大惨事対戦 ④
「……全員生きているか?」
「な、なんとかぁ……」
ガレキに上半身が埋もれたまま、足だけが地上に露出しているモモ君が答える。
すでにウォーと名乗ったあの少女の気配はない、魔力の気配を感じない彼女を今から探し出すのは不可能だ。
「逃げ足が速いな、また出会わないことを願おう」
「あのー……ところでそろそろ引っこ抜いてもらえません?」
「僕の筋力で君を引っ張り上げられると思うなよ、あの聖人はどこにいった?」
「ここだここ! クッソ、玩具みたいに人の刀砕きやがって!」
まるで墓から蘇るグールのように、ガレキの下から青年が這い出てくる。
その手には未練がましく折れたカタナが握られている、あれでは修復もほぼ不可能だろう。
「負傷しているところ悪いが、モモ君を引っ張り出してくれ。 僕の力じゃ無理だ」
「お手数おかけします……」
「うおっ、某神家の一族みたいになってる。 ちょっと待ってろ」
周りのガレキを手早く退かし、モモ君の体が無事に発掘される。 その手にダイゴロウの胴体を抱えながら。
彼女の膂力なら無理やり脱出することもできたのではないかと疑問に思ったが、これが原因か。
「ありがとうございます、大五郎も無事です! ……治りますか?」
『クゥーン……』
「ボディは作り直しだが、核は無事のようだな。 これなら直しようはある」
「よかったぁ、壊しちゃってごめんね大五郎」
『ワフッ』
ここまで破壊されたゴーレムなら、いっそ廃棄して新しいものを仕立てた方がコストは安いが、言う必要はないだろう。
モモ君のことだ、どれほど金がかかろうが自費を切ってでもダイゴロウの修理を願い出るに違いないのだから。
「周りは……とくに大きな被害はなさそうだな、細かいところはあとでアマツガミで対応しよう。 それより工房に戻ろうぜ」
「………………ああ、そういえば元々はプレリオンのせいだったな」
「師匠、今完全に忘れてましたよね」
そもそもこんな街の端までやってきたのは、逃げた術師を追うためだった。
犯人自体はウォーの手で殺害されていたが、おかげでプレリオンに欠けられた衰弱の呪詛も効力を失っているはずだ。
「死体は……どうする? たぶんこの下でグシャグシャになっているぞ」
「あー…………元々にアマツガミが買った恨みだ、こっちで回収しておくよ」
「……なんで殺されちゃったんでしょうか、あの人」
モモ君がガレキの山に向けて手を合わせ、死者の安寧を祈りながら疑問をこぼす。
本当にお人好しの大馬鹿娘だ、自分を殺そうとした相手に死後の安らぎを願うなんて。
「おそらくあの男はウォーと繋がっていた、そして狙いは渡来人のトップともいえるアマツガミの聖人……つまり君だったのだろう」
「本来は呪いに侵された百瀬ちゃんをエサにするつもりが効かず、プレリオン少年が犠牲となった。 そこが敵にとって誤算だったんだな」
「……私たち以外の人に危害が加わったから、怒ったウォーちゃんに殺された」
「そういう事になるな、彼女には彼女の流儀があるようだ。 自分のせいでプレリオンが被害を被ったと思うか?」
「わかんないです、なにも。 だから私でもわかるように、ウォーちゃんたちと話し合いたいです」
「悠長だな、相手は君を殺す気なんだぞ。 話し合いが通じるとは思えない」
「だとしても話します。 ウォーちゃんが渡来人を殺したいように、私は彼女たちと話し合いがしたいです。 相手がワガママ言うなら私もワガママになります!」
バカだ、アホだ、お人好しだとこれまで何度も再確認してきたが、やはりこの子は変わらない。
どんな理不尽にさらされようが、自分の芯を押し通そうとする我の強さを持っている。
自己中心的な脳みそを持った連中はこれまでも見たことはあるが、ここまで甘ったるい理想を貫くバカはモモ君含めて2人しか見た覚えがない。
「だから師匠、急に首を折れなんて言われても私やらないですからね! 師匠が物騒なことしても止めますから!」
「あーはいはい悪かった悪かった、だが君に止められる僕と思うなよ。 次こそ必ず仕留めて見せる」
「あんたら仲いいのか悪いのかどっちなんだ?」
「「見ての通りだよ!」」
「わっかんねえから聞いてんだよなぁ……けど百瀬ちゃん、彼女たちってのはどういうことだ?」
「ああ、前にもウォーちゃんと似た子と会ったことあるんですよ。 師匠、もしかしてラグナちゃんってウォーちゃんと姉妹なんですかね?」
「……待てモモ君、わりと重要なところ突いてないか君?」
――――――――…………
――――……
――…
「あんのホワイト……そしてピンク……あとブラック……! 絶対に許せんのです……!」
痛む体を引きずりながら、かすかな腐臭が漂う貧困街を歩く。
どんな場所でも貧富の格差は生まれる。 リゲルの中でも打ち捨てられた者たちが集まるこの場所は、身を隠すには適している。
予想通り追手の気配もない。 降り注ぐガレキの中を逃げるために無茶をした、今は体を休めなければ。
「なんだなんだ、無様な格好だなぁウォー? どこのクソガキにいじめられた?」
「……あいかわらず品のねえやつなのですよ、姉として恥ずかしいのです」
上から降ってくる嘲りに、睨み返すように視線を上げる。
かろうじて原形を保っている家屋の上、バカデカいハンマーを担いだ金色の少女がこちらを見下ろしていた。
「―――――ラグナ、お前……」
「どうした、助けが必要ってなら姉想いな妹が一肌脱いでやろうか」
「いや、パンツ見えてるのです。 カッコつけてないでさっさと降りてこいなのですよ」
「お前そういうこと先に言えお前!!」
顔を赤くした妹が、股下を隠しつつ屋根から飛び降りる。
こうして顔を合わせるのは“前回”ぶりになる。 なんとも締まらないが、これが“今回”初となる妹との再会だった。
「……で、誰にやられた? 強い奴ならオレにやらせろよ、お姉ちゃん」




