも負けないように信仰を紡ぎましょう」


「へー、あれが最近噂の飛ぶ幼女か。 初めて見た」


「アスクレスの聖女様もご一緒とは、どういう交友関係なのかしら?」


「……おい、目立ってるぞ白髪教師」


「仕方ないだろ、この距離を歩けるほど僕は鍛えていない」


「そこまで長い距離ではないのですが……」


 目的地に向かうまでの道中、魔術によって浮遊している僕の姿は、ひどく人目を集めた。

珍しい白色の髪で悪目立ちするうえ、聖女の隣で魔術を行使しているのだ。 好奇の視線が集まらないはずもない。

だがモモ君の補助もなく、この石畳の道を歩くには僕の歩速は遅すぎる。 体力の消耗を抑えるついでに飛んでしまった方がなにかと楽なのだ。


「魔力の無駄遣いにもほどがあるだろ、よくもまあ気の遠くなりそうな精密な制御を気軽に……」


「プレリオン、君も魔術師を志すならこれぐらいは目を瞑ってでも行使できるようになれ。 君の火球は形も歪で無駄が多かったぞ」


「なんだと!? ……くっ、魔術区に帰ったら目にもの見せてやるからな!」


「善処したまえ、ちなみに隣のシュテル君は無詠唱で真円に近い水球を作れるぞ」


「……ぶいっ」


「なんだとぉ……!?」


 プレリオンに向けたピースサインの指先に、シュテル君が小さな水球を2つ生成して見せる。

杖の補助がついているとはいえ、良い意味で若さに似合わない精度が身についている。 叩けば響く腕前は教師冥利に尽きるというものだ。


「先に言っておくが、この場で火球は作るなよ。 火の魔術は常に慎重な扱いを心掛けろ、衛兵に捕らえられても僕は君を助けない」


「わ、わかっている! ……くそっ」


「うふふ。 教師が板についていますね、ライカさん?」


「ええい生暖かい目を向けるな、それより目的地はまだか」


「その角を曲がってすぐです。 ただ、ルニラさんは気難しい方なので一度私が取り次いで……」


 街道の先を指で示した聖女の動きが、ぴたりと止まる。

その「異変」に気づいたのは彼女だけではない、多少の誤差はあれどその場の全員がすぐに気づいたはずだ。

鼻をつく焦げるような臭いと、もうもうと立ち上がる黒い煙。 その根元を目で追うと、どう考えてもこの道の角を曲がった先から立ち上っている。


「だから貴様はいつまでたっても貴様のままなのだよミンタアアアアアアアアアアアアク!!!!!!」


「黙れメガネがあああああああああ!!! その生え際同様引き際を弁えたらどうだァ!!!」


「ししょぉー!! ししょー!! たすけてー!!!」


「……………………よし、帰るか」


「ライカさん、目を背けてはなりませんよ」


 僕が愚かだった、認識が甘かった。 あのバカから決して目を離してはいけなかった。

それでも誰か教えてくれ。 わずかでも目を離した隙に、なぜ彼女はよその土地で火事を引き起こしているのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは一人災厄のモモくんですね間違いない
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