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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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大惨事対戦 ⑤

「悪い、オレちょっと用事思い出したわ」


「いや逃げるななのです」


 つい先ほどの失態を話すと、妹は露骨に嫌な顔を見せて足早に立ち去ろうとする。

いつもの彼女ならろくに詳細も聞かず大槌を振り回しながら突貫しそうなものだが、あまりに珍しいことについ引き留めてしまった。


「あのバカピンクに関わりたくない」


「それはウォーも同じなのですよ、というかお前もかかわったことあるのですね」


「ああ、アルデバランでな。 何を思ったか目の前で竜玉を飲み込みやがった」


「イカれてやがるのです」


 竜玉、竜の命そのものであり魔力に携わる人間ならばいくら金を積んでも惜しくない希少な素材だ。

呪詛や神に捧げる供物、魔術師ならば杖や装飾品に仕立てることで身の丈を超えた大魔術すら御することができる。

だがまさか飲み込むような人間がいるとは、あのピンク髪は脳みそまで染色されているのか。


「なんつーかアレと関わると調子が狂う。 こっちが殺す気だってのに殺意どころか闘志のかけらも見せねえ、その割には腑抜けてるわけじゃなく立ち向かってきやがるんだ」


「そりゃラグナにとっては相性最悪なのですね、仕留め損ねたのも納得なのです」


「言ってろ、お前だって失敗してんだろ渡来人殺し」


「……ふんっ」


 痛いところを突かれて返す言葉もない、自分もあのピンクのバカさ加減にやる気がそがれたのは事実だ。

いや、どう考えてもあのバカの方がおかしい。 あれだけの力を持っておきながら恐ろしいとは思わないのか。

わずかにでも疑念を持っていれば私の権能は発揮される。 それでもあのピンクが自我を保っていたのは、絶対の自信があったかあるいは……


「……なにも考えていないバカだったか、なのです」


「なんだ今頃気づいたのかよ」


「うっさいのです、あのピンクの話はもういいのですよ。 それよりもう一人、貧弱な白髪のガキがいたはずなのです」


「ああ、弱っちそうなくせに偉そうなやつ。 あいつ妙な魔術を使うんだよ」


「知ってるのですよ、()()()()()()()()()()()()()()。 もし予想の通りなら、生かしてはおけない」


「へえ、あいつは渡来人じゃないぞ? お前にしちゃ珍しいな」


「それだけ非常事態という事なのですよ、やつはこの世界に存在してはいけない概念を知っている可能性が高い。 それに……」


「……それに?」


「いや、何でもないのです。 久々に姉妹たちとも顔合わせしておこうと思うのですが、お前は?」


「オレは結構、この前ノアとも会ったしな。 ただあの白髪野郎をぶちのめす時は呼べよ、面白くなりそうだ」


「考えておくのです、お前がしゃしゃると何もかも更地になってしまうので」


「言ってろ、いやでも駆けつけてやる。 ……ところで、こいつらはどうする?」


 ラグナが物陰に視線を向けると同時に、視線の先から飛んできた極小の針を指でつまんでへし折る。

私たちには効かないが、おそらく麻痺毒か眠り薬の類が塗られていたのだろう。 奇襲が失敗したとみるや、見るからにガラの悪そうな連中がぞろぞろと物陰から現れる。

数で圧倒せずに毒物で無力化を狙うあたり、傷つけずに自分たちを捕獲したいと考えているのか。


「人売りの連中か、オレ様が可愛すぎて目ぇつけられちまったよ」


「オメーよりウォーの方が人受けは良いのですよ、なのでウォー狙いだと思うのですが」


「…………」


「…………」


「わかった、ここはより多くぶっ潰した方が勝ちってことで」


「乗ったのです、悪いけどむしゃくしゃしてるので加減はできねえですよ」


 なんともまあ、間が悪い人間たちだ。

よりにもよって今でなければ、多少は生き残る目もあっただろうに


――――――――…………

――――……

――…


「プレリオンくーん! 無事ですかー!?」


「おかえりなさい、モモさん。 予想通り術師は倒せたようですね」


 勢いよく工房に飛び込んだモモ君を、聖女が持ち前の包容力でしっかりと受け止める。

室内に安置されていたプレリオンの姿はない、すでに教会へ移動したあとか。


「予想通り、ということは彼の体調は回復したようだな」


「ええ、今は疲れて眠ってますが命の危険は去りました。 ところでカガセさんはずいぶん派手にやられたようですね」


「言わないでくれロッシュさん……俺が一番恥ずかしいんだ」


 折れた刀を携えた青年の腹には、黒い布地の上でもわかるほど赤い染みがべっとりと張り付いている。

自動修復とやらで傷自体は癒えたが、出血自体はなかったことにはできない。 街を歩く際にも人目を集めてしまったものだ。


「おお、戻ってきたか。 うちの工房特製ゴーレムは役に立ったか?」


「アルニッタさん、ごめんなさい! 大五郎がこんな姿に……!」


『ワンワン!』


「なんじゃぁ!? 何がどうしてこんなむごい姿に!?」


「まあ色々あったんだ、申し訳ないが修理はできないか?」


「まあ核は無事じゃから可能ではあるが……」


「お願いします、大五郎を治してください!」


「むぅ……まあ善処するわい、なんとか壊さず持ち帰ってくれたようじゃからな」


 アルニッタはモモ君からゴーレムを受け取ると、職人たちを呼んで作業場へと移動していった。

あれだけ損傷がひどいと大掛かりな作業になるはずだ、しばらくは戻ってこない。


「……それで、何があったのか聞いてもよろしいでしょうか? カガセさんが負傷するとなるとただ事ではないでしょうから」


「ああ、僕らも情報を共有したかった。 アルデバランの事件とも関係がある話だからね」

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